最近の消費マインドは極端に悪化しているが、家計調査の消費支出の実数はそこまで極端ではない。むしろ、増加している分野もある。本稿では、そうした増加している分野に注目して、外出自粛が厳しかった時期にどういった消費行動の変化が生じていたのかを確認したい。在宅時間が長くなったことが、単なる「巣籠もり消費」という防衛的な内容一色ではなく、新しいニーズをいくつも発生させている。

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(画像=PIXTA)

マインドは極端に悪化

最近の消費マインドは、最悪である。内閣府「景気ウォッチャー調査」の現状判断DIは、1月41.9、2月27.4、3月14.2、4月7.9、5月15.5となった。4月の7.9はリーマンショック時よりも悪く、行き着くところまで行ったという悪さだ。

では、家計消費も、支出額が前年比▲8~9割減になったかと言えば、そうではなかった。総務省「家計調査」(2人以上世帯)の消費支出は、4月の前年比▲11.1%(実質)のマイナス幅に止まっている。注目したいのは、最悪と思えるマインドの下であっても増えている消費分野があることだ。

例えば、食料品は前年比▲6.6%(実質)と減っているが、食料品の中から外食(前年比▲65.7%)を除くと、前年比は7.2%に増加する。4 月はエンゲル係数(=食料費/消費支出)も高いが、食料費から外食を除いたベースのエンゲル係数が2000 年以降でみて過去最高になっている(図表1)。

コロナ禍でも健闘する消費・産業とは?
(画像=第一生命経済研究所)

食料品の中では、生鮮肉は前年比20.7%、調味料は同22.0%、酒類は同21.0%、麺類は同34.2%、乳製品は同22.2%と目立っている(寄与度の大きい順)。外出自粛で家食(内食)が増えたときに、やはり料理を豪華にしたいと思った人が生鮮肉を買っている。調味料に凝るのは、手料理に力を入れている反映だろう。酒類は、外で飲んでいた人が、家飲み、或いはオンライン飲み会にシフトしたものだとみられる。筆者の周囲には、コロナ禍が終わっても、オンライン飲み会を続けるという人は多い。

嗜好品という点では、酒類以外の飲料も増えている。家の中で、読書をしながら、飲料を飲んだりして、自分なりの時間を過ごして満足したいという人々の思いを表しているとみられる。

在宅時間が伸びることによる変化

食料品以外では、住宅設備材料の前年比が73.5%、家事用耐久財の前年比が15.0%、教養娯楽用耐久財の前年比が25.2%、自転車購入費の前年比が12.7%、健康医療用具・器具の前年比が19.4%、健康保持用摂取品の前年比が22.5%と伸びている。

テレワークの普及によって、パソコンなど教養娯楽用耐久財が伸びたと言えばわかりやすい。通信費も前年比8.0%と増加した。そのほか、電子レンジ、炊飯器、掃除機、洗濯機などの白物家電(家事用耐久財)が増えた。これも先の調味料の増加と同じく、在宅時間が伸びて、料理などに力を入れる人が増えたせいもあるだろう。耐久消費財では、自転車の支出増もみられる。健康志向もあろうが、通勤電車などの感染リスクを気にして、移動を自転車でしようという人が増えているからだろう。

また、在宅時間が長くなったことは、ほかにも様々なニーズを掘り起こしている。衣料品の支出は軒並み激減しているが、その中でほとんど唯一、生地・糸類の支出は急増している。衣類を修繕して使う人が増えたり、趣味で裁縫・手芸に力を入れる人もいるのだろう。

そのほか、保健医療の支出では、マスクや消毒液の消費量が増えたことが大きい。コロナ対応以外に、健康志向を強める動きもある。サプリメント(健康保持用摂取品)の支出は増えている。健康志向の背後には、在宅で体重が増えたから、ダイエットに心がけ、体力をつけるためにランニングを始めたという人もいるようだ。

また、筆者が書店にいくと、雑誌などの特集では、免疫を上げる方法がいくつも組まれているのを見かける。健康志向は、コロナ感染への警戒感だけではなく、もっと積極的な派生需要に結びついているようだ。

サービス消費の中での健闘項目 コロナ禍によって最も打撃を受けたのは、サービス産業である。経済産業省「第三次産業活動指数」では、ほとんどの業種が落ち込んでいた。全体では、4月の前月比▲6.0%(2か月前比▲9.5%)と減少していた。

特にひどいのは、プロスポーツ興行 が3、4月ともに指数が0だったことだ。興行が完全に止まっている状態である。映画製作・配給が4月は前月比▲91.6%、映画館が同▲96.4%、旅行業が同▲83.5%、パブ・レストランが同▲85.0%など、悪い分野を挙げ始めるときりがない。

その中で大健闘しているのは、ソフ トウェア業である(図表2)。ゲームソフトは、4月の前月比33.8%(2か月前比2.3倍)。ゲーム以外のソフトウェアも4 月の前月比33.9%と増えた。ゲーム以外のソフトウェアの好調は、テレワーク関連の需要増やオンライン会議などの対応によって生じた需要であろう。

コロナ禍でも健闘する消費・産業とは?
(画像=第一生命経済研究所)

意外なところでは、店舗が一斉に休業したせいで、今までできなかった店舗・建物の修理を始める事業者が増えていた。機械修理業の増加には、それが表れている。少し分野が違うが、歯科診療もこの時期に増えている。在宅の時間が増えて、その期間に歯の治療をしようとする者が多くいたということだろう。

また、予想通りのところでは、宅配業が4月は増えていた。飲食などの宅配需要の高まりを反映している。ところが、無店舗小売はほとんど増えていない。これは米国とは違って、日本ではネットでの買い物シフトがそれほど進んでいないことを表している。消費のネットシフトが足踏みしいていたのは意外だった。

メディア関連では、テレビ広告が増えている。テレビ番組などは撮影が止まって苦しいものだと思っていたが、在宅時間が増えたこともあって、テレビ広告が健闘したのだろう。

家計行動全体の変化

マインドの悪化に対応して、家計が増やす項目がある。それは貯蓄である。家計の可処分所得から消費支出を除いたものが、黒字額である。黒字額を可処分所得で割ったものが黒字率で、国民経済計算の家計貯蓄率に相当する。家計の黒字率(2人以上の勤労者世帯)は、2000年以降で過去最高であった(図表3)。

コロナ禍でも健闘する消費・産業とは?
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家計が貯蓄を増やす動機は、将来不安に備えることがある。勤労者はまだ給与カットがそれほど実施されていないとしても、今後1~2年は相当に厳しくなるだろうから、それに備えて、今のうちから極力節約しておこうという考え方なのだ。

政府は、1人10万円の給付金(特別定額給付金)の支給を5~6月にかけて進めている。単身世帯を含めて、全世帯ベースでは1世帯平均約23万円の給付金が、家計に行き渡っていくはずである。もしも、この給付金が多少なりとも家計の将来不安を解消させているとすれば、消費支出は増えているだろう。中国や米国では、厳しい外出自粛が解除されて、予想外に消費が伸びているという報道もある。特に、筆者には、米国の5月の小売売上高の前月比増加はサプライズであった。同じようなことが、日本でも起こればよいと密かに期待している。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 熊野 英生