シンカー:新型コロナウィルス問題に対処するため、財政支出は大幅に増加している。2020年に入ってからの三回の補正予算で、新規国債発行は合計62兆円(GDP対比11%)程度と巨額になっている。一方、日銀は「10 年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う」ことを決定している。年末に向けて、新規国債発行が行われていく中、長期金利を0%程度に誘導するため、日銀の国債買入れペースは増加していくはずだ。長期金利の推計式に、いくつかの前提をおけば、年末までに日銀の国債買入れペースがどのくらい増加するのか試算できる。長期金利を0%に誘導する日銀の国債買入れペースの試算は年35兆円程度となる。これだけの新規国債発行の増加があっても、経済低迷による民間の過剰貯蓄の増加と米国の長期金利の低下もあり、日銀が以前掲げていた目途である年80兆円程度の半分のペースでも、長期金利を0%に誘導できることになる。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

新型コロナウィルス問題に対処するため、財政支出は大幅に増加している。

2020年に入ってからの三回の補正予算で、新規国債発行は合計62兆円(GDP対比11%)程度と巨額になっている(2019年度第一次補正予算4.4兆円、2020年度第一次補正予算25.7兆円、第二次補正予算31.9兆円)。

一方、日銀は「10 年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う」ことを決定している。

現在、日銀は年20兆円程度のペースで国債買入れを行っている。

年末に向けて、新規国債発行が行われていく中、長期金利を0%程度に誘導するため、日銀の国債買入れペースは増加していくはずだ。

日本の長期金利(国債10年金利)は、日銀の短期政策金利(%)、日銀当座預金残高の変化(前年差、GDP%)、米国債10年金利(%)、そして景気動向の代理変数である企業貯蓄貯蓄率(上昇=悪化、低下=改善)で景気循環要因を除去した景気動向に左右されない財政収支の部分である構造的財政収支(GDP%、財政収支全体=A + B企業貯蓄率+構造的財政収支)でうまく推計できる(ゼロ金利政策導入後の1999年からのデータ、4四半期移動平均)。

更に、イールドカーブコントロール(YCC)とフォワードガイダンス(FG)が長期金利を強く抑制しているため、YCCの開始からが1、FGの開始からが2、追加金融緩和後が1.25(既に緩和が行われたため、FGの力が弱くなったと仮定)とする金融政策変数をおく。

長期金利=0.51+0.61日銀短期政策金利+0.11米国債10年金利-0.041(構造的財政収支+日銀当座預金残高変化)-0.37金融政策変数+0.19 アップダミー(誤差が標準誤差以上は1)-0.17 ダウンダミー(誤差が-標準誤差以下は1)、R2=0.99

この推計式に、いくつかの前提をおけば、年末までに日銀の国債買入れペースがどのくらい増加するのか試算できる。

一つ目の前提として、新型コロナウィルス問題による経済活動の低迷で、企業活動が弱くなり、企業貯蓄率は3%程度から7%程度まで上昇(支出が弱くなる)とする。

二つ目の前提として、政府の支出の増加による税収増、特別会計や地方政府の金融資産の増加、そして予備費などの予算の未消化などを考慮し、財政赤字の増加幅は新規国債発行額より小さくGDP対比-2%程度から-10%程度まで拡大するとする。(財投債は、政府の金融資産の増加と負債の増加の両建てであるため、資金循環統計ベースの財政赤字にほとんど影響しない。)

三つ目の前提として、日銀のメインの流動性供給策が国債買入れであるため、日銀当座預金残高の変化が国債買入れの額とほぼ同じとする。

(実際には、その他の資金供給手段でも日銀当座預金残高は増加する。)

四つ目の前提として、FEDの金融緩和スタンスが継続し、米国の長期金利が0.75%程度にとどまるとする。

五つ目の前提として、大規模な新規国債発行の増加があっても、日銀のYCCなどへのマーケットの信頼は継続し、金融政策変数に変化がないとする。

これらの前提をおくと、長期金利を0%に誘導する日銀の国債買入れペースの試算は年35兆円程度となる。

これだけの新規国債発行の増加があっても、経済低迷による民間の過剰貯蓄の増加と米国の長期金利の低下もあり、日銀が以前掲げていた目途である年80兆円程度の半分のペースでも、長期金利を0%に誘導できることになる。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司