要旨

● 25日に全世代型社会保障会議から第二次中間報告案が示された。年金改革などを中心とした昨年の中間報告の内容は法案として具体化され、今年の国会で成立、順次施行されていくことが決まっている。今回の第二次中間報告案も来年の国会成立に向けて具体化されていくことになる。

● 注目点は、フリーランスの労災特別加入に関する記述だ。労災保険の対象外であるフリーランスの特別加入を認める検討が行われるとされている。

● 新型コロナの感染拡大で経済環境が著しく悪化する中、フリーランスの社会保障が整備されていない点が浮き彫りになった。労災保険のみでなく、その他の社会保障制度にも給付内容に非雇用者と雇用者の間の差、フルタイムと短時間労働者の差が存在している。既存制度の周知も含め、社会保障のセーフティネットの網目から漏れる人が生じないようにすること、包摂的な社会保障制度を構築することが政府には求められている。社会保障制度全体を包括した、もう一段踏み込んだ議論が必要だろう。

フリーランス
(画像=PIXTA)

全世代型社会保障会議が新たに中間報告案をとりまとめ

25日、首相官邸の全世代型社会保障会議から、第二次中間報告案が示された(※1)。昨年12月に示された中間報告では、公的年金における受給開始時期のオプション拡大(繰り下げ可能年齢の延長)や厚生年金の適用範囲拡大、70歳までの就業機会確保を企業に求める、といった施策が示された。これらは法案として具体化され、今年の国会で成立、今後順次施行されていくことが決まっている(※2)。今回の第二次中間報告や年末の最終報告も、2021年の国会に向けて制度が具体化されていくことになる。今回示された第二次中間報告案の要旨は以下の通りだ。

資料1.全世代型社会保障検討会議第二次中間報告案の要旨

◇フリーランス

  • 事業者とフリーランスの公正な取引環境の構築
    (ガイドラインの作成、雇用に相当するフリーランスに労働法令が適用される点の明確化、執行強化)
  • フリーランスが労災保険に加入できるよう、特別加入制度の対象を拡大

◇介護

  • 介護サービスにおけるテクノロジーの活用、行政文書の簡素化
  • 高齢者の情報やケアの情報などをビッグデータ化するシステムの構築

◇最低賃金

  • 最低賃金審議会において、中小企業・小規模事業者が置かれている厳しい状況を考慮し検討

◇少子化対策

  • 多子世帯に配慮した負担軽減、給付のあり方を検討

◇新型コロナ対応

  • 新型コロナ対応を行う医療機関への支援、介護・福祉分野への慰労金支給、オンライン診療・面会促進
  • 生活不安を背景とする自殺者増、児童虐待、DV等の防止
  • 解雇・雇止めにあった人への就職支援、テレワーク支援

など

(出所)首相官邸資料より第一生命経済研究所が要約。

フリーランスの労災任意加入を認める方針

新たに具体化されたものの一つが、フリーランスの労働者災害補償保険(以下労災保険)加入に関する項目だ。労災保険は働いているときや通勤時の事故の際に、医療費や休業時の所得補償、障害が残った際の年金給付などを支給する仕組みである。雇用者すべてに加入が義務付けられており、保険料の支払いは企業が行っている。

基本的には雇用者を対象としている労災保険だが、雇用者以外も例外的に加入を認める特別加入の仕組みがある。「労働者ではないが労働者に準じて保護すべき人」が加入対象となっており、中小事業主やタクシー運転手、農林水産業従事者などの加入が認められている(資料2)。保険料は自己負担、事故の際の保険給付は一部を除いて概ね雇用者に近い給付が得られる。今回の中間報告案には、フリーランスで働く人の保護のためにこの対象範囲拡大を検討する旨が記されている。

資料2.労災保険特別加入・主な対象者

  • 一定規模以下の中小事業主など
  • 自営業のタクシー運転手、建設業従事者、漁師など(一人親方等)
  • 自営業の機械運転や高所作業を行う農作業従事者、介護作業従事者など
  • 日本国内の事業主から海外派遣される人(労災保険は原則国内事業者)など
    →フリーランスを追加へ?

(出所)全国社会保険労務士連合会「社会保険労務ハンドブック」などから第一生命経済研究所が作成。

包摂的な社会保障制度の構築を

昨年の中間報告でも、フリーランスなどの社会保障のあり方を検討する旨が示されていた。今回の労災保険のフリーランスへの適用拡大検討の方針は、その一環である。

ただし、新型コロナウイルスの感染拡大が、フリーランスに対する社会保障の議論を加速させたことも確かだろう。既存の社会保障制度は雇用者のみに適用されているものが多く、感染拡大やそれに伴う経済悪化の中で、フリーランスの社会保障が抜け落ちていることが国会でも問題となった。これらに対し、政府はフリーランス向けに助成金や給付金などを新設したが、急ごしらえでの対応となったことは否めない。フリーランスにも必要な社会保障給付については、労働保険・社会保険の仕組みで体系的に保護していくことが望ましいだろう。

社会保障の差は、フリーランス対雇用者、のみでなく短時間労働者対フルタイム労働者の間でも存在している(資料3)。多くの社会保障制度は創設当初、フルタイム雇用者と自営業者の2通りの働き方のみを想定して設計されてきたため、短時間労働、フリーランス、副業など、働き方の多様化に着いていけていないところがある。今回示されたフリーランスの労災保険もその一つだ。

また、制度整備のほか、既存制度の周知も重要だろう。例えば年金では、雇用関係のない自営業者・フリーランスの場合、加入が義務付けられているのは国民年金のみである。これによって得られる老後の終身年金は老齢基礎年金のみとなり、終身の老齢厚生年金を得られる雇用者とは年金額の差が大きくなる。ただし、国民年金加入者には付加年金や国民年金基金の制度があり、これを活用して終身年金を上乗せすることが可能だ。働き方の多様化の中で、社会保障のセーフティネットの網目から漏れる人が生じないようにすること、包摂的な社会保障制度を構築することが政府には求められている。社会保障制度全体を包括した、もう一段踏み込んだ議論が必要だろう。(提供:第一生命経済研究所

大型給付金とリベンジ消費
(画像=第一生命経済研究所)

(※1) 本来はこのタイミングで最終報告として取りまとめられる予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、最終報告は今年末に延期され、今回2度目の中間報告を行うこととされている。

(※2) 主な内容を筆者レポートにまとめている。EconomicTrends「年金制度改正案のポイントと評価」「消えゆく”60代前半”の社会保障」、「年金繰り下げ受給の損得勘定」。


第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
副主任エコノミスト 星野 卓也