東南アジア経済の概況と見通し

●経済概況:新型コロナ感染拡大の顕在化向

東南アジア5カ国の経済は、1-3月期に新型コロナウイルスの感染拡大による経済への影響が明らかになり始め、景気が急激に悪化している(図表1)。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

まず輸出は昨年から米中対立の激化を背景とする世界経済の減速傾向が続く中、新型コロナ対策の影響でサプライチェーンが乱れて財輸出が低迷した。また好調だったサービス輸出は世界各国の出入国規制の強化により、外国人旅行者が大幅に減少して財・サービス輸出全体を押し下げた。

内需は、新型コロナウイルスの封じ込めを目的として各国が3月中旬頃から実施した国内の活動制限措置により消費・投資に悪影響が及んだ。特に投資は世界経済の先行き不透明感や原油価格の急落なども加わり、民間消費以上に落ち込みが目立った。政府部門は工事の遅れで公共投資が落ち込んだが、コロナ危機対応で政府支出を拡大させたため、政府消費が景気を下支えた。

東南アジア5カ国の製造業購買担当者指数(PMI)は昨年、概ね50前後で推移していたが、世界的に新型コロナウイルスの感染拡大が進んだ3月から製造業の景況感の悪化が強まり、政府が国内で最も厳しい活動制限措置を課した4月には40未満まで急低下した(図表2)。活動制限措置の緩和が進んだ5月のPMIは各国上昇に転じたが、好不況の判断の目安とされる50を大きく下回る水準にあり、製造業の景況感は依然として悪化傾向が続いている。5月のPMIの水準をみると、マレーシア(45.6)とベトナム(42.7)、タイ(41.6)、フィリピン(40.1)の4カ国では活動制限措置の緩和により持ち直しの動きがみられたが、インドネシア(28.6)は感染拡大が収まらずに活動制限措置の緩和が6月に遅れた影響で低迷している。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

●物価:新型コロナの影響で当面停滞を予想

東南アジア5カ国の消費者物価上昇率(以下、インフレ率)は、昨年末には食品価格を中心に上昇傾向にあったが、今年2月から原油価格の下落など新型コロナの影響が現れて下押し圧力がかかり始め、国内の活動制限措置を実施した4-5月には大幅に低下した(図表3)。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

主だった動きとして、足もとのインフレ率の低下幅はベトナムとマレーシア、タイの3カ国が大きく、インドネシアとフィリピンの2カ国が小幅となっている。これは活動制限措置が前者3カ国では全国的に実施された一方、後者3カ国では地域別に実施されたことによる影響が大きいと言えるだろう。このほか、原油安に伴う公共料金の値下げ幅の違いや、タイでは新型コロナ対応の消費者支援策として生活必需品などが値下げされたこと等も一因として挙げられる。

先行きのインフレ率は、新型コロナの影響で下押し圧力が続き、当面停滞すると予想する。今後も原油価格下落に伴うエネルギー価格の低下が続くこと、国内の活動制限緩和後も労働市場の回復の遅れなどコロナ禍による需給面からの下落圧力が続くことなどが物価を押し下げるだろう。また各国政府の実施する生活必需品の価格安定策や光熱費の値下げなどの消費者支援策なども物価の安定に寄与するとみられる。

●金融政策:当面緩和局面が続く

東南アジア5カ国の金融政策は昨年、米中貿易戦争の激化によって世界経済の減速懸念が高まり、各国中銀は金融緩和に舵を切った(図表4)。そして年明け後は新型コロナの世界的な感染拡大を受けて景気後退リスクが高まり、各国中銀が金融緩和姿勢を強めている。実際、今年に入って各国中銀が実施した利下げ幅をみると、マレーシアが1.00%、タイが0.75%、インドネシアが0.75%、フィリピンが1.25%、ベトナムが1.50%といったように、積極的な金融緩和を実施していることがわかる。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

先行きについては、各国で実施された活動制限措置の影響が経済指標に色濃く表れ始めたことで、各国中銀は景気動向とこれまでの利下げ効果を見極めつつ、緩和姿勢を続けるだろう。国別に見ると、年末にかけてマレーシアとインドネシア、ベトナムがそれぞれ0.25%の利下げ、フィリピンが0.5%の利下げを実施すると予想する。タイは既に政策金利が過去最低の0.5%まで引き下げられており、今後の緩和余力を残しつつ、政策金利を当面据え置くと予想する。

●経済見通し:経済正常化が進むも、外需悪化が響いて景気回復ペースは緩やかに

新型コロナの感染が世界的に拡大するなか、東南アジア5カ国においても水際対策やクラスター対策だけでは国内の感染拡大を防ぎきれず、3月中旬頃から国内の活動制限措置を開始した。各国が実施する活動制限措置の期間と内容は異なるが、それぞれ4~6月から段階的な制限緩和に舵を切り、現在はウィズコロナ下での経済活動の再開が進められている。新型コロナの完全な終息が見通せないなかでは、流行の第2波、第3波に備えて徹底した防疫措置を継続する必要がある一方、経済的な死者の急増を阻止する必要もある。従って、各国は感染拡大防止と経済活動再開の相反する課題に対し、バランスを取って機動的な見直しを図ることになるが、本稿の経済見通しの策定にあたっては各国の活動制限措置の厳格化は想定せず、段階的な経済活動の再開が進められることを前提としている。

この前提の下、東南アジア5ヵ国の経済の先行きは、活動制限措置の影響が本格的に現れる4-6月期に成長率が大幅に低下し、経済活動の再開が進む7-9月期から景気が持ち直す展開を予想する。もっとも、感染防止のための社会的距離の確保は継続するため、消費者や企業のマインドが改善せず、国内旅行をはじめとして消費や投資に幅広く悪影響が出ることや、財輸出と外国人観光客の減少といった外需の落ち込みは内需に比して長続きするとみられることから、7-9月期以降の景気回復ペースは緩やかなものとなるだろう。

一方、政府部門は引き続き景気の下支え役となる。各国政府は2月以降、矢継ぎ早に景気刺激策公表、財政赤字の拡大を受け入れて低所得者への生活支援や企業の資金繰り支援を実施してきた。今後は国内観光促進策やインフラ投資の拡大などの需要喚起策に中身を切り替えながら、積極財政を続けるものと予想する。また各国中銀も積極的な金融緩和姿勢を継続するものとみられ、景気回復をサポートするだろう。

国別にみると、東南アジア5ヵ国ともに20年の成長率は大幅に低下するが、特に経済の輸出・観光依存度の高いタイとマレーシア、海外出稼ぎ労働者の送金が減少するフィリピンの成長率低下は著しく、通年でマイナス成長に陥るだろう。一方、内需が比較的底堅いインドネシアとベトナムは通年の成長率がプラスを確保すると予想する(図表5)。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)