130万人以上失業増の可能性。20兆円超の需要不足を埋める対策必要
要旨
● 政府は5月31日までとなっている緊急事態宣言について、京都、大阪、兵庫の近畿3府県を一括解除する検討に入った。これが実現すれば、解除前に比べて最大+0.2兆円の家計消費とGDPの押し上げとなる。また、この解除により▲1.1万人の失業者が減少する計算になる。
● しかし、民間エコノミストのコンセンサスでは2020年4-6月期の経済成長率見通しは年率で▲21.3%に落ち込むとみられている。より重要な雇用環境を見ても、民間エコノミストのコンセンサス通りに2020年のGDPが25兆円以上減ると仮定すれば、リーマン後の+113万人を上回る+130万人以上の失業者が発生する計算になる。
● リーマン・ショックや欧州債務危機等でただでさえ長期停滞に陥っていた世界経済に甚大なダメージが及ぶことになりかねず、鋭く急で深い景気後退が長期化する可能性もある。民間エコノミストのコンセンサスを基に日本のGDPギャップを延長すると、2020年4-6月時点でリーマン後の最大となる年換算30兆円超を上回る同40兆円以上の需要不足となり、2021年度末時点でも20兆円以上の需要不足となる。したがって、今後打ち出される経済対策は、20兆円超の需要不足を埋める規模の財政政策が必要となろう。
● 今回のコロナ・ショックでは、ショックが起こる以前から世界が米中通商摩擦を中心に保護主義に傾斜していたこともあり、米中が互いに責任を押し付けあい、欧米でも緊密な連携を欠いている。こうした危機的な状況でこそ国際協調が不可欠。
近畿三府県緊急事態宣言解除の影響
政府は5月31日までとなっている緊急事態宣言について、京都、大阪、兵庫の近畿3府県を一括解除する検討に入った。緊急事態宣言が解除されたとしても、経済活動が完全に戻るわけではないものの、3密対策を施したうえで営業活動を再開する動きが広がるため、経済活動へ好影響が及ぶことが期待される。
緊急事態宣言発動に伴う外出自粛強化により、最も影響を受けてきたのが個人消費である。中でも、2019年の家計調査(全世帯)を基に、外出自粛強化で大きく支出が減ると想定される不要不急の費目を抽出すると、外食、設備修繕・維持、家具・家事用品、被服及び履物、交通、教養娯楽、その他の消費支出となり、支出全体の約55%を占めている。
そこで、北海道、首都圏の不要不急消費(シェア36.6%)が5月末まで止まり、特定警戒以外の34県(シェア35.6%)と特定警戒地域で解除される8県(シェア14.2%)の不要不急消費が15日から月末までそれぞれ2/3、1/2の水準まで戻り、近畿3都府県(シェア13.6%)の不要不急消費も22日から月末まで1/2の水準まで戻ったと仮定すると、通常に比べて最大▲14.1兆円(解除前▲14.3兆円)の家計消費が減ることを通じて、GDPベースでは通常に比べて最大▲12.0兆円(解除前▲12.2兆円)となり、年間GDP比でトータル▲2.2%(解除前▲2.2%)の損失が生じることになる。また、近年のGDPと失業者数との関係に基づけば、この損失により+61.6万人(解除前+62.7万人)の失業者が発生する計算になる。
つまり、今回の解除により解除前に比べて最大+0.2兆円の家計消費とGDPの押し上げとなる。また、この解除により▲1.1万人の失業者が減少する計算になる。
戦後最悪のインパクト
しかし、既に新型コロナウィルスの景気や消費に及ぼす影響は甚大となっており、回復の手掛かりをつかめていない。2020年1-3月期に前期比年率▲3.4%だった日本の経済成長率も、民間エコノミストのコンセンサスでは2020年4-6月期に年率で▲21.3%落ち込むとみられている。 これを戦前の世界大恐慌に相当すると言われたリーマン・ショック前後と比べれば、日本の経済成長率はリーマン後の2009年1-3月期に▲17.8%まで落ち込んだ。したがって、コロナ・ショックの衝撃は短期的にリーマン・ショックを凌ぐと見られている。
より重要な雇用環境を見ても、民間エコノミストのコンセンサス通りに2020年のGDPが25兆円以上減ると仮定すれば、近年のGDPと失業者数との関係に基づき+130万人以上の失業者が発生する計算になる。
リーマン・ショック後の日本を振り返っても、失業者は1年間で+113万人増え、実質GDPがトレンドラインに戻るまでに2年の歳月を要した。そして、震源地の米国よりも日本の経済成長率の落ち込みが大きかった背景には、当時は特に輸出先を失った製造業の打撃が大きく、より加工組み立て型製造業の輸出依存度の高い日本経済が窮地に追い込まれた。
しかし今回のコロナ・ショックでは、感染拡大を防止するために、まさに戦時中のように営業停止や外出の制限、イベント中止など直接ヒトやモノの流れが停滞している。このため、カネの流れが停滞して需要が急減したリーマン・ショック時に比べて直接需要が急減する違いが指摘できる。
コロナで世界は分断、経済麻痺
このため、コロナ・ショックとリーマン・ショックとでは、各国の経済対策の打ち出し方に違いが見られる。カネの流れが停滞したリーマン・ショックでは、カネを動かすための金融・財政政策が最優先となったが、コロナショックでは、感染拡大の防止を優先せざるを得ない状況になっている。このため、各国政府は人為的に経済活動を抑制せざるを得なくなっており、世界的な移動制限が課されている。特にEUでは、国境が復活する事態に陥っており、新型コロナウィルスの感染拡大が第二次世界大戦以来、最も劇的な世界経済危機の引き金になると警告されている。
特に今回の新型コロナの経済的影響は、サプライチェーン寸断や店舗営業停止等により供給面に打撃を与えているだけではなく、感染拡大抑制のための外出抑制等を通じて需要も大きく損なわれているのが特徴だ。
また、これまで経験したことのないレベルの不確実性の高まりに加え、リーマン・ショック後に金融政策に頼りすぎたことによる金融市場の過熱や債務膨張等も相まって、ダメージは金融市場にも広がっている。
このため、リーマン・ショックや欧州債務危機等でただでさえ長期停滞に陥っていた世界経済に甚大なダメージが及ぶことになりかねず、鋭く急で深い景気後退が長期化する可能性もあるといえよう。なお、民間エコノミストのコンセンサスを基に日本のGDPギャップを延長すると、2020年4-6月時点でリーマン時の最大年換算30兆円超を上回る40兆円以上の需要不足となり、2021年度末時点でも20兆円以上の需要不足となる。したがって、今後打ち出される経済対策は、20兆円超の需要不足を埋める規模の財政政策が必要となろう。
また、リーマン・ショック時にはG20が金融・財政政策面において高いレベルで協調することで危機を克服することができた。しかし、今回のコロナショックでは、ショックが起こる以前から世界が米中通商摩擦を中心に保護主義に傾斜していたこともあり、米中が互いに責任を押し付けあい、欧米でも緊密な連携を欠いている。この点でも今回の危機が第二次大戦級と言われる所以だが、こうした危機的な状況でこそ国際協調が不可欠であろう。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 首席エコノミスト 永濱 利廣