大企業・製造業の業況判断DIは、前回比▲26ポイントと大幅に悪化する見通しである。マクロ景気は、この4~6月が大底となり、企業の景況感も大幅に悪化するだろう。注目点は、雇用判断DIがどこまで悪くなるか、企業収益の見方がどこまで厳しくなるかである。資金繰りや金融機関の貸出態度の変化にも警戒しておきたい。
業況は大幅悪化
7月1日に発表予定の日銀短観では、大企業・製造業の業況判断DIが前回比▲26ポイントの悪化となる予測である(図表1)。3月調査では、業況DI は前回比▲8ポイントの悪化であった。この4~6月に景況感は一気に悪くなるだろう。
5月の貿易統計では、前年比▲3割近くの輸出減になった。製造業はこうした輸出関連の需要減に見舞われて厳しい。国内では6月からの経済再開による好影響も期待される。中国の生産持ち直しや、米国の小売売上高の前月比増加といった明るい材料もあるが、今のところ製造業の業況はかなり悪化しているとみた方が良さそうだ。
製造業以上に悪化ペースが大きいのは、非製造業であろう。大企業の業況判断DIは前回比▲38ポイントの悪化。中小企業は前回比▲37ポイントの悪化となる見通しである。前回3月調査は、宿泊・飲食業の急落が目立っていた。6月調査では、小売・サービス業などの幅広い業種に悪化が広がるだろう。
4~5月は、緊急事態宣言による店舗休業を余儀なくされた業種が収益面で甚大な打撃を受けた。ロイター短観、Quick短観でも、急速に景況感が悪化していることがわかる(図表2、3)。
売上・収益の計数の変化で冷静にみる
コロナ危機の中では、マインドが劇的に悪くなるものの、現時点で実数の部分はそれほど大きなマイナス幅ではない。例えば、財務省・内閣府の「景気予測調査」の年度計画でみる限りは、リーマンショックの時よりは減少幅はまだ小さい。コロナ感染という未知なる体験が心理的に恐怖感を刺激しているとしても、企業の体力はまだ頑健な部分が残されているという見方もできる。コロナ危機は、それが本格化してから数か月しか経っておらず、すべての業種で実数のマイナスを生じさせている訳ではないと思う。株価や為替レートが比較的安定していることは、政策対応への期待とともに、まだ頑健な部分が評価されている要因もあるだろう。
短観では、事業計画の計数調査を通じて、そうしたハードデータの変化をみることができる。四半期ごとの景気変化では、この4~6月がボトムになるだろうから、今回の短観で売上・収益計画がどのくらいのマイナス幅になると予想されているかを確認してみたい。
雇用マインドの変化
コロナ危機の打撃が雇用悪化に表れるとみる人は多い。筆者もそうみている1人である。実際に雇用の過剰感がどのくらいなのかを6月調査では確認することがポイントになる。4月の労働力調査では、休業者が597万人も居ることがわかった。失業率こそ4月は2.6%と低いが、企業の感じる雇用過剰感は相当に大きいはずである。
設備投資計画の少し弱含む
6月調査は、2019年度の設備投資計画の実績が発表される。そこでは、大企業・中小企業ともに前年比プラスになるだろう(図表4)。しかし、2020年度については、マイナス計画に転じる見通しである。背景には、先行きの不透明感が強いことがある。設備投資の過剰感も今まで以上に強く表れてくるとみられる
金融・財政政策へのインプリケーション
日銀は、企業の資金繰り支援をバックアップする構えである。6月の決定会合では、銀行を通じた実質的な無利子・無担保貸出を支援し、そこでの資金供給枠を拡大してみせた。さらなる追加緩和も場合によっては検討するという姿勢もみせた。従って、6月の短観では、資金繰り判断DIや、金融機関の貸出態度判断DIの変化にも目を配るであろう。
また、前述の雇用判断DIの悪化は、政府も気にしているだろう。政策的に雇用悪化に歯止めをかけることは優先順位が高いとみられるからだ。6月調査では、業況DIは悪化したが、それが具体的にどういった経済悪化につながっていくかという点を短観を通じて知りたいと、政策当局者は考えるであろう。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 首席エコノミスト 熊野 英生