ランキング上位国の特徴

ランキング上位国を見ると、台湾や香港など東南アジアの国が多いことが目立つ。アジアの国々がコロナ禍に上手く対応できている背景には、宗教などの文化や言語的な特性が影響している可能性(11)もあるが、ここではコロナ禍への初動対応について注目したい(図表5)。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

オックスフォード大学が取りまとめている新型コロナへの対応状況(OxCGRT)によれば、コロナ禍への対応として、最も早い香港(3位)では昨年末から空港での監視を開始している。台湾(1位)も1月2日からコロナ禍への注意喚起を実施している(12)。日本(9位)でも1月7日から自己申告制での検疫体制を敷いており(13)、厳格な体制ではなかったが初動は早かった。中国との地理的な近さや新型コロナと同様に中国からアジアに拡大したといわれるSARSの経験もあり、東南アジアの国々では比較的早期から「謎の武漢肺炎」に注意していたことがうかがえる。

中国の次に大きなクラスターが発生しニュースとなったイタリアでは初期感染者が確認されるかなり以前にウイルスが持ち込まれて拡大していたとも言われている。

東南アジア諸国の初動の早さが水際対策を効果的に働かせ、そもそも国内への輸入感染を抑制してきた可能性がある。

もちろん、初動対応が早くてもインドネシア(感染拡大率と致死率が高い)やシンガポール(人口当たりの感染者が多い)のように順位を落としている国もあるが(14)、当局のモニタリングと早期の対策が初期の感染拡大を抑え、その後の蔓延を低コストでコントロールできた可能性は高いと思われる。

一方で、封じ込め政策自体の厳しさ(図表5では丸印の大きさ)は今回のランキングとはほぼ相関がなかった。厳しい政策導入がコロナ禍抑制に効かないという意味ではないが、欧米などは大規模な感染が発覚した後、強固なロックダウンを実施したものの早期に対応を実施した東南アジアほど良い結果にならなかった(15)。

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(11)例えば、挨拶の際に人との接触が少ないことなどが感染防止に寄与しているなど。
(12)香港については、https://www.info.gov.hk/gia/general/201912/31/P2019123100562.htm を参照。なお、台湾はOxCGRTでは1月2日からとしているが、CDCによる通知は12/31時点ですでに実施されている(https://www.cdc.gov.tw/Bulletin/Detail/zicpvVlBKj-UVeZ5yWBrLQ?typeid=9
(13)日本の初期の対応としてはhttps://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08787.html など。
(14)タイのようにOxCGRTでは初動対応が遅かったにも関わらず、コロナ禍を免れている国もあるが、メディアによればタイでは1月5日時点では検疫体制を強化していたと思われ( https://www.bangkokpost.com/thailand/general/1829219/arrivals-from-chinas-wuhan-scanned-for-pneumonia )。OxCGRTにおいて、こうした対応が考慮されていないだけの可能性もある。
(15)震源地の中国では、強固なロックダウンでの封じ込めが奏功したと思われるが、他国では中国ほどの成果が上がらなかったと思われる。

おわりに

今回はコロナ禍について、「コロナ禍被害」と「経済被害」に重点を置き、現在置かれている各国の状況を整理した。結果は東南アジアが上位にランキングされ、評価には先行きの被害も織り込んではいるものの、結果的には初動対応の巧拙が大きく反映されたと言える。

ただし、今回の評価における先行きの被害の織り込み方は「コロナ被害」では足もとの感染拡大率を、「経済被害」では国際機関の見通しを利用しており、実績とは異なる。いったん感染者数が減少に転じた国でも第二波のリスクは常に抱えており、今後も継続的なコロナ対応が必要である。実際の「コロナ禍被害」と「経済被害」の動向はこれからのコロナ対応への巧拙で大きく変動しうる。

そして現在は、厳しい封じ込め政策の経済への影響が甚大であり、財政出動の余地も限られていることから、強固な行動制限に対する反発も強くなっている。今後の対応では、感染者の早期発見と隔離などの医療体制を整えて、行動制限を行う場所・業種を極力限定しつつ封じ込めをするという、これまで以上に難しい舵取りが求められていると言えるだろう。

補足――ベースライン成長率とコロナ禍後の成長率

本稿で用いたGDP損失を算出するための、ベースラインの成長率およびコロナ禍後の見通しは以下の通り(16)(図表6)。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(16)エジプト、インド、パキスタンの集計期間は年度単位。本稿では、インド・パキスタンは財政年度をそのまま用いており、他国と対象期間が3か月ずれている。また、パキスタンは2か年度分(19年7月~21年6月)を「GDP損失」の対象期間としている。


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高山武士(たかやま たけし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員

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