子どもが成長していく姿を見るのは、うれしいものだ。しかし、「一人前になるまでに教育費がいくらかかるか」は、親にとっては悩ましい問題だろう。
無計画なままでいたら、子どもが望む進路次第では、自分たちの老後の生活費を切り詰めなければならなくなる。そうならないように、教育費は子どもが幼いうちから計画的に準備しておきたい。
今回は、幼稚園から大学卒業までにかかる費用を取り上げ、実際のところどのくらいの教育費がかかるのかについて解説する。
子どもを育てるのに必要な費用を分析!幼稚園~小学校でかかる教育費は?
小学校に入学する前に、子どもは幼稚園もしくは保育園に通うのが一般的だ。ただし、保育園は厚生労働省が管轄しているのに対して、幼稚園は文部科学省が管轄しており、公立と私立がある。
保育園に通う場合も一定の費用はかかるが、幼稚園に通う場合、入園先によっては「学費」として大きな出費を覚悟しなければならない。そこで、ここからは幼稚園に焦点をあてて、どのくらいの費用がかかるのかを見ていこう。
また、小学校についても公立、私立それぞれの学校に通った場合にかかる費用を紹介する。
幼稚園で必要となる費用
文部科学省が2019年12月に公表した「平成30年度子供の学習費調査」によると、子ども1人を幼稚園に通わせる場合の年間平均費用は、以下のとおりだ。
なお同調査は、全国の公立・私立の幼稚園・小学校・中学校・高等学校に通う子どもの保護者を対象に隔年に実施され、2万4,748人から有効回答を得ている。
公立幼稚園・・・22万3,647円(前回調査から4.4%減)
私立幼稚園・・・52万7,916円(前回調査から9.4%増)
約3年間通学して卒業までにかかる学費の合計は、以下のとおりだ。
公立幼稚園・・・64万9,088円
私立幼稚園・・・158万4,777円
近年は、公立幼稚園の費用は横ばいであるのに対し、私立幼稚園の費用は増えている。学費の内訳は、以下のようになっている。
公立幼稚園・・・学校教育費約12万1,000円、学校給食費約1万9,000円、学校外活動費約8万4,000円。
私立幼稚園・・・学校教育費約33万1,000円、学校給食費約3万1,000円、学校外活動費約16万6,000円。
学校教育費とは、幼稚園・学校側に支払う授業料のほか、修学旅行・遠足代、学校納付金、通学費などの費用のことだ。幼稚園の場合、私立は公立よりも年間20万円ほど高くなる。
学校外活動費とは幼稚園・学校に支払う学費・給食費以外にかかる費用のことで、塾や習い事の費用のことである。
私立に通わせている家庭では、学校外活動費により多くのお金をかけていることがわかる。ただし、幼稚園では公立・私立ともに、スポーツやレクリエーション活動などの費用の割合が高い。
小学校で必要となる費用
次は文部科学省の調査結果をもとに、小学校でかかる教育費の年間平均費用を見てみよう。
公立小学校・・・32万1,281円(前回調査から0.3%減)
私立小学校・・・159万8,691円(前回調査から4.6%増)
私立は公立の5倍近くの費用がかかっている。近年、公立小学校は平均支出額が横ばいだが、私立小学校では増えている。
公立小学校であっても、公立幼稚園から入学した場合は年間約10万円出費が増えることになる。卒業までにかかる平均費用は、以下のとおりだ。
公立小学校・・・192万6,809円
私立小学校・・・959万2,145円
卒業までにかかる教育費は、公立小学校だと約200万円、私立小学校だと約1,000万円近くかかることになる。年間の教育費の内訳は、以下のとおりだ。
公立小学校・・・学校教育費約6万3,000円、学校給食費約4万4,000円、学校外活動費約21万4,000円。
私立小学校・・・学校教育費約90万4,000円、学校給食費約4万8,000円、学校外活動費約64万7,000円。
やはり授業料などの学校教育費は、公立と私立では大きな差がある。学校外活動費では、公立・私立ともに学習塾や家庭教師などの費用である「補助学習費」への支出が最も多い。ただし、学校外活動費の年間平均費用は、私立は公立の3倍以上だ。
子どもを育てるのに必要な費用を分析!中学校~大学卒業までにかかる学費
次は中学校、高等学校、大学に通わせる場合の費用を紹介しよう。中学、高校については、引き続き文部科学省の「平成30年度子供の学習費調査」を参考にしている。
大学でかかる費用については、2020年3月に発表された日本政策金融公庫の「令和元年度教育費負担の実態調査」を参考にしている。この調査は、2019年9月に高校生以上の子どもを持つ保護者(有効回答数4,700人)を対象に、インターネット上でアンケートを取るかたちで行われた。
中学校で必要となる費用
部活動が始まるなど、生活面で変化が起こることも多い中学校だが、通学にかかる費用はどのくらいだろうか。年間の平均費用は、以下のとおりだ。
公立中学校・・・48万8,397円(前回調査から2.1%増)
私立中学校・・・140万6,433円(前回調査から6.0%増)
近年の年間平均費用は、公立学校はおおむね横ばいで推移しているのに対して、私立中学校は増えている。この構図は幼稚園、小学校と同じだ。
