シンカー: 新型コロナウィルスの感染拡大防止策として実施されてきたロックダウン(都市封鎖)などが徐々に解除され始めている。今まで医療面の問題を優先させた決断が経済面の要因も考慮する形に変わってきているようだ。足元では経済活動の再開が始まっているが、ロックダウンなどによる経済が受けたダメージを確認できるのは夏後半になるだろう。また、現段階では景気回復の形もV字の可能性が高いが、U字、L字といった違う形になるリスクも残っている。すでに財政・金融政策は緩和の方向に舵を切り、景気回復の後押しとなっている。また、リーマン危機後と違い、当面緊縮方面に政策が転換するまで時間がかかると考えられる。政策効果と今後の感染防止策などが景気回復の形に大きな影響を与えることになるだろう。新型コロナウィルスの先行きに関して、現段階では第二波が発生しても、全面的なロックダウンが復活する可能性は小さいとみている。ただ、代替シナリオを総じてみると、下振れシナリオは上振れシナリオの約2倍になる予想だ。これは、想定する基本シナリオに対して下方リスクのほうが強いことを示している。
グローバル・レポートの要約
●SG世界経済見通し(6/15):世界経済見通し: 冬眠からの目覚め
ロックダウン解除の道
ロックダウンには途方もないコストがかかるため、出来るだけ早く解除しなくてはならない。これ(解除の判断)は、ロックダウンの効果が想定ほど明らかではないという証拠によって支えられる。また、実際の感染率が公式の確定感染者数が示すよりも遥かに高いことが明らかになれば(新型コロナウイルスのパンデミック=世界的な流行の初期に懸念されていたよりも、状況は大幅に良いことが支援されるため)、その事実にも後押しされる。規制を緩和する際には、医療面の問題だけではなく、経済面の要因も考慮する必要がある。特に、需要が速やかに回復する余地、企業の耐久力、様々なセクターの経済上の重要性である。さらに、ロックダウンに付随して医療面のダメージも発生する。このため、サービス業の小企業とともに、(先進)製造業と建設業が主導することになる。また第二波が発生しても、全面的なロックダウンが復活することは弊社には非常に考えづらい。
すべては景気回復しだい
健康危機により経済が受ける損害は、早くても夏までは不明確だろう。しかし市場の焦点は、すでに景気回復に移っている。弊社は様々な回復の形を描いた結果、大半の国・地域で不完全な(不均衡な) V字型回復になる可能性が最も高い、またGDPは2022年になってもコロナ危機以前の水準には戻らないと考えている。短く言うと、弊社は大半の国の経済がV字型とL字型を組み合わせた回復になると見込んでいる。一方で、米国と弊社がカバーしている新興国の大半では、景気回復はよりL字型に近くなるだろう。
超大型の財政政策、急速な後退期よりも回復期で効果を発揮
財政政策は、多額の財政支出で対応している。しかし、貧困、飢え、ホームレスが差し迫ったリスクになっている場所を除くと、(効果は)景気後退を緩和するよりも、景気回復の後押しという面がほとんどである。2020年の公的セクターの赤字増加は、世界金融危機の1年目やその後の大不況期よりも遥かに大きくなると見込まれる。財政へのダメージは短期的なもので、その後に急速な回復が見込まれることから、1年間の数字を比較するのは適切ではない。ただもう少し長いスパンでみても、財政赤字拡大は大半の国・地域で共通になると弊社は見込んでいる。とはいえ世界金融危機の時期と対照的に、大半の国・地域では、緊縮財政が考えづらいか小幅にとどまると見込む根拠が何点か存在する。
中央銀行は再び救済に乗り出す
財政政策の傍ら、金融市場の急激な凍結にも反応して、中央銀行は再び救済に乗り出している。わずか4カ月間で2019年通年の2倍に当たる利下げを行い、量的緩和(QE)プログラムも劇的に拡大させた(後者は初めてとなったケースが多い)。大半の国・地域は弊社の見たところ、伝統的な金融政策の余地がほとんど尽きた。マイナス金利の導入を拒否している中央銀行が、それを実施する可能性は低いと弊社はみている。弊社は、イールドカーブ・コントロールの方が遥かに優れたツールだと考えているが、ユーロ圏での導入はおそらく不可能だろう。
医療面の不確実性から、代替シナリオも想定
パンデミックの推移が極めて不確実なことから、弊社は(基本シナリオから)上振れ、下振れ両方の代替シナリオを準備した。上振れシナリオ(実現可能性15%)では、効果的な治療法とワクチンの少なくとも一方が素早く(第3四半期に)利用可能となる。だが下振れシナリオ(同30%)では、ウイルス流行が強まり経済活動の正常化が遅れる。総じて言うと、下振れシナリオは(実現可能性、振れ幅などが)上振れシナリオの約2倍だと弊社はみている。これは、弊社が想定する基本シナリオに対するリスクが、下方に大きく傾いているという意味になる。
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司