シンカー:7月からの国債増発を前にして、これまでのところ増発による需給の悪化懸念はそれほど強くなっていないようだ。ただ、さらなる税収減とそれに対応するための第3次補正予算の可能性も残っており、日銀の買い入れに対するスタンスが不透明な中で積極的な買いを控える動きもあるとみられる。日銀は年約80兆円の買い入れめどを撤廃し、必要であれば無制限に買入を行うことをコミットメントするなど、ポリシーミックスを強化する姿勢を示してきた。今月末に発表される日銀の買い入れ方針でどのようなスタンスをとるか注目されるが、7月以降の増発で需給悪化懸念により過度にベアスティープ化する場合には、日銀は柔軟な対応をとるとみられ、需給悪化懸念を和らげる方向に動くだろう。さらに、先日発表された1-3月期の日銀資金循環統計では、企業が資金余剰幅を拡大させ、新型コロナを背景にデレバレッジを進めたことが示されている。政府が大規模な財政政策に踏み切り、政府の資金不足が拡大する中でも、企業の資金余剰が相殺する力として働くため、マクロ的に見ると日銀が買い入れを増額しなかった場合でも、国債金利が現在の水準から急激に上昇する可能性は低いと考えられる。
日銀は7月からの国債増発懸念を和らげる方向に動くのか
25日の20年債国債入札は7月からの国債増発を前にしてもは応札倍率は高水準になり、しっかりとした結果になった。5月のJSDA投資家別売買動向では、統計来史上最大の地銀による超長期国債の買い越しが観測されるなど、超長期国債の利回りが上昇したことでキャリーを求める動きが活発化したことを示唆している。一方で、これまでのところ増発による需給の悪化懸念はそれほど強くなっていないものの、さらなる税収減とそれに対応するための第3次補正予算の可能性も残っており、日銀の買い入れに対するスタンスが不透明な中で積極的な買いを控える動きもあるようだ。ただ、日銀は年約80兆円の買い入れめどを撤廃し、必要であれば無制限に買入を行うことをコミットメントするなど、ポリシーミックスを強化する姿勢を示してきた。今月末に発表される日銀の買い入れ方針でどのようなスタンスをとるか注目されるが、7月以降の増発で需給悪化懸念により過度にベアスティープ化する場合には、日銀は柔軟な対応をとるとみられ、需給悪化懸念を和らげる方向に動くだろう。
日銀が7月からの買い入れ増額に踏み切らなかった場合でも、大幅な金利の上昇の可能性は高くないとみられる。先日発表された1-3月期の日銀資金循環統計では、企業が資金余剰幅(企業貯蓄率)を拡大させ、新型コロナを背景にデレバレッジを進めたことが示されている。政府が大規模な財政政策に踏み切り、政府の資金不足が拡大する中でも、企業の資金余剰が相殺する力として働くため、マクロ的に見ると日銀が買い入れを増額しなかった場合でも、国債金利が現在の水準から急激に上昇する可能性は低いだろう。
月次の日銀の国債買い入れ額(億円)
日本人投資家によるドル需要は引き続き強いが円債回帰の動きも?
新型コロナ危機への対応としてFRBがドルスワップラインの強化に踏み切ってから3か月程度になる。NY連銀が発表しているドルスワップラインの使用残高によれば、参加している9か国のうち、日銀は半分程度を占めるなど、日本の投資家の存在感は大きい。日銀のドル資金供給オペ残高を見てみると、需要は一時期と比べると(特に一週間物で)減少してきている。ただ。今月は4半期末であることもあり、ふたたびドル需要が強まる可能性も踏まえて日銀は柔軟な対応をとっていくだろう。ドル資金調達へのストレスは危機のピークと比較すると緩和してきており、3か月物のJPY-USD Basis Swapは-130bp程度まで低下していた後、-18bp程度で推移している。一方で、超長期のJPY-USD Basis Swapは中央銀行がドル資金調達のストレス緩和に努めている中でも引き続き大幅なマイナス水準を推移しており、米国社債などに高利回りを求める動きは継続しているようだ。
今後も日本人投資家による米国資産への需要は続くとみられるが、Fedが危機的状況への対処として行ってきた措置を正常化させていけば、日本にも影響が及ぶ可能性がある。引き続きFedの動向が注目されるとともに、日本国債の増発を背景に以前と比較すると円債利回りの魅力が高まっていることから、外債から国内回帰の動きが加速するかもしれない。
図 日銀ドル資金供給オペ残高(USDbn)
JPY-USD Basis Swap(bp)
円建て各国国債利回り(満期保有前提、%)
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司