6月12日に成立した「令和2年度第2次補正予算」で、中小企業の資金繰りの支援策として盛り込まれた「劣後ローン」。これは、他の借金よりも返済順位が劣る借金のことです。一般の融資との違いや、2種類ある劣後ローンの特徴、利用したときのメリットなどを解説します。
新型コロナの資金繰り支援の柱「劣後ローン」
まずは、「劣後ローン」が中小企業の経営者に注目される背景について整理しましょう。新型コロナウイルスの感染拡大によって、多くの中小企業の売上や収益が大幅に減少し資金繰りに奔走するケースが目立ちました。
具体的な資金繰り策としては、日本政策金融公庫などが提供する実質無利子・無担保融資に関心が集まりました。この制度などを活用することで短期・中期の資金繰りの目途が立った中小企業も多いようですが、長期的な事業経営を考えると不十分な面もあります。
そこで、財務基盤強化の選択肢の一つとして期待されているのが劣後ローンです。令和2年度第2次補正予算では企業の資金繰り支援に11兆6,390億円が計上されていますが、劣後ローンはその柱の一つになっています。
返済期限を借り手が決められるのが「劣後ローン」
劣後ローンとは、他の借金よりも返済順位が劣る借金のことです。平たく言えば、「利子だけ払っていれば、元本は返さなくてもいい借金」となるでしょう。
通常の借り入れでは、返済計画を立ててそれに沿ってお金を返していきます。これに対して劣後ローンは、お金の借り手が返済タイミングを決めることができます。経営が苦しければ、利子だけ払って元本返済を先延ばしすることもできますし、余裕があれば元本を減らして利払いを圧縮することもできます。
「一般の劣後ローン」と「永久劣後ローン」の違い
劣後ローンには、「一般の劣後ローン」と「永久劣後ローン」があります。「一般の劣後ローン」とは貸付期限だけが設定されていて、返済のタイミングは借り手が決めるものです。例えば貸付期限が10年(一括返却)の設定であれば、5年後に一括返済することも、10年経ったときに一括返済することもできます。これに対して「永久劣後ローン」とは、利息だけ払っていれば返済期限をいつまででも先延ばしできるものです。
令和2年度第2次補正予算で採用されたのは、「一般の劣後ローン」です。貸付期間は3通りから選択でき(5年1ヵ月、10年、20年の長期一括償還)、貸付利子は当初 3年間0.5%、4年目以降は直近の業績に連動します。永久劣後ローンを待望する識者も多く、産経新聞(2020年6月10日)は今後の展開について「金融機関が永久劣後ローンを企業に貸し出したうえ、その債権を政府と日銀が共同出資で設立する機構が買い上げるようにする構想もあるようだ」と報じています。
劣後ローンのメリットとデメリット
劣後ローンを活用したときの中小企業のメリットは、財務基盤が改善することです。通常の融資は借入額が増えるほど財務体質が弱くなりますが、返済期限が長い(あるいは期限がない)劣後ローンは金融機関に資本の一部と見なされやすく、借入をすることで財務基盤の強化につながることがあります。特に永久劣後ローンはその効果が高く、三井住友信託銀行名誉顧問・高橋温氏は日本経済新聞の取材に対し、永久劣後ローンは「財務的には実質エクイティ(自己資本)として機能する」と述べています。
また、これは永久劣後ローンに限定されるメリットですが、融資のハードルが低くなる効果も期待できます。「無利子・低利子でも返済期限があるなら融資を受けたくない」と考える経営者もいますが、永久劣後ローンなら返済期限のプレッシャーがない分借りやすいというわけです。劣後ローンのデメリットは、この制度によって将来性と成長性のない中小企業も救われてしまうことです。
今後注目すべきは、「どれくらいの数の中小企業に劣後ローンが利用されるか」「永久劣後ローンの仕組みづくりがどのようになるか」の2点でしょう。特に永久劣後ローンがどうなるかは、今後の中小企業の経営環境を大きく左右することになるでしょう。(提供:Wealth Lounge)
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