シンカー:市場は新型コロナウイルスの動向をめぐって一喜一憂を続けている。一方で、ドル円相場は5月に106円に迫る場面があったものの、リスクオフの強まりによって円高が引きおこされる状況にはなっておらず、むしろ円安基調が続いている。円安の基調をなしている要因の一つは、対外直接投資の動きが引き続き継続しているからだと考えられる。4-6月期の日銀短観を見てみると、新型コロナウイルスが猛威を振るう中でも企業のセンチメントは底割れしておらず、先行き見通しが改善していることを示している。国内企業は過度に悲観を強めていないことから、対外直接投資によって買収した海外企業を売却することで、財政基盤の立て直しを図るといった動きは限定されているようだ。また、新型コロナ後の世界を考えるうえで、サプライチェーンの再編も重要なテーマになってくるだろう。生産拠点を中国に依存してきた企業は、リスク分散の観点から一部リショアリングの動きも考えられるが、他のアジア諸国などに生産拠点を分散させていくとみられる。そのような動きの中で、今後も円高圧力は限定されていくだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

経常収支は貿易赤字縮小により改善

5月の国際収支統計で、経常収支は貿易赤字が縮小していることから改善がみられた。新型コロナウイルスを背景として、欧米向け自動車をはじめとして輸出は大幅に減少している、一方で、化石燃料の需要が低迷していることや、在宅ワークに関連した通信機器需要なども落ち着いてきたことで、輸入も減少したようだ。今後もグローバルに貿易活動は抑制された状況が続くとみられ、経済活動の本格的な再開にはさらなる時間を要するとみられることから、輸出の持ち直しにも時間を要するだろう。

経常収支(兆円、季調)

経常収支(兆円、季調)
(画像=財務省、SG)

対外直接投資の継続

5月の金融収支では、対外直接投資が継続していることが示されている。新型コロナウイルスを背景として、海外に進出していた日本企業が直接投資を引き上げる動きにつながる可能性もあったが、今のところそのような動きが優勢にはなっていないようだ。4-6月期の日銀短観を見てみると、新型コロナウイルスが猛威を振るう中でも企業のセンチメントは底割れしておらず、先行き見通しが改善していることを示している。国内企業が過度な悲観を強めていないことから、対外直接投資によって買収した海外企業を売却することで、財政基盤の立て直しを図るといった動きにはつながっていないようだ。新型コロナ以降の世界を考えると、リスク分散の観点からサプライチェーンの見直しが進んでいくとみられる。一部では海外拠点を日本に戻すリショアリングの動きも出てくる可能性があるが、コストといった観点から中国に依存してきた生産拠点をアジア諸国に分散させるといった動きが出てくるだろう。対外直接投資は今後も継続していくとみられ、リスクオフの強まりや、対外証券投資の巻き戻しといった動きの中でも、過度に円高になるリスクは限定されているとみられる。

金融収支(兆円)

金融収支(兆円)
(画像=財務省、SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司