20年度は70万戸台半ばまで落ち込むと予想、持ち直しには長い時間がかかる見通し

要旨

● 2019年度の新設住宅着工戸数は88.4万戸と、貸家の減少が続いたことや消費増税後の駆け込み需要の反動減などにより、18年度から▲7.3%減少した。足下では、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、新設住宅着工を取り巻く環境は一段と厳しいものとなっている。

● 20年4月、5月の新設住宅着工戸数は季節調整値(年率換算)で80万戸前後と、もともとの消費増税後の景気落ち込みに新型コロナウイルスの影響が加わり、低水準の結果となった。今後についても、緊急事態宣言期間中である4、5月の住宅メーカー各社の受注が大きく落ち込んだことなどを受け、新設住宅着工戸数はさらに減少する可能性が高い。

● 2020年度、21年度の新設住宅着工戸数をそれぞれ74.1万戸、78.3万戸と予想する。20年7-9月期にかけて大きく落ち込んだ後、10-12月期以降は持ち直しを見込むが、回復ペースは緩やかなものにとどまるだろう。消費マインドの低迷が続いていることに加え、雇用・所得環境が急速に悪化していることが回復の頭を押さえる。また、景気の持ち直しには時間がかかるとの見方が多数派であり、住宅取得意欲が大きく強まることは考えにくい。21年度についても持ち直しは限定的なものとなるだろう。

着工
(画像=PIXTA)

2019 年度は前年度比▲7.3%、新設住宅着工を取り巻く環境は厳しい

2019年度の新設住宅着工戸数は88.4万戸(前年度比▲7.3%)と18年度から減少した。利用関係別にみると、持家が前年度比1.5%、貸家が同▲14.2%、分譲住宅が同2.8%となり、特に貸家が大きく減少している。これは相続税対策による貸家建設ニーズの一巡や金融機関のアパートローン融資の厳格化が主因である。また、持家を中心に消費増税に伴う駆け込み需要の反動減がみられた。ただし、今回の消費増税においては、住まい給付金や住宅ローン減税の拡充などにより駆け込み需要が平準化されたことや、過去の増税時に駆け込みがみられた貸家がもともと減少トレンドとなっていたことなどから、反動減は比較的小幅なものにとどまった。分譲住宅については、駆け込み需要とその反動は明確には現れなかったが、マンションの販売価格上昇による販売不振や在庫の高止まりなどが影響し、前年度比で減少した。

過去の消費増税時と同様に、今回も増税の1~2四半期前頃が駆け込みのピークとなり、その後反動減がみられた。2014年の消費増税時には3か月程度で落ち込みに歯止めがかかり、貸家がけん引役となって持ち直しに転じた。一方、今回はけん引役が不在の中、消費増税後の景気の落ち込みや消費者心理の低迷などを受け、均せば低水準での推移が続いている。(資料2)。さらに、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、足下では新設住宅着工を取り巻く環境は極めて厳しいものとなっている。

住宅着工戸数の見通し(2020・21 年度)
(画像=第一生命経済研究所)
住宅着工戸数の見通し(2020・21 年度)
(画像=第一生命経済研究所)

新設住宅着工への新型コロナウイルス感染拡大の影響

2020年に入り、新型コロナウイルスの感染が拡大したことで、中国では都市封鎖、工場の操業停止など経済活動の制限が行われた。その後日本では2月から徐々に感染者数が増加、4月には全国で緊急事態宣言が発令された。20年初からの新設住宅着工戸数をみると、20年1月:季節調整値(年率換算):81.3万戸(前月比▲4.6%)→2月:同87.1万戸(同+7.2%)→3月:同90.5万戸(同+3.9%)→4月:同79.7万戸(同▲12.0%)→5月:同80.7万戸(同+1.3%)と推移した。緊急事 態宣言期間中である4、5月は特に低い水準となっている。消費増税後、景気が落ち込んでいたところに、新型コロナウイルス感染拡大の影響が重なった形だ。緊急事態宣言が解除されたことにより6月以降は持ち直しが期待されるところだが、実際には6月以降も落ち込みが続く可能性が高い。

住宅メーカー各社の受注動向をみると、持家、貸家を中心に前年比でマイナスが続いている(資料3)。受注と新設住宅着工戸数の前年比を比較すると、持家、貸家がより近い動きをみせ、3か月程度のラグを持って受注動向が着工戸数に反映される(資料4)。この関係からみると、持家、貸家の4、5月の着工戸数については、緊急事態宣言前の1、2月ごろの受注動向を受けた結果であると考えられる。つまり、4、5月の新設住宅着工戸数の低迷は、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあるが、それ以上に消費増税後の景気の落ち込みや消費者心理の低迷による影響が大きい可能性が高い。そして、3月以降の新型コロナウイルス感染拡大、緊急事態宣言の影響は、夏場にかけて大きく影響してくると考えられる。

