シンカー:日銀資金循環統計から作られる企業貯蓄率の上昇は、デレバレッジやリストラが強くなるなど企業活動の鈍化を意味し、景気下押しとデフレ悪化の圧力となる。企業は資金調達をして事業を行う主体であるので、マクロ経済での貯蓄率はマイナスであるはずだ。しかし、日本の場合、1990年代から企業貯蓄率は恒常的なプラスの異常な状態となっており、企業のデレバレッジや弱いリスクテイク力、そしてリストラが、企業と家計の資金の連鎖からドロップアウトしてしまう過剰貯蓄として、総需要を追加的に破壊する力となり、内需低迷とデフレの長期化の原因になっていると考えられる。一方、企業貯蓄率の低下は、企業の投資意欲が強くなり過剰貯蓄が総需要を破壊する力が弱くなり、企業活動の回復により景気押し上げとデフレ緩和の圧力となる。企業貯蓄率が正常なマイナスに戻り、総需要を破壊する力が一掃されたところがデフレ完全脱却のポイントとなる。企業活動の強弱が、景気サイクルを決めていると考えられ、企業貯蓄率はその代理変数となる。新型コロナウィルス問題により企業活動は明らかに停滞しているようだ。企業心理が著しく悪化し、企業が流動性の確保のためキャッシュを積み上げ、雇用調整を含むリストラが再発すれば、企業貯蓄率が更に上昇し、総需要を破壊する力が拡大してしまう。新型コロナウィルス問題の終息後の経済活動のリバウンドを妨げるとともに、デフレ完全脱却に向かう元の道に戻れなくなってしまうリスクが高まる。企業貯蓄率が急上昇することがないかチェックするために動きを追うこと、そしてそれを防ぐための政府・日銀の経済政策がとても重要になってきている。企業貯蓄率のレシピを解説する。そして、企業貯蓄率と財政収支を合計したものがネットの資金需要で、総需要を生み出す力、資金が循環し経済とマネーが拡大する力、家計に所得が回る力、即ちリフレサイクルが拡大する力となる。企業貯蓄率の上昇をオフセットし、財政拡大でネットの資金需要を復活させられるかが、新型コロナウィルス問題後の景気回復の力強さを決する。新型コロナウィルス問題が出始めた1-3月期の資金循環統計の公表は6月25日である。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

日銀資金循環データ抽出方法

  1. 日本銀行のウェブサイトにアクセスする( http://www.boj.or.jp/ )上部タブから統計タブを選択。

  2. ページ中央部分の時系列統計データ検索サイトをクリック。 時系列統計データ検索サイトが開いたら、中央部分のデータコードの直接入力をクリック。

  3. 下記のデータコードを入力し展開をクリック。

FF'FOF_FFAF100L700
FF'FOF_FFAF410L700
FF'FOF_FFAF440L700
FF'FOF_FFAF430L243

  1. 金融機関、非金融法人、対家計民間非営利団体の資金過不足、家計の負債側の企業・政府等向け貸出の表示を確認し、各チェック項目を選択後、抽出条件に追加をクリック。

  2. 抽出条件部分でで抽出期間を入力(最低でも1年以上前からを入力)

  3. ページ下部の抽出をクリックし、次に出てくるページでダウンロードをクリック。

  4. ダウンロードされたCSVファイルを新Excelファイルにコピーする。

  5. データは億円単位なので、10000で割り兆円単位に変える。

注:)1998年3月以前は旧資金循環統計(四半期・フロー)を法人企業と金融機関をつかう。

GDPデータ抽出方法

  1. 内閣府の統計情報・調査結果のページにアクセス( http://www.esri.cao.go.jp/index.html

  2. ページ中部の国民経済計算(GDP統計)をクリック。

  3. 次のページの中央部分の最新の四半期別GDP速報の統計表一覧をクリック。

  4. ジャンプしたページの中央部分にある四半期の実額の原系列をダウンロード。

  5. ダウンロードしたファイルを資金循環統計のデータが入っているExcelファイルにコピー。データは10億円単位なので、1000で割り兆円単位に変える

  6. データは10億円単位なので、1000で割り兆円単位に変える

企業貯蓄率の計算方法

  1. 各四半期毎に資金循環統計の金融機関、非金融機関、対家計民間非営利団体の過不足のデータの和を計算。

  2. 合計した和から家計の負債側の企業・政府等向け貸出を引く

  3. 計算した過去3四半期の過不足の合計を足し、4四半期累計を計算する。

  4. それを同く4半期累計の名目GDPで割り100でかけたものが、四半期の企業貯蓄率である。

  5. 断層を調整するため、民営化及び資金注入などを考慮し企業の貯蓄率に1998年第1四半期は2.5、1998年第2四半期から第3四半期までは3.5を足す。1998年第4四半期は2.0、1999年第1四半期は2.5、1999年第2四半期をは3.5、1999年第3四半期は4.0を引く。また、2003年第2四半期から2004年第1四半期までは1を足す。

政府貯蓄率(財政収支)の計算方法

  1. 四半期毎に資金循環統計の一般政府の過不足データと過去3四半期の過不足を足し、4四半期累計を計算。

  2. それを同じく4半期累計の名目GDPで割り100をかけたものが、四半期の政府貯蓄率(財政収支)です。

  3. 断層を調整するため、民営化及び資金注入などを考慮し企業の貯蓄率に1998年第1四半期は2.5、1998年第2四半期から第3四半期までは3.5を引く。1998年第4四半期は2.0、1999年第1四半期は2.5、1999年第2四半期をは3.5、1999年第3四半期は4.0を足す。

ネットの国内資金需要(トータルレバレッジ)の計算方法

  1. 各四半期毎の企業貯蓄率と政府貯蓄率の和がトータルレバレッジです。

図)企業貯蓄率と消費者物価(除く生鮮食品と消費税)

企業貯蓄率と消費者物価(除く生鮮食品と消費税)
(画像=日銀、内閣府、総務省、SG)

図)ネットの資金需要

ネットの資金需要
(画像=日銀、内閣府、SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司