よくできているから壊しにくい「定年」という歪んだ制度
――これらはいずれも「非人間的制だ」と出口氏は指摘する。
「例えば、一括採用は、大学卒業時を逃すと就職が極めて難しくなる理不尽な仕組みです。これではおちおち留学や、大学院進学も検討できない。通年採用のほうが合理的ですし、学生の選択肢も可能性も広がるはずです」
――終身雇用・年功序列・定年制度も同じく、自然に反していると語る。
「恋愛ならば、つきあってみて、お互いに合わなければ別れますよね。就職も本来そうあるべきなのに、多くの人が自分を殺してまで勤め上げようとする。いわば、仮面夫婦の人生です。
年功序列も同じく、能力ではなく年齢で給与が上がる不思議な仕組みですし、定年に至っては、ある年齢で強制退場という、まさに理不尽の極みです。
ちなみに、英語には定年という言葉はありません。あるのは『リタイア』。年齢に関係なく、辞めたければ辞める、働きたければ働く。こうした個人の自律性が、日本にはない。個人は制度に合わせて我慢を強いられているのです」
――四つの制度は、さらに非人間的な仕組みを発生させた。
「それは、転勤です。終身雇用で一生面倒をみる以上、複数の事業所を経験してもらおうという考え方ですが、これは二つの点で人間性を無視しています。一つは、社員にとっての家庭を『飯・風呂・寝る』のみの場に限定し、地域との関係を後回しにさせること。もう一つは配偶者の――多くの場合は妻の仕事や人生を無視していることです」
――高度成長期やバブル時代がとうに過ぎ去った今も、この制度が生きているのはなぜだろうか。
「政府や経団連の顔ぶれを見れば一目瞭然。全員が60~70代の男性、このシステムのおかげで成功した人々です。人口と経済の膨張期においては、確かにこのシステムはよく機能しました。しかし、それゆえに解体が難しい。成功は失敗の典型、ですね」
今のうちから勤務先以外の働き場所を開拓しよう
――以上を踏まえると、50歳という年齢の捉え方は大きく変わってくる。
「歪んだシステムによって作られた、歪んだ認識を正せば気づくはずです。50代こそ、チャンスの時期だと」
――昔と今を比べると、システムの恩恵に浴せなくなった半面、それを補って余りある利点を50代は持っている。
「その筆頭が、体力です。2017年に、日本老年学会と日本老年医学会は連名で『高齢者の定義を75歳以上にすべし』と提言しました。身体的な年齢は、昔の65歳よりも若いのだと。ならば70歳を過ぎてもバリバリ働けます」
――人手不足によって、年齢を問わず働き口があることも大きい。
「今後、働き手はさらに減ります。5年後には後期高齢者入りする団塊世代が約200万人いる一方で、新しく入ってくる社会人は約100万人。職業さえ選ばなければ、仕事は山ほどあります。実際、APUのある大分県別府市でタクシーに乗ると、運転手の募集広告がいつも目に入ります。
『起業に向けて資金を貯めたい人、アルバイトしたい人、副業に興味のある人大歓迎』。パートタイムでもいいからとにかく人手が欲しい、ということでしょう」
――副業は、50歳以降の人生を変えるキーポイントだ。
「今のうちから、勤め先と別の働き場所を開拓すべきです。企業はもちろん、NPOやボランティアの場を探すもよし、友人と起業を検討するもよし。週末や空いた時間に、様々な場に顔を出して、50歳以降に何をしたいかを考えましょう。これまでに積んだスキル・経験・人脈が大いに活かせるのも、50代ならではの強みです」
――さらにもう一つ、利点がある。この年齢になればたいてい、手の掛かる子育ての時期を終えていることだ。
「子供の独立を間近に控えた人も少なくないでしょう。体力・労働力不足・スキル・子供の独立。四つの好条件がそろった50代は、まさに無敵なのです」