現在、日本では所有者不明の土地が急増しています。その面積は2040年に国土の約2割になるとの推計もあり、これにより公共工事が進められない、税金がかけられないといった問題が深刻化しています。この状況を打破するため、国は複数の法律改正を進めています。その背景と主な取り組みを、わかりやすく解説します。
所有者不明の土地が存在・増加する3つの理由とは?
所有者不明の土地とは、登記簿や各種台帳などを確認しても所有者がすぐに判明しない、あるいは登記簿に記載されている所有者と連絡が取れない土地などのことです。このような土地が存在・増加する理由は、3つあります。
1つ目は、登記名義人が亡くなった時に相続人全員と連絡が取れない(または把握できない)ため、不動産登記ができないことです。2つ目は所有者台帳に共有者が記載されていないケースで、かつて周辺住民が共有していた入会地(いりあいち)などが該当します。3つ目は、手間や税金負担などを回避するため、登記を放棄しているケースです。
所有者不明の土地によって「行政の問題」と「税金の問題」が浮上
このような所有者不明の土地は、2016年時点で全国に410万ヘクタールもあることが確認されています。これは、九州の面積を上回る広さです。このまま有効な対策が講じられなければ、2040年までに720万ヘクタールまで広がるとの予測もあります(国土計画協会の研究会推計)。これは国土の約2割、北海道の面積に迫る広さです。
所有者不明の土地が増える背景について、横浜国立大学大学院・岩崎政明教授は税務大学校の公開講座で「行政の問題」と「税金の問題」があると指摘しています。
・行政の問題:公共事業を行うときに収用や使用ができない
・税金の問題:誰の土地か分からないため固定資産税や相続税をかけられない
上記の問題などによる経済的損失は、2017年~2040年で約6兆円に上るとの推計もあり、国にとっては大きな負担となっています。この状況を改善するため、所有者不明の土地への対策が進められているのです。
行政の問題への対策
所有者不明の土地の2つの問題のうち、「行政の問題」については「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(令和元年6月1日全面施行)」という法律によって大きく前進しました。
まず、所有者不明の土地を公共事業に利用するため収用などをしたい場合、都道府県が裁定することでスムーズな審理手続きができるようになりました。
また公園の整備などに活用する際は、都道府県の裁定によって10年間の使用権を上限に利用できるようになりました。この制度は、自治体だけでなく民間企業やNPO、町内会なども利用できます。
税金の問題への対策
「税金の問題」についても改善策が進んでいます。「令和2年度 税制改正の大綱(令和元年12月20日閣議決定)」で、所有者不明の土地に関する固定資産税への対応として、対象の土地・家屋などの登記簿上の所有者が亡くなっている場合、事実上所有している人に課税できるようになります。
また、市町村が一定の調査を実施しても所有者がわからない場合も、事実上所有している人を固定資産課税台帳に記載し、課税できるとしています。
2020年以降も所有者不明の土地への対策が次々と
今後も、所有者不明の土地には次々と対策が講じられることになるでしょう。日本経済新聞では、2020年以降に制度化される対策として以下の項目を挙げています。
・相続登記を義務化
・所有権の土地所有権の放棄を容認
・遺産分割に期間制限
・登記簿と戸籍をシステム上で連携
これらが実現すれば、所有者不明の土地の増加に歯止めがかかり、さらには減少も期待できます。土地が利用・売買しやすくなることは、国だけでなく、民間企業や個人投資家にとってもプラス材料です。今後の施策に注目しましょう。(提供:Wealth Lounge)
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