2019年の「人口動態統計」は、出生数が前年比▲5.8%と大きく減少したが、婚姻数は前年比2.1%と「元年婚効果」によって増えた。しかし、コロナ・ショックは、2020年の婚姻数を減らし、若年雇用を悪化させるだろう。先々の出生数を下押しさせる変化が今起こりつつある。
元年婚効果を帳消しに
まず初めに明るい話からしたい。6月5日に厚生労働省が発表した「人口動態統計」では、2019年の婚姻数が前年比2.1%の増加となった(図表)。実数では、2018年586,481人から2019年598,965人へと増えている。これは、令和元年になった年を記念としたいと考える若者達が、「元年婚」をしたためである。実は、2020年初の年間推計では、婚姻数は前年比▲0.6%だったが、改定されてプラスに浮上した。
婚姻数がプラスになると、出生数の押し上げになる点で歓迎すべき変化だ。過去の婚姻数は、震災時に「きずな」という言葉が重視されたこともあり、翌年2012年に前年比プラスになることがあった。2019年はそれ以来のプラスである。婚姻数の趨勢は減少であり、すでに一過性のブームが起きてもその流れは逆転できなくなっている。それが出生数の減少の背景であることは冷静に捉えておくべきだ。
2019年の出生数は、865,234人(概数)と前年918,400人(確定数)に比べて、▲53,166人(前年比▲5.8%)と厳しい数字だ。
2015年までは年間100万人以上の出生数だったのが、僅か4年間で 86.5万人に減った。小学校のクラスが、2015年は1クラス40人だったのが、2019年は35人(▲13.5%)に減ったことになる。仮に、この35 人から17.5 組のカップルができて、1組当たり1.36人(2019年の合計特殊出生率)の子供が生まれたとするとどうなるか。その人数は24人(=17.5組×1.36人)とさらに減る。
さて、今後のことを考えると、2020年にコロナ感染が結婚・出産に与えている悪影響が心配である。例えば、2020年に多くの人を集めて結婚式を開催する人は減るだろう。外出自粛やイベント・集会の自粛によって、若者の出会いの場も少なくなる。2020年のコロナ・ショックは、2019年の婚姻増から一転して、婚姻減を招き、それが後から出生数を押し下げていくだろう。経済産業省「特定サービス産業動態調査」では、結婚式場の取扱件数は2020年1~4月に前年比▲36.1%まで激減している。経済分野でのコロナ危機ほど見えやすくはないが、今後の少子化を加速させるという意味で、も うひとつのコロナ・ショックが起ころうとしている。
出産・結婚に逆風
コロナ感染のリスクに社会が怯えることは、出産・結婚にはどんな影響を与えるだろうか。
まず、離婚が増えたという話題を耳にする。夫婦が自宅で一緒にいる時間が増えるから、コロナ離婚も増えるとされる。
一部の人は、むしろ夜の外出が手控えられることで出産数が増えるだろうと言う。かつて東欧などで戒厳令が敷かれて夜間外出が禁止されると、その効果で翌年の出産数が増えたとされる。
仮に、2020年前半にはそうした効果は一時的にあって、2021年の出生数を押し上げるとしても、筆者はもっと大きな下押し要因が生じつつあると考える。それは、若年雇用の悪化である。すでに2020年4月はアルバイトなど非正規雇用者の休業率が高まっている。一頃の人手不足は、今後数年は人員余剰に転じるだろう。アルバイトなどの時給上昇も進まず、経済的に若者の所得減が問題視される局面になりそうだ。そのことは、若者が結婚・出産に臨む環境としてマイナスに作用する。1990年代の金融不況が、2000年代前半の若者失業を生み、今に至る非正規化の流れをつくった。そうした経済的要因が、日本の少子化を加速させたことは間違いない。今後、再び同じようなショックが生まれることについて、政策当局者はもっと敏感になってよいと思う。
誰が少子化をストップさせるのか?
少子化問題に対しては、従来から多くの識者が発言している。中央大学の山田昌弘教授は、近著「日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?」(光文社新書)で、「欧米中心主義的発想」を指弾している。筆者も山田氏の理解に賛成する。著書では、「未婚化を問題にしてこなかったこと。そして、経済的問題を軽視したこと」が少子化対策を空回りさせた直接要因と書かれている。
山田氏が何度も強調するように、少子化の主たる原因が未婚化であり、そこに若者の経済力の格差拡大があったことは、長く見過ごされてきた。筆者も全く同感であるが、山田氏が著書では指摘していない重要な論点があると思う。
それは、結婚の促進を通じて少子化を止めようという意見が、政治的に推進力を持っていないことだ。国政選挙でも関連するものを見たことがない。最近、唯一見つけたのは、新婚世帯への経済支援という公約に限られていた。結婚を支援しても、子育て支援のように得票に結びつきにくい。そうした利害のエアポケットに結婚という存在はある。
筆者は、結婚を通じて少子化に歯止めをかけることへの動機付けは民間企業の方にあると思う。コロナ危機の後遺症として、外国人労働者が減少して、将来の人手不足のあてにはできないという論点がある。リーマンショックのときも、外国人の就業者は激減した。外国人に過度に依存すると、一度経済危機に陥ると、特定の職種で強烈な人手不足に見舞われる。やはり国内から労働力をある程度は確保できないと、いざというときに困る。民間企業は、その教訓を深刻に受け止めて、もっと少子化対策への実効性のある対応を必要だと考えるようになるだろう。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 首席エコノミスト 熊野 英生