要旨

● Go To キャンペーンには「Travel」「Eat」「Event」「商店街」の4種類がある。現在のところ8月上旬から半年間の予定で、何回でも利用できる。

● 政府は本事業に1兆6794億円もの予算を計上しており、実質的に旅行商品価格を最大5割、外食とイベントの価格を2割程度引き下げる効果がある。価格が下がれば、財・サービスの購入量は増加する。この増加分のメリットを「消費者余剰」の増加として計算した。

● 3分野における価格弾性値を計測すると、旅行が-1.1、外食が-1.0、イベントが-2.3 となる。補助率がそれぞれ最大50%、20%、20%であることからすれば、それぞれの市場規模増加率は基準から最大+55.1%、+20.2%、+45.3%増加することになる。

● 2020年1-4月の家計調査データや世帯数等に基づき、コロナ後のそれぞれの市場規模を直近2018年データの1/2、1/3、2/3になったと場合分けして試算すると、旅行・外食・イベント3分野の市場規模の拡大額は半年でそれぞれ最大で+2.1兆円、+1.4兆円、+2.8兆円となり、2019年度名目GDPのそれぞれ0.4%、0.3%、0.5%に相当する額となる。

ポイント
(画像=PIXTA)

はじめに

新型コロナウィルスの感染拡大は、国内の観光・外食・イベント産業に甚大な被害をもたらしている。これに対して政府は、感染の終息を見極めつつ、かつてない規模の需要喚起策を行い、消費を促進する「Go To キャンペーン」の実施を決めた。

Go To キャンペーンには「Travel」「Eat」「Event」「商店街」の4種類がある。中でも需要喚起が期待されているのは「旅行」であり、旅行業者等経由で、期間中の旅行商品を購入した消費者に対し、代金の1/2相当分のクーポン等(宿泊割引・クーポン等に加え、地域産品・飲食・施設などの利用クーポン等を含む)を付与(最大一人あたり2万円分/泊)する内容である。

また「外食」に関しては、オンライン飲食予約サイト経由で、期間中に飲食店を予約・来店した消費者に対し、飲食店で使えるポイント等を付与(最大一人あたり1000円分)と、登録飲食店で使えるプレミアム付食事券(2割相当分の割引等)を発行する内容である。

さらに「イベント」では、チケット会社経由で、期間中のイベント・エンターテイメントのチケットを購入した消費者に対し、割引・クーポン等を付与(2割相当分)する内容となっている。

現在のところ8月上旬から半年間の予定で、何回でも利用できるとのことである。そこで本稿では、旅行、外食、イベントの3分野で実施されるGo To キャンペーンが、消費者に与えるメリットを統計的な手法を用いて数量的に推計した。

Go To キャンペーンの需要創出効果
(画像=第一生命経済研究所)

推計方法

政府は本事業に1兆6794億円もの予算を計上しており、実質的に旅行商品価格を最大で5割、外食とイベント価格を2割程度引き下げる効果がある。価格が下がれば、財・サービスの購入量は増加する。この増加分のメリットを、「消費者余剰」の増加として計算した。

なお、消費者余剰の定義は、「消費者が財を購入するとき支払ってもよいと考える最大の金額から実際に支払った金額を差し引いた金額」とされている。消費者余剰分析は、政策評価手法として一般的であり、例えば、米英で実施されている規制インパクト分析において、「規制の費用」を測るために用いられている。

Go To キャンペーンの需要創出効果
(画像=第一生命経済研究所)

推計結果

本分析の対象とした3分野における価格弾性値を計測すると、旅行が-1.1、外食が-1.0、イベントが-2.3となる(補論参照)。これら3分野については、補助率が最大で旅行50%、外食とイベントが20%であることからすれば、市場規模の増加率は基準から旅行が最大で+55.1%、外食が+20.2%、イベントが+45.3%それぞれ増加することになる。

コロナ後のそれぞれの市場規模水準は不明だが、家計調査のパック旅行と一般外食、入場・観覧ゲーム代支出に世帯数を乗じた金額に基づけば、2020年1-4月平均で2018年平均対比でそれぞれ42%、79%、76%の水準になる。したがって、仮に旅行・外食・イベントの市場規模が直近2018年の1/2、1/3、2/3になったと場合分けして、試算対象とした3分野の市場規模の拡大額を合計すると、半年間でそれぞれ最大+2.1兆円、+1.4兆円、+2.8兆円となる。この金額がそのままGDPの増加に結び付くわけではないが、2019年度名目GDPのそれぞれ0.4%、0.3%、0.5%に相当する額となる。 なお、旅行の付与については、最大一人当たり2万円分/泊の上限があるため、旅行の効果が下振れる可能性がある一方、外食の最大一人当たり1000円分のポイント等付与は加味していないため、外食の効果が上振れる可能性があることには注意が必要。

Go To キャンペーンの需要創出効果
(画像=第一生命経済研究所)

(補論)利用者メリットの推計方法について

本分析では、消費者余剰の増加を利用者メリットと定義しているが、この消費者余剰の増加は、以下の(1)から(3)の手順によって推計される。

(1)旅行・外食・イベントの需要関数の推計

需要量(Q)を、相対価格(P)及び需要のシフト要因(実質GDP)で説明する関数を推計する。

⊿lnQ=α*⊿lnGDP+β*⊿lnP+ε
ただし、△X:前期から当期にかけての変化幅(Xt-Xt-1)

需要量はそれぞれ国内観光・行楽、飲食、鑑賞レジャーの市場規模(公益財団法人生産性本部「レジャー白書」)とした。

相対価格はそれぞれ総務省「消費者物価」のパック旅行費、一般外食、入場・観覧・ゲーム代を消費者物価総合によって割ることで求めた。

推計期間は2001-2018年とし、βを価格弾力性とする。

(2)消費者余剰の増分となる台形の面積を計算

価格の低下による消費者余剰の増加は、既出の消費者余剰と利用者メリットの概念図に示された台形B(利用者メリット)の面積に等しいが、その面積はそれぞれの価格弾力性に補助率を掛け、コロナ後の市場規模と期間を乗じることによって求められる。したがって、消費者余剰の増分は以下のとおり。

消費者余剰の増分=価格弾力性×補助率×コロナ後市場規模×期間(半年)

(3)消費者余剰額を名目ベースに換算

(2)で求めた消費者余剰は、相対価格で表示された金額であるため、これを名目ベースに変換する。具体的には、消費者余剰の増分×消費者物価で求められる。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 永濱 利廣