要旨

● 総務省「家計調査」によれば、4月の実質消費支出は前年比▲11.1%の減少。4月の消費について品目別に平時とは異なる増え方、減り方をした品目を抽出し、特徴をまとめた。平時と異なる増え方、減り方をした品目は2月26品目→3月98品目→4月195品目と緊急事態宣言の発令で一層増加している。

● 5月以降は緊急事態宣言の解除に伴って、こうした消費の偏りがある程度和らぐとみられるが、外出自体はコロナ前より減った状態が続く可能性が高い。新型コロナに伴う消費の構造変化はしばらく残存する部分も多いだろう。

消費
(画像=PIXTA)

緊急事態宣言で消費はどう変わったか?

本日公表された4月の総務省の「家計調査」によれば、実質消費支出は前年比▲11.1%の減。緊急事態宣言の下で消費に大きな下押し圧力が及んだことが確認できる。マクロベースでは大きく減少した消費だが、品目別にみると増えた消費、減った消費が顕著に分かれている。4月の消費について、品目別の消費支出額で平時とは大きく異なる変動があった品目(各品目毎の前年差が平均±2標準偏差を超える増減を示した品目、2000年~のデータを利用して平均、標準偏差を算出)を抽出した。結果、平時とは異なる動きをした品目は2月:26品目から3月:98品目に急増(※1)。抽出された品目を資料にまとめた。抽出された品目から読み取れる特徴として以下が挙げられる。

(食)

3月同様、外食は軒並み減少品目として抽出されており、おおむね6~8割の減少。厳しい数字ではあるが、テイクアウト営業の増加などがあったと考えられ、減少幅は幾分踏みとどまった印象。

内食の増加に伴い、食材の売れ行きは増加。増加品目として抽出されている品目の多くは食材である。「ウイスキー」や「ワイン」など酒の消費も増。外ではなく自宅で飲酒する機会が増えたことが影響。一方で、「まんじゅう」や生菓子の消費は減。ビジネス需要を含め人と会う機会が減ったことが効いているとみられる。

(生活)

化粧品の消費が減少。テレワークの増加が影響したとみられる。「理髪料」や「温泉・銭湯入浴料」など外出が必要な生活サービスも減少。「人間ドック受診料」や「医科診療代」も減。感染リスクを避けるために病院に足を運ぶ機会が減ったものとみられる。

一方、「浴用・洗顔石けん」や「保健用消耗品」(マスク含む)など感染防止のための製品に対する支出に加え、「ポリ袋・ラップ」など生活用品の売れ行きも増加している。また、「植木・庭手入れ代」が増加。自宅でできるガーデニングなどへの需要が増えた。外出機会の減少からか、「傘」も 減少。

(宿泊・観光)

「国内パック旅行」、「海外パック旅行」、「宿泊料」が減少品目として抽出。それぞれ9割超の減少とゼロに近いレベルにまで減少しており、非常に厳しい。

(教養・娯楽)

「ゴルフプレー料金」「遊園地入場・乗物代」「映画・演劇等入場料」「文化施設入場料」「スポ ーツ観覧料」など外出を伴う娯楽サービスは軒並み減少。「スポーツ月謝」、「スポーツクラブ使用料」「音楽月謝」、「語学月謝」など習い事系のサービスも減少品目として抽出されている。

一方で、「ケーブルテレビ放送受信料」は増加。自宅で過ごす時間が増えたことで新たに契約をした人が増えたとみられる。「ゲームソフト等」は3月に引き続き増加品目。

(モビリティ)

「鉄道運賃」「有料道路料」「タクシー」「バス」など交通系の消費は軒並み減少。「ガソリン」も減少しており、自家用車での移動も減った模様。

(衣料品)

軒並み減少品目として抽出。一方で、「他の生地・糸類」は前年の倍以上に増加。マスクを自作する人が増えたことなどが影響した可能性がある。

(教育)

「ノート・紙製品」「筆記・絵画用具」が減少。学校の休校に伴って消費が減少したと考えられる。「高校補習教育・予備校」も3月に続いて減少。「幼児教育費用」の減少は幼児教育無償化によるものだが、「私立中学校」「国公立中学校」「国公立小学校」の授業料等の減少は休校措置に伴う減免措置などが影響したものとみられる。

(テレワーク・通信)

パソコンが増加品目として抽出。テレワーク環境の整備を行った人が増えた可能性がある。「インターネット接続料」も増加品目として抽出。こちらもテレワークの増加やオンラインでの交流機会が増加したことなどが影響したものとみられる。

(金融)

医療保険料が増加。新型コロナの感染拡大に伴い、医療保険加入が増えた可能性がある。火災・地震保険料も増加品目として抽出されたが、こちらは保険料算出の基準となる参考純率引き上げに伴う値上げの影響が考えられる。

(その他)

「上下水道料」が増加品目として抽出。自宅で過ごす時間が増え、生活インフラの利用が増えていることが影響している。

5月以降は緊急事態宣言の解除に伴って、こうした消費の偏りがある程度和らぐとみられるが、外出自体はコロナ前より減った状態が続く可能性が高い。新型コロナに伴う消費の構造変化はしばらく残存する部分も多いだろう。(提供:第一生命経済研究所

新型コロナでさらに激変する消費構造
新型コロナでさらに激変する消費構造
新型コロナでさらに激変する消費構造
新型コロナでさらに激変する消費構造
新型コロナでさらに激変する消費構造
新型コロナでさらに激変する消費構造
新型コロナでさらに激変する消費構造
(画像=第一生命経済研究所)

(※1) 2月、3月の消費についても同様の分析を行っている。品目一覧はEconomic Trends「新型コロナで激変する消費構造」(2020年5月8 日)を参照。


第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
副主任エコノミスト 星野 卓也