ただし小学校と比較すると、公立中学校が年間15万円以上高くなっているのに対して、私立中学校は20万円近く安くなっている。中学校入学から卒業までにかかる費用は、以下のとおりだ。
公立中学校・・・146万2,113円
私立中学校・・・421万7,172円
公立小学校は6年間で約200万円だったことを踏まえると、同じ公立でも中学校は費用がかなりかかるようになると言える。一方私立中学校は、公立の3倍近い費用がかかるが、私立小学校6年間の半額以下である。
公立・私立それぞれの教育費の内訳を見てみよう。興味深い事実が見て取れる。
公立中学校・・・学校教育費約13万9,000円、学校給食費約4万3,000円、学校外活動費約30万6,000円。
私立中学校・・・学校教育費約107万1,000円、学校給食費約4,000円、学校外活動費約33万1,000円。
私立のほうが学校教育費が大幅に高くなるのは当然だが、注目すべきは学校給食費と学校外活動費である。
学校給食費は、公立中学校が平均で年間約4万3,000円かかっているのに対して、私立中学はわずか4,000円だ。これは、私立中学には給食がなく、保護者が弁当を持たせているためだ。
私立中学校に通わせる保護者は、給食費こそかからないが、毎朝お弁当を作るための食材費と労働コストを別途負担する必要があるのだ。
学校外活動費については、幼稚園、小学校で公立と私立の間に大きな差があったが、中学校になるとその差はかなり小さくなっている。なぜ、このような変化が起こるのだろうか。
それは、学校外活動費の内訳を見るとわかる。公立中学に通っている子どもの場合、学習塾や家庭教師などにかける「補助学習費」にかかる費用は年間平均約24万4,000円である。一方私立中学の場合は、補助学習費にかかる費用は年間平均約22万円であり、公立中学に通う場合よりも低くなっている。
私立中学は中高一貫校であることが多いのに対して、公立中学は高校入試に向けて、補助学習費に多く費用をかけているからだろう。中高一貫校には内部進学制度があるため、高校入試に向けて学習塾や家庭教師を利用する必要性は低い。
高校で必要となる教育費
次は、高等学校について見ていこう。年間の平均費用は以下のとおりだ。
公立高等学校・・・45万7,380円(前回調査から1.4%増)
私立高等学校・・・96万9,911円(前回調査から6.8%減)
幼稚園・小学・中学では私立のほうに顕著な増加傾向が見られたが、高校では私立でも横ばいの状況が続いている。公立については、中学までと同じく横ばい傾向である。
高校入学から卒業までにかかる費用の平均は、以下のとおりだ。
公立高等学校・・・137万2,072円
私立高等学校・・・290万4,230円
公立と私立における費用の差は、中学校よりもさらに縮まっている。費用の内訳は、以下のとおりだ。
公立高等学校・・・学校教育費約28万円、学校外活動費約17万7,000円。
私立高等学校・・・学校教育費約71万9,000円、学校外活動費約25万1,000円。
高等学校になると給食がないため、公立・私立とも学校給食費は除外される。学校教育費では40万円以上、学校外活動費では7万円以上、私立のほうが公立よりも多い。学校外活動費は、公立、私立ともに大半が補助学習費である。大学入試に備えて必要となる出費と考えられる。
大学で必要となる教育費
子どもが大学に入学する年齢になると、すでに心身ともに大人になっている。中にはアルバイトをして学費を稼ぐ学生もいる。
ここからは、子どもが大学・短大に通い、親がその費用を全額負担した場合にどのくらいの教育費が必要になるかを見ていこう。
日本政策金融公庫の「令和元年度教育費負担の実態調査」によると、国公立大と私大の卒業までにかかる入在学費用の平均額は以下のとおりだ。
私立短大・・・入学費用約66万9,000円、年間在学費用約147万8,000円(2年間で約295万6,000円)
国公立大学・・・入学費用約71万4,000円、年間在学費用約107万円(4年間で約428万円)
私立大学文系・・・入学費用約86万6,000円、年間在学費用約157万6,000円(4年間で約630万4,000円)
私立大学理系・・・入学費用約84万5,000円、年間在学費用約184万3,000円(4年間で約737万2,000円)
「入学費用」には学校納付金、受験費用、入学しなかった学校への納付金が含まれ、「年間在学費用」には大学に支払う学校教育費と家庭教育費が含まれている(9割以上が学校教育費)。自宅外でアパートなどを借りて通学する場合は、別途生活費などがかかる。
子どもにどのような教育を受けさせるかは、早めに決めることが大切
幼稚園から大学までの教育費の実情を見ると、幼稚園の時点から公立か私立かで費用に大きな差があることがわかる。特に学校に支払う学費の差は大きいため、私立に通わせる場合は相応の出費があることを覚悟しなければならない。
幼稚園から大学まですべて私立に通わせる場合は、教育費だけで2,500万円ほどかかる。すべて公立の場合でも1,000万円だ。どのような道を歩ませるのか、それにかかる費用も含めて、家族でしっかり話し合う必要があるだろう。(提供:THE OWNER)
文・崎井将之(ダリコーポレーション ライター)