要旨

● 緊急事態宣言下の4月失業率は2.6%と3月から+0.1pt の上昇にとどまった。これだけで評価すれば雇用悪化が限定的であったようにも見える。しかし、雇用関係を保ちながら4月に働かなかった人=休業者数は前年同月から420万人増と急増している(前年同月の3.4倍)。

● 休業者は、雇用関係が維持されているものの、給与が得られていない人や本来の給与から減額された休業手当を受け取っている人が多いと考えられる。家計所得は大きく悪化していると考えるのが自然だ。失業率(失業者/労働力人口)の分子に休業者を加えた値(季節調整値)は、3月5.3%→4月11.4%に急上昇した。失業率は経済環境の悪化を過小評価している。

● 休業者を性・年齢階層別にみるとすべてのレイヤーで大きく増加。特に女性の休業者数の増え方が著しい。育児休業の延長を選択する人の増加や学校の休校などが影響している可能性が高い。感染による重症化リスクが高いと考えられる60歳以上、学生アルバイトが中心である18~21歳の休業者数も明確に増加している。

● 緊急事態宣言の解除によって、5月は幾分こうした動きが和らぐ可能性があるが、業績悪化の影響が雇用に波及するまでにはタイムラグがある。今後は失業者が増加していく可能性が高い。

雇用
(画像=PIXTA)

失業率に現れない休業者数の爆増

総務省が公表した4月の労働力調査によれば、完全失業率は2.6%と3月から+0.1pt 上昇した。4月に発令された緊急事態宣言下、外出自粛などの経済活動悪化の影響が労働市場にじわりと悪影響を及ぼしている。ただ、失業率の上昇幅は+0.1%pt にとどまる。これだけみれば、新型コロナの感染拡大にもかかわらず、雇用への悪影響は限定的、との評価も可能な数字である。

しかし、影響は失業者ではなく休業者に如実に現れている。4月の休業者数(原数値)は597万人であり前年同月から420万人増加、比率をとると3.4倍に増えている。休業者数は就業者数の内数であり、「仕事を持ちながら調査週間中に少しも仕事をしなかった者のうち、給料・賃金の支払いを受けている者、又は受けることになっている者」(雇用者の場合)を指す。休業者数は就業者数の内数であり、休業しても失業にはカウントされないため、失業率の数字には影響は及ばない。

レイオフが日常的に行われるアメリカでは、経済活動の悪化が即座に失業者数として表れる一方、日本企業は雇用保蔵を重視する傾向があるため、失業者数は即座に増えにくい。しかし、その影響は休業者数の増加という形で表れている。休業者の中には、有給休暇や会社の特別休暇の取得等を通じて従来通りの賃金を得ている人以外に、給与が得られていない人や労働基準法の「休業手当」が支給されている人も多く含まれると考えられる。休業手当の最低ラインは平均賃金の6割だ(労働基準法で定められている)。休業者の中には、従来よりも賃金が大きく減っている人が含まれている可能性が高い。家計の所得環境は悪化していると考えるのが自然だ。

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これを含めて労働力人口に対する割合を見たものが資料3である。分子に休業者数を加えた失業率(筆者の季節調整値)は、3月5.3%→4月11.4%に急上昇している。

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性・年齢階層別、すべてのレイヤーで休業者数は増加

休業者数の動向を性・年齢階層別に季節調整をかけてプロットしたものが資料4だ。すべてのレイヤーで休業者数が大きく増加していることが確認できる。特に多いのが女性の休業者数の増加だ。女性は出産・育児のための休業者がそもそも多いが、今回の新型コロナ感染拡大を受けて育児休業の延長を選択する人が増えたことも影響していると考えられる。感染による重症化リスクが高いと考えられる60歳以上、学生アルバイトが中心である18~21歳の休業者数も明確に増加している。

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5月は幾分和らぐ可能性があるが、雇用環境の悪化傾向は続く見込み

5月は緊急事態宣言が解除されたことに伴って、幾分こうした休業者数の増加は和らぐことになる可能性があろう。しかし、企業業績の悪化が雇用の悪化に波及するまでにはタイムラグが生じる。また、緊急事態宣言が解除されても、「新たな生活様式」のもとで経済活動は制約された状態が続くことになる。今後は雇用の悪化に波及していくとみられ、失業者数は増加傾向を辿る可能性が高い。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
副主任エコノミスト 星野 卓也