住宅着工戸数の見通し(2020・21 年度)
(画像=第一生命経済研究所)
住宅着工戸数の見通し(2020・21 年度)
(画像=第一生命経済研究所)
住宅着工戸数の見通し(2020・21 年度)
(画像=第一生命経済研究所)

緊急事態宣言期間中である4、5月のデータを見ると、4、5月の住宅展示場来場者数は前年比で▲70%程度減少したとみられ、住宅メーカー各社の受注動向も大きく落ち込んだ。持家、貸家の受注は3月から下げ幅を拡大し、4、5月はともに▲30%程度減少した。また、分譲一戸建住宅、分譲マンションの受注も5月に前年比▲50%以上減少している。特に着工戸数と近い動きをする持家、貸家の受注は3か月程度のラグをもって反映されるため、3月から5月にかけての受注減少は夏場にかけて着工戸数に影響がでると考えられる。今後、持家、貸家の着工戸数が受注動向と同程度の減少幅で推移し、給与住宅が横ばい、分譲住宅が夏場にかけて減少すると仮定すると、7、8月の新設住宅着工戸数は季節調整値(年率換算)で70万戸を下回る水準となる(資料5)。新型コロナウイルスによる住宅着工への悪影響はむしろこれからが本番となる可能性が高い。

住宅着工戸数の見通し(2020・21 年度)
(画像=第一生命経済研究所)

緊急事態宣言解除後も新設住宅着工を取り巻く環境は厳しい

5月25日に緊急事態宣言が全国で解除された。それに伴って経済活動の抑制度合いも徐々に緩和、消費者心理も緩やかに持ち直している。とはいえ、新設住宅着工を取り巻く環境は今後も厳しいものになるだろう。

足下の景気の急激な落ち込みにより、雇用・所得環境は悪化している。失業率、有効求人倍率は急速に悪化、企業の夏のボーナスも同▲6.0%(経団連「2020年夏季賞与・一時金大手企業業種別妥結状況」[第一回集計])と減少しており、今後も雇用・所得環境の悪化は続く見通しだ。こうした所得面での制約が住宅着工回復の頭を押さえるだろう。

住宅着工戸数の見通し(2020・21 年度)
(画像=第一生命経済研究所)

また、内閣府の「景気ウォッチャー調査」をみると、現状判断DIは2月から低下、4月には過去最低水準を記録するなど、景況感はリーマンショック時を超える落ち込みとなっている(資料7)。景気ウォッチャー調査(住宅関連、先行き)と新設住宅着工戸数を比較すると、両者は1~2四半期程度のラグを持って連動している。この関係を踏まえると、10-12月期まで住宅着工には悪影響が残存する可能性が高い(資料8)。4-6月期を底に景気は持ち直すとの見方が多数派だが、新設住宅着工戸数を取り巻く環境は厳しく、本格的な持ち直しは当面の間見込めないだろう。

住宅着工戸数の見通し(2020・21 年度)
(画像=第一生命経済研究所)
住宅着工戸数の見通し(2020・21 年度)
(画像=第一生命経済研究所)

新設住宅着工戸数を20年度74.1万戸、21 年度は78.3万戸と予想

2020年度の新設住宅着工戸数を74.1万戸、21年度を78.3万戸と予想する。新型コロナウイルス感染拡大に伴う景気の大幅な落ち込みを受け、20年度の新設住宅着工戸数は前年度から▲15%以上落ち込むとみる。4-6月期の消費者心理の落ち込みや雇用・所得環境の悪化、住宅メーカー各社の受注の大幅減少などにより、7-9月期は季節調整値(年率換算)で70 万戸を下回る水準になると予想する。7-9月期を底に新設住宅着工戸数は持ち直すとみるが、景気の持ち直しには時間がかかるとの見方が多く、10-12月期以降も低迷が続くだろう。

2008年9月のリーマンショック時をみると、2008年7-9月期以降、新設住宅着工戸数は減少を続け、底を打つまでに1年程度時間を要した。また、底打ち後の持ち直しも鈍く、リーマンショック発生から2年後の2010年7-9 月期でも2008年7-9月期の水準を大きく下回っていた(資料9)。今回のコロナショックにおいても、景気の持ち直しに長い時間を要するとの見方が多数派で、新設住宅着工戸数の持ち直しは鈍いものとなる可能性が高い。2021年度も新設住宅着工戸数は低水準での推移が続くだろう。

今後、想定よりも早いペースで景気が回復し、消費者心理の持ち直し、雇用・所得環境の改善が見られれば、新設住宅着工戸数の持ち直しのペースが速くなる可能性はある。一方、景気の持ち直しが想定よりも遅くなる、また、新型コロナウイルス感染再拡大による再度の経済活動自粛要請がなされる可能性などリスクもあり、先行き不透明感は強い。20年度、21年度とも新設住宅着工戸数は低迷が続くとみている。(提供:第一生命経済研究所

住宅着工戸数の見通し(2020・21 年度)
(画像=第一生命経済研究所)
住宅着工戸数の見通し(2020・21 年度)
(画像=第一生命経済研究所)

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
エコノミスト 奥脇 健史