シンカー: 新型コロナウィルス問題により景気が急落した後の回復の形は、I、L、U、V型が考えられる。疫学的なI以外の形を決し、デフレ完全脱却への元の道に戻れるかを左右するのは、信用、設備投資、リフレという三つのサイクルの動きである。信用サイクルが腰折れなければ、コロナショックが緩和していく中で、これまでのビジネスと雇用の拡大のメカニズムが維持され、景気の形は急激に落ちた後に底を這うL字型を回避し、回復を始めることができる。その後、これまでの新たなテクノロジーの発展のモーメンタムなどを背景に、政府の経済政策などの支援もあり、コロナショック下でのIT技術の活用の経験がイノベーションを促進し、投資活動の再活性化で設備投資サイクルが上振れれば、景気回復の形は緩慢なU字型から迅速なV字型に進展する。強力な財政拡大と金融緩和のポリシーミックスの継続で、復活したネットの資金需要を日銀がマネタイズする形が強固となれば、アベノミクス1.0で欠落していたリフレサイクル(経済とマネーが膨張する力)の上振れをともなうアベノミクス2.0が稼働し、デフレ完全脱却への元の動きに戻った後、その動きは加速するだろう。
新型コロナウィルス問題による景気の形
I字型 (落ち続ける): 経済学よりも疫学的な問題で感染爆発により経済構造が崩壊。
L字型 (底を這って回復がない): 企業のデレバレッジとリストラが再発し、雇用所得環境が悪化しながらデフレに再突入。
U字型 (回復は緩慢): 堅調な雇用所得環境に支えられて経済の自然治癒が進むが、追加的な景気押し上げの力がない中でデフレ脱却は遠のく。
V字型 (一気に回復力を取り戻す): ITの新技術などを背景とした企業の設備投資の拡大で強い景気回復に。財政拡大・金融緩和のポリシーミックスの力で、デフレ脱却へ向かう元のパスへ。
W字型 (再発による二番底): ワクチン開発の成否や集団免疫獲得の有無、ウィルス変異のリスクなどの疫学的な問題。
三つのサイクルと景気の形
①信用サイクル(日銀短観中小企業貸出態度DI)が腰折れなければ、景気はLを回避しUに進展。
②設備投資サイクル(実質設備投資GDP比率)が再び上向けば、景気はUからVに変化。
③リフレサイクル(ネットの資金需要)が上振れれば、アベノミクス2.0が稼働。
図:日銀短観金融機関貸出態度DI(信用サイクル)と失業率
図:設備投資サイクルと企業貯蓄率
図:ネットの国内資金需要(リフレサイクル)
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司