要旨

● 政府は27日に2020年度の第二次補正予算案を閣議決定。事業規模は233.9兆円と打ち出されているが、この数字には過去のコロナ対策予算や昨年12月の経済対策の一部、直接支出の伴わない融資が計上されている点には注意が必要。今回の補正予算において、特別会計や地方歳出分も勘案した真水額は約33.1兆円。過去3度のコロナ対策と合わせた真水は計61.6兆円程度になる。

● 内容は資金繰り支援にかかる実質無利子化にかかる経費などが中心。また、10兆円もの予備費が計上されており、これは近年例がない点。今後の感染状況に不確実性が残る中において、不測の事態に対応するために財源を確保しておいた形である。このほか売上の減少した事業者への家賃の補助や、4月の緊急経済対策で実施した持続化給付金の対象拡大等が盛り込まれた。企業の支払った休業手当の一定割合を給付する雇用調整助成金も上限額が引き上げられるほか、休業手当のない労働者には雇用保険の仕組みを活用した給付金が設けられる。

● 内容から明らかなように、予算の性質としては事業者、家計に対する生活保障の側面が強い。この点は4 月の緊急経済対策と同様だ。今回の補正には多額の予算が計上されているが、うち10兆円が予備費で使途が定まっていない点に鑑みても、近々の景気浮揚を期待するものではないだろう。

● 予備費の消化を前提とすれば、一般政府の財政収支は▲17.2%(約92兆円)まで拡大すると推計。財政赤字は大幅に拡大し、リーマン危機時を大きく上回ることに。コロナ・ショックは金融政策の限界と財政政策へのマクロ経済政策の重心シフトを象徴する出来事となる。

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今回追加の真水額は33.1兆円程度

27日に2020年度の第二次補正予算が閣議決定された。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う4度目の財政措置となる。事業規模233.9兆円と打ち出されているが、この数字には直接支出の伴わない融資の額や昨年12月の経済対策の一部(資料1の1)や、これまでのコロナ対策予算が計上されている点には注意が必要である。

今回追加分について、第二次補正予算案に計上された国費分に加え、特別会計、地方歳出分も勘案して真水額(国と地方が支出する額)を計算すると、約33.1兆円となる(資料1の赤字部分)。4月に閣議決定された緊急経済対策の真水額は28 兆円であり、これを上回る規模となる。事業規模233.9兆円という数字の大きさは割り引いて考える必要があるものの、一連のコロナ対策における真水額は合計61.6兆円に上る(資料1の2、3、4における国・地方支出の合計)。財政支出の規模は歴史的 な水準となっている。

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内容は資金繰り支援が中心、多額の予備費が計上

今回追加分の真水部分について歳出の内訳をみていくと、多くが割かれているのが「資金繰り対策の強化」(11.6兆円)である。日本政策金融公庫や民間金融機関を実質無利子・無担保融資における利子補給などの経費や、資本性資金の供給分などが計上される。次に大きいのが予備費(10.0兆円)。これほど多額の予備費を計上することは近年なく、今回の補正予算案の大きな特徴となっている。感染状況等の先行きが見通せない中で、不測の事態に備えて財源を確保した形である。

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今回新たに設けられた給付金が「家賃支援給付金」(2.0兆円)。売上が減少したテナント事業者に対し、1カ月当たり100万円(法人の場合)を上限に、支払家賃の一定割合を給付する。また、4月の緊急経済対策で措置された「持続化給付金」(売上減の事業者に最大200万円を給付(法人の場合))は、対象の事業者を拡大したことなどに伴い予算が追加されている(1.9兆円)。企業の支払った休業手当の一定割合を給付する雇用調整助成金も上限額が引き上げられるほか、雇用保険の仕組みを活用し、休業者への直接給付金制度が設けられる。

内容から明らかなように、予算の性質としては事業者、家計に対する生活保障の側面が強い。この点は4月の緊急経済対策と同様だ。今回の補正には多額の予算が計上されているが、うち10兆円が予備費であることに鑑みても、近々の景気浮揚を期待するものではないだろう。

財政赤字はリーマン危機時を大きく上回ろう

前回の緊急経済対策と同様に、今回の第二次補正予算の一般会計歳出はすべて国債発行(建設国債:9.3兆円(※1)、赤字国債:22.6兆円)でまかなわれる。4月の第一次補正予算と今回の第二次補正予算によって2020年度の財政赤字は大きく拡大する見込みであり、現状をベースにすると一般政府の財政赤字はGDP比で▲17.2%(約92兆円)程度まで膨らむと推計される(予備費など予算の消化を前提)。リーマン危機時(2009年度▲10.2%、▲50.1兆円)を大きく上回ることになる見込みだ。日本に限らず、各国は今回の感染拡大を受けて財政赤字を大きく拡大させている。コロナ・ショックは先進国が直面する金融政策の限界と財政政策への重心シフトを象徴する出来事となろう。(提供:第一生命経済研究所

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(※1) 今回の予算には公共事業は含まれていないが、財政法第4条では、建設国債は公共事業費や施設費のほか、貸出金や出資金の財源として充てることができる旨が定められている。今回の予算では後者に対応して建設国債が充てられている。


第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
副主任エコノミスト 星野 卓也