少子高齢化、ポスト五輪、コロナ禍などの懸念材料を整理
まとまった資金を注ぎ込むことになるだけに、不動産投資を行うべきか否かについては、慎重に検討を進めるのが賢明です。ここでは今後や現状において考えられる懸念材料を整理し、それぞれの見通しを冷静に考察してみましょう。
まず、ご存じのように日本では、人口に占める高齢者の割合が増える高齢化とともに、出生率の低下に伴って若年人口が減っていく少子化が進んでいます。総務省や国立社会保障・人口問題研究所の調査によれば、2019年の時点で29%を占めていた65歳以上の人口が2065年に38%に拡大するのに対し、20〜64歳の割合は17%から14%に縮小するうえ、総人口も8808万人に減少する見通しです。
こうして総人口と現役世代が占める割合が減っていけば、住まいの供給も余剰になっていくのではないかという懸念が囁かれています。加えて、目先では2021年の東京オリンピック・パラリンピック開催後に不動産市場が冷え込むと予想する声も少なくありません。
開催に向けて東京都心の物件を中心に活況を呈してきた反動で、不動産価格が下落に転じるのではないかと悲観視しているわけです。さらに足元では、新型コロナウイルスの世界的感染拡大がもたらす影響が気掛かりでしょう。
世界的にヒトやモノの行き来が滞って経済の悪化が深刻化していますし、不動産市場にフォーカスを当てても、飲食業や小売業に対して広く求められた営業自粛に伴い、テナント賃料の支払い猶予や減額といった要望が出てきています。商業施設やオフィスビルに関する話が中心とはいえ、居住用不動産にも何らかの影響が出ることが心配されます。
こうした不動産市場を巡る懸念材料について、一つずつ慎重に状況を確認してみましょう。
少子高齢化問題
日本の総人口は減っても東京都の世帯数は増加していく
日本全体として捉えれば、少子高齢化によって人口の減少が進んでいくことは間違いないでしょうが、地域差が生じるという側面もあるようです。
東京都総務局は2015年10月に実施された国勢調査をもとに、2020年、2025年、2030年、2035年、2040年における東京都の世帯数予測を発表しています。それによれば、東京都の一般世帯数は日本の総人口が2025年に1億4171万人に達してピークアウトした後も増加傾向を続け、2035年には723.7万世帯まで拡大すると予測されています。
そして、その後はやや減少するものの、2040年の時点でも721.5万世帯に達していると目されている一方、2035年に始めて50%を超えた単独世帯の割合は51.2%に拡大する見通しです。言い換えれば、今から20年後の状況を展望しても、東京都内(特に人気のエリア)における単身者向け賃貸物件の需要は拡大傾向を示す可能性が極めて高いわけです。
ポスト五輪問題
五輪後も東京の再開発は進むし、日本に住む外国人も増える
続いて、東京オリンピック・パラリンピック開催後には競技施設やホテル、マンションなどの建設ラッシュが過ぎ去ることが不動産価格の急落を招くとの懸念についても、いささか乱暴な見方だと言えそうです。確かにそういった関連施設のプロジェクトは途絶えるでしょうが、国際的なイベント開催を契機に進められてきたのは東京都内の再開発です。
五輪後も再開発が続けられていく見通しですし、それに伴って居住空間としての魅力が高まれば、より多くの人が移り住んでくることも助長するでしょう。しかも、それは日本人だけに限った話ではなさそうです。
新型コロナウイルスの感染拡大を機にインバウンド(訪日外国人旅行客)の数は激減していますが、長い目で見て日本に定住する外国人の人口は増えています。なぜなら、外国人労働者の雇用が拡大傾向にあるからです。
厚生労働省の「外国人雇用状況」によれば、2018年10月末の時点で日本国内における外国人労働者の数は146万人 に達し、過去最高を更新しました。その背景にあるのは深刻な人手不足で、企業の間でも外国人労働者を雇用する動きが積極化しています。
コロナショック問題
リーマンショックでも居住用不動産の賃料相場は比較的安定
では、目の前に突きつけられている最大の懸念材料である新型コロナウイルスの悪影響はどのように捉えるべきなのでしょうか? 飲食店や小売店の営業自粛、「ステイ・ホーム」の働きかけなどによって消費が大幅に落ち込んでいるのは明らかですが、それが居住用不動産の需要に及ぼす影響は限られているというのが一般的な見解のようです。
不動産市場がバブルと化したと言われた2006〜2007年にかけてオフィスビルの賃料は上昇が顕著でしたが、2008年のリーマンショック以降は急激に下落しました。これに対し、共同住宅の賃料にはさほど大きな変化がなく、長く横ばい傾向が続いています。
アフターコロナの時代に有効性が再認識される不動産投資
住まいは衣食住の中でも特に重要な位置づけですし、居住用不動産は商業施設やオフィスビルなどと違い、今のところ新型コロナウイルスが直接的なダメージをもたらしていません。しかも、その世界的大流行を悲観して株式をはじめとする金融市場や原油のような商品市場で“ショック安”が発生しているのに対し、居住用に的を絞って不動産投資を実践していた人たちは、コロナ禍でも家賃という安定的な果実を得ています。
感染拡大が収束に向かう頃には不動産投資の有効性が改めて広く認識され、今回のような経済危機を乗り越えるうえでも実践しておくべきだという風潮が強まるかもしれません。さらに、新型コロナウイルスが高齢者の間で重篤化しやすい傾向にあったことは、相続対策の在り方に関しても少なからず影響を及ぼしているようです。
たとえば、あらかじめ生前贈与を進めていくことが相続対策の定石と位置づけられてきましたが、今回のコロナ禍によってその計画が狂ってしまったケースが出てきているかもしれません。こうした情勢を踏まえても、相続税評価額を現・預金などよりも大幅に引き下げられ、相続の発生以前から着実に家賃収入が得られる不動産投資の意義が再確認されそうです。
まとめ
無論、「とにかく東京都内の住宅用不動産に投資しておけば安泰」という単純な話ではありません。コンスタントに賃貸需要が見込まれるエリアに的を絞り、居住者のターゲットも明確にすることが求められてきます。
物件を購入すればそれで完了という話ではなく、むしろそこが出発点で、購入後のことのほうが肝心だとも言えるでしょう。さらに先を見据えれば、将来的に手放すことを踏まえて「価値が極力低下しない物件」を築くという発想も重要です。
これらのポイントをすべて押さえ、入居者に選ばれやすい物件への不動産投資を実践するためにも、企画・開発から管理までワンストップで展開している事業者に相談を持ちかけることが重要だと言えそうです。(提供:税理士が教える相続税の知識)