シンカー: 新型コロナウィルス問題に対処するため、米国は巨額の財政拡大に踏み切った。財政収支の赤字幅は大きく膨らむことになる。一方、住宅バブル崩壊後のデレバレッジで家計貯蓄率は上昇したため、既に高水準にある。企業貯蓄率は若干のマイナスでしかなく、企業も貯蓄率の急上昇をともなうような大きなデレバレッジを必要とする状態ではないようだ。IS(貯蓄・投資)バランスでは、家計貯蓄率+企業貯蓄率+政府貯蓄率(財政収支)-国際経常収支=0、となる。財政赤字の拡大に対して、家計と企業の貯蓄率の上昇が小さければ、国際経常収支の赤字幅は膨らむことになる。米国は国際経常収支を赤字にすることで、世界に向けてドルを供給しているのが、ドル基軸通貨の体制であると考えられる。米国の国際経常収支の赤字幅が増加し、しかもFEDの強力な金融緩和が継続するということは、世界のドル供給が増加することを示唆している。ドル供給の増加は、資産価格の上昇、そしてこれまでのグローバルなデフレがインフレへ変化していくきっかけとなるかもしれない。
図)米国の企業と政府の貯蓄率
図)米国の家計貯蓄率と国債経常収支
グローバル・レポートの要約
●ドイツ経済(6/23):財政対応は、アプローチの積極化を示す
ドイツの大連立政権は、新型コロナウイルスによる経済への影響に素早く対処して、財政政策発動の余地を活用した。だが労働市場への影響は大きく、2021年9月の連邦総選挙も左右すると見込まれる。またドイツの輸出関連セクターおよび製造業が直面している構造的変化により、政策も大きく変容している。具体的には、1) 欧州やユーロ圏をより重視、2) 国によるアプローチを積極化(国が資金を注入する結果でもある)~世界の他国・地域に対する保護主義的アプローチの強まりを含む、3) 競争力はさほど重視していない(ただし貿易同盟では弱い立場に)、4) ドイツ経済には将来に競争上の武器となり得る、環境関連および新技術に従来よりも強く注力、である。このため来年の総選挙は、ドイツ経済を根本から形作る可能性がある政策に対する支持を得るという点で、非常に重要となる。これは短期的には、より断固としたEU政策に表れると弊社は主に見込んでいる。ドイツが見せた新型コロナの世界的流行への対応は、EUに対する地政学的役割を強化する上で大変重要だったとみられる。またドイツが今年後半にEUの議長国となることは(正式プログラムは今週決定の予定)、中国、米国、英国との経済上の関係、銀行同盟の進展などの重要問題とともに、非常に興味深くなるだろう。
●下半期外国債券見通し(6/25):新しい夜明け
最悪の時期が過ぎ去り、経済は 3~4 月に底を打 ったもようだが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に有効な治療法やワクチンが開発され、 確実性が高まるか懸念が後退するまでは、景気回復の道筋は不安定な経済指標に阻害されるだろ う。
新しい夜明け:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のページをめくり、そこで安堵感に浸ることを心待ちにしている。
新しい生活:異例の金融・財政刺激策により、リスクは利回り上昇の方向へ傾いている。
新しいレジーム:市場は中期的なインフレリスクをすっかり油断しており、永遠のインフレ沈静を織り込んだ状態にある。
ロングエンドのスティープ化:強力な危機対応がダウンサイド・テールリスクを抑制する一方、公的債務の増大をもたらしている。
フロントエンドの膠着化:中央銀行は利上げを考えておらず、短期金利のボラティリティーを封じ込め、それを長期セクターへと追いやっている。
スプレッドの縮小:要因として挙げられるのは、欧州連合(EU)全体での財政対応の進展、欧州中央銀行(ECB)の金融緩和、資金調達の前倒し、差し迫った格下げ不安がないことである。
●外国債券(6/29):サマースライド
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大がセンチメントを圧迫しており、市場に目立ち始めた楽観ムードは、学んだことを夏休みの間に忘れてしまう「サマースライド」のように思われる。弊社は今後の見通しに慎重な楽観主義を維持しているが、この夏場は世界中の債券市場でレンジ相場が続くとみている。そのため、戦術的にデュレーション中立のスタンスをとりながら、長期的には利回りの上昇とイールドカーブのスティープ化を予想する。ただし、利回り上昇の経路は波乱含みのでこぼこ道だろう。
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司