シンカー:新型コロナウィルス問題による経済活動の低迷は企業と家計の支出が弱く、貯蓄率が上昇しているとみられる。一方、財政拡大でその支出の弱さを補い、マネーの収縮を防いでいる。企業と家計の貯蓄率の上昇をどれだけ財政拡大で補えているのかは、貯蓄・投資バランスでは、国際経常収支の動きにあらわれる。4月の国際経常収支黒字額は大きく縮小している。グローバルな経済活動の低迷で輸出が減少しているにもかかわらず、黒字額が堅調であれば、国内で需要とマネーの強い縮小が起こっていることを意味する。黒字額がしっかり縮小したことは、企業と家計の貯蓄率の上昇をどれだけ財政拡大で補うなどして、国内で需要とマネーが底堅い動きを維持していることを示す。円高圧力を減退させる意味でも重要である。結果として、雇用・所得の破壊と金融システム不安を回避できることにつながる。この場面での国際経常収支黒字額の大きな減少は、警戒すべきものではなく、好ましいものであると考える。失業率の上昇はまだ小幅で、有効求人倍率はまだ1倍を上回っていて、現在のところ、雇用所得環境は何とか持ち堪えている。信用サイクルが堅調で、雇用・所得の破壊と金融システム不安につながっていなければ、新型コロナウィルス問題が終息に向かう中で、景気は急落の後に回復のないL字型を脱し、しっかりとした回復を遂げることができるだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

5月の失業率は2.9%と、4月の2.6%からの上昇となった。

昨年12月の2.2%を底に上昇してきている。

4月に政府は新型コロナウィルス抑制のための緊急事態宣言をした。

不要不急の外出が抑制され、経済活動には大きな下押し圧力がかかった。

結果として、不要不急とされた需要が大きく減少し、サービス業を中心に雇用にも下押し圧力がかかり、就業者は減少した。

ただ、感染の不安などから、労働市場から退出する労働者が増加したため、失業率の上昇は3月の2.5%からまだ小幅だった。

5月には緊急事態宣言は解除されたが、ウィルスへの警戒感は強く、経済活動の戻りは鈍い。

就業者は横ばい圏内だった(5月前月差+4万人、4月同?107万人)。

一方、労働市場から退出していた労働者は、生活のため収入を得る必要性が高まり、労働市場に徐々に戻り労働力人口は増加した(非労働力人口は5月同?21万人、4月同+94万人)。

結果として、5月の失業率の上昇幅は0.3pptとなり、4月の0.1pptより大きくなった。

5月の有効求人倍率は1.20倍と、退出した労働者を含めた求職者の増加(前月比+0.7%)した一方で、事業の止まった企業を含めた求人数が減少し(同?8.6%)、4月の1.32倍から低下した。

失業率の上昇はまだ小幅で、有効求人倍率はまだ1倍を上回っていて、現在のところ、雇用所得環境は何とか持ち堪えている。

一時的に労働市場から退出している労働者が国民一律給付金で支えられ、二次補正予算による経済対策に含まれる雇用助成金の増額が中小企業の雇用維持の支援となるとみられ、政府の信用保証や利子給付などを使った金融機関の融資を支援する日銀の流動性供給策が拡充された。

雇用・所得の破壊と金融システム不安につながっていなければ、新型コロナウィルス問題が終息に向かう中で、景気は急落の後に回復のないL字型を脱し、しっかりとした回復を遂げることができるだろう。

雇用・所得の破壊と金融システム不安を回避するためには、信用サイクルが堅調である必要がある。

5月の金融機関貸出は前年同月比+4.8%(4月同+2.9%)、マネーストック(M3)も同+4.1%(4月同+3.0%)と増加していることを考えれば、信用サイクルはまだ堅調なようだ。

新型コロナウィルス問題による経済活動の低迷は企業と家計の支出が弱く、貯蓄率が上昇しているとみられる。

一方、財政拡大でその支出の弱さを補い、マネーの収縮を防いでいる。

企業と家計の貯蓄率の上昇をどれだけ財政拡大で補えているのかは、貯蓄・投資バランスでは、国際経常収支の動きにあらわれる。

IS(貯蓄・投資)バランス: 家計貯蓄率+企業貯蓄率+政府貯蓄率(財政収支)?国際経常収支=0

4月の国際経常収支黒字額は2524億円となり、3月の9422億円、2月の2兆3525億円から大きく縮小している。

グローバルな経済活動の低迷で輸出が減少しているにもかかわらず、黒字額が堅調であれば、国内で需要とマネーの強い縮小が起こっていることを意味する。

黒字額がしっかり縮小したことは、企業と家計の貯蓄率の上昇をどれだけ財政拡大で補うなどして、国内で需要とマネーが底堅い動きを維持していることを示す。

円高圧力を減退させる意味でも重要である。

結果として、雇用・所得の破壊と金融システム不安を回避できることにつながる。

この場面での国際経常収支黒字額の大きな減少は、警戒すべきものではなく、好ましいものであると考える。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司