日本経済は、6月からいよいよ経済活動がリバウンドしていく局面に移行している。6月19日には、南関東などと他地域との移動の自粛要請が解除されて、観光需要への好影響が期待される。しかし、コロナ危機で落ち込んだ需要は一気に戻ることはないだろう。最近のESPフォーキャスト調査を用いると、2020年4-6月を大底にして、3か月間で28%のリバウンドが見込まれ、1年間では66%の水準まで戻す。逆に言えば、1年が経っても、落ち込みの1/3は戻ってこないということだ。特に、5兆円規模のインバウンド需要は、早急な回復は難しいだろう。それに替わる旺盛な需要を発見することは、成長戦略を再構築しようとするときの大きな課題となる。

上昇
(画像=PIXTA)

移動の自粛要請解除

6月19日から南関東などの地域から、全国への人の移動の自粛要請がなくなった。すべての地域で県をまたいだ移動は自由になる。緊急事態宣言が5月25日に解除されてから、残っていた自粛要請の大きなものがこれでなくなるという意味を持つ。残るは、屋内イベントでの入場者数が、集客人員の50%以内、1,000人までという要請である。これは、7月10日(3週間後)になくなる見通しだ。

そうなると、人々の関心事は経済のリバウンドがどこまで当面は進んでいくのかという点に移ってくる。特に、移動の自粛要請によって国内旅行はこれまで抑制されてきた。ホテル・飲食店、交通、レジャー産業は、業績の落ち込みが著しく悪化していて、まさに今後の盛り返しが期待されていた。移動の自粛要請がなくなることで、地方にある観光産業は大都市からの顧客の受け入れを促進できる。政府の各種経済対策の中でも、「Go to キャンペーン」のような需要押し上げ策は、この移動の自粛要請がなくなることを前提として、今後効果を発揮していくことが可能になっていく。

経済リバウンドの弱さ

さて、落ち込んだ需要がマクロ経済でみて、どの程度リバウンドしていくのかをデータを使って検討してみたい。観光だけでなく経済全体、つまり実質GDPの変化についての見通しをみていく。利用するのは、日本経済研究センターのESPフォーキャスト調査(2020年6月)である。民間シンクタンクの経済予測を集計したものである。そこでは、2020年4-6月の実質GDPは年率で前期比▲23.02%も下がっていた。おそらく、4・5月が大底になって、6月からリバウンドが本格化する。

ポイントは、そのボトムからどのくらいのペースで反動増が見込めるかである。コロナ危機によって2020年1-3月と4-6月を併せたときの落差を100%とすると、7-9月という目先3か月間では28%分だけ回復する。そして、1年後の2021年4-6月には66%分まで回復する(図表1)。

今から経済のリバウンドが始まる
(画像=第一生命経済研究所)

コロナ危機で失った経済損失のうち、ごく短期間で1/4(=28%)は戻り、1年間で2/3(=66%)まで戻るという言い方ができる。例えば、ホテルの場合、コロナ前の宿泊客数はすぐに1/4は戻ってきてくれるが、1年間ぐらい経たないと2/3は戻ってこない。そして、以前のレベルに戻るにはもっと長い時間がかかるということを意味する。ESPフォーキャスト調査の成長率を使用すると、2020年4-6月から約3年くらいかけて、コロナ危機以前に戻れるという計算になる。

日本経済の今後

コロナ感染が一服すると、経済のリバウンドが起こることは以前からわかっていた。しかし、そのリバウンドの力強さについての見方は徐々に変わってきたようだ。同じESPフォーキャスト調査の4月初に初めてコロナ危機が織り込まれたときは、3か月で36%のリバウンドが見込めて、1年後は94%とほぼ危機前を回復できるという見方だった。それが、現在に至るまで、反動増は大きくは見込みにくく、回復力も限られるという見方に変わってきた。直感的に言えば、4月のV字回復シナリオは、6月はよりL字に近い回復へと変化したと考えられる。

理由は、感染リスクに対する警戒心がそう簡単にはなくならず、消費行動はしばらく慎重だろうという見方が支配的になってきたからである。さらに、政府の姿勢をみていると、感染リスクを恐れて積極的な需要刺激を打てないことも大きい。第一次・第二次補正予算の内容は、ほとんど需要を増やすものではなく、給付によって需要減による打撃を吸収する役割である。景気対策によって、街の人手が増えるとかえって感染者を増やしてしまうのではないかというジレンマによって、政府は積極的なことができない。

日本経済のリバウンドの力量が弱いという見方は、海外の国際機関の経済予測にも表れている。6月に発表された世界銀行とECD(経済協力基金)の2020・2021年の経済予測では、日本の2021年の成長率は、米国や欧州に比べて回復ペースが鈍いとみられている(図表2)。これは、危機が去ったとしても、打撃が長く残り続けるということを意味している。日本経済は、潜在成長率が低く、平時でも成長力が乏しいので、危機からの回復も遅れるだろうという説明が聞かれる。

今から経済のリバウンドが始まる
(画像=第一生命経済研究所)

2010代の日本経済は、長くデフレに悩まされてきた。その背景には、需要の伸びが鈍くて、過剰な供給能力が潜在的な値下げ圧力として常に存在していることがあった。これをデフレ・ギャップが残る状態というが、今後の日本経済はせっかくデフレ・ギャップが2017~2019年頃には解消していたのに、2020~2023年くらいにかけて再びデフレ・ギャップの発生する状態に戻ってしまうことになる。

インバウンド問題

今後の日本経済のリバウンドの力、あるいは回復力を過大評価してはいけない。その理由について、定性的な要因を説明したい。それは、当分、訪日外国人の観光需要が回復しないとみるからだ。本来、2020年は東京五輪が追い風になって、インバウンド需要は年間5兆円の規模になるはずだった。コロナ危機の下では、それがほとんどゼロになった。

仮に、日本国内からコロナ感染者がいなくなっても、まだ海外からの渡航者を通じて感染者が入ってきて、感染が広がるリスクがある。政府はそのリスクを十分に知っていて、入国制限を簡単には緩めないだろう。入国制限をしている111か国のうち4か国について7月からビジネス目的に限って制限を緩和する。しかし、この4か国は、驚くほど感染者が少ない国である。ベトナムは342人、ニュージーランドは1,506人、タイは3,141人、オーストラリアは7,391人となっている(6月19日までの感染者累計)。

この4か国以外に入国制限を緩和することは高いハードルがあると思う。例えば、日本よりも感染者数、感染率が高い国からの入国を許めると、国内からはなぜ感染リスクを敢えて高めることをするのかと批判されるだろう。政府が2021年の東京五輪に向けて入国制限を緩和しなくてはいけないことは明らかだが、批判を恐れて大規模な訪日外国人の受け入れはしばらくは行えないだろう。

もしも、日本が経済再開を進めていく中で、インバウンド需要を回復できないとすれば、経済のリバウンドは力強さを欠くと考えられる。これまで、特に地方経済では、観光産業を中心にインバウンド需要によって牽引されてきた。高品質・高価格のサービスに訪日外国人の顧客が支出してくれることは、デフレ脱却の糸口にもなってきた。日本人の旅行者では、高い値段を敬遠して商売が成り立たないという言い方もできる。インバウンド需要を失ったままの日本経済は、それに替わる牽引役を発見することができないだろうというのが筆者の見方である。それゆえに、日本経済のリバウンドは多くの人が予想するよりも限定的にならざるを得ないだろう。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 熊野 英生