要旨

● 2019年度の税収額は58.4兆円。昨年度税収と比較すると1.9兆円の減少となった。2019年10月に消費税率が10%へ引き上げられたことで消費税は増加したが、景気悪化に伴う所得・法人税の減少によって税収全体では減少した。

● 新型コロナウイルスによる経済への影響を勘案すると、税収は50兆円台前半への落ち込みが見込まれる。ここに、納税猶予の影響が下押し要因として加わり、さらに下振れする可能性もある。

● 税収落ち込みと歳出増で、20年度の国地方PB赤字は急拡大する見込みだ。政府財政目標の2025年度の黒字を実現するためには、経済V字回復と拡大させた財政支出の急速な絞り込みが必要になる。目標達成は厳しくなっていると言わざるを得ない。

経済
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2019年度税収は58.4兆円、前年度から減少

3日、財務省から2019年度の一般会計決算税収と純剰余金等の決算概要見込みが示された。2019年度の一般会計税収額は58.4兆円と2018年度の60.3兆円から減少した。当初予算時点では62.5兆円、昨年12月の補正時点では60.2兆円が見込まれていたが、米中貿易摩擦や製造業循環の弱さに新型コロナウイルスの感染拡大の影響が加わり、2018年度を下回る水準での着地となった。税目別にみると、所得税が19.2兆円(18 年度:19.9兆円)、法人税が10.8兆円(同:12.3兆円)、消費税が18.4兆円(同:17.7兆円)となった。景気や金融市場の動向を敏感に反映する所得税・法人税の減少が全体の足を引っ張った。消費税が増加しているのは2019年10月の消費税率引き上げ(8→10%)の影響だ。なお、消費税は昨年末の見込み値からは0.7兆円の下振れとなっており、新型コロナウイルスを背景とした中国からの輸入急減などが影響したとみられる(※1)。

なお、月次季節調整値をみると、4月に大幅な落ち込みとなった後に5月に急反発しているが、これは新型コロナウイルスの感染拡大に伴って確定申告の期限が1か月後ろ倒しされ、通常4月に納入される税が5月にシフトしたことによるものだ。トレンドは下向きであり、税収の回復を示すものではない。

税収減は始まったばかり
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税収減は始まったばかり、財政赤字は急拡大へ

新型コロナウイルスの影響は2020年度に本格化することになる。経済活動の低迷に伴い、所得税・法人税・消費税の基幹3税を中心に下押し圧力が強まることとなろう。2020年度の税収は50兆円台前半への減少を予測している(資料2)。筆者の予測値は大幅な落ち込みであることは間違いないが、落ち込み幅はリーマン危機時に比べるとマイルドともいえる。これは①昨年10月の消費税率引き上げ(昨年度の途中で税率が引き上げられたため、2020年度税収の増加要因にもなる)、②各国当局の大 規模な経済政策もあって金融市場が堅調、であることの2点によるところが大きい。

なお、実際に納入される税収額は、4月の緊急経済対策で措置された納税猶予措置の影響が加わるが、どの程度利用されるか定量的な判断が難しく推計では考慮していない。納税猶予措置は、新型コロナによる収入減少など、一定要件を満たす場合に最大1年間納税を猶予するものだ。2020年2月1日~2021年2月1日までを納期限とする国税が対象だ。同措置は4月末に施行されている。国税庁のプレスリリースによれば、2020年4、5月分の納税猶予適用件数は26,385件、猶予税額は450.58億円とされている。現状の利用金額は税収全体の規模からすれば大きくはないが、今後資金繰りに窮する企業が増えれば利用が拡大する可能性がある。これは、20年度の税収減要因となる(20年度分を1年猶予した場合、20年度の税収減、納税する21年度の税収は押し上げられることになる)。

次に、20年度の財政収支について、見込み値を示したものが資料2である。経済活動の悪化に伴う税収減、2020年度の2度の補正予算による歳出増の2点を主に考慮すると、国・地方の基礎的財政収支は▲17.0%、一般政府財政収支は▲18.1%まで拡大すると推計される。推計には考慮しきれていない点があり(※2)、上下両方にリスクがある数字だが、これまでにない規模での財政赤字の拡大になることは間違いないだろう。

政府は、財政再建計画の数値目標として2025年度の国・地方基礎的財政収支の黒字化を掲げてきた。今回新型コロナウイルスの影響で財政赤字が大きく拡大しており、目標の実現には経済のV字回復や拡大させた財政支出の急速な絞り込みが必要になる。財政目標の実現は大きく遠のいたと言わざるを得ない。(提供:第一生命経済研究所

税収減は始まったばかり
(画像=第一生命経済研究所)

(※1) 消費税は輸入の際にもかかり、輸入額(保険料などを含むCIFベース)に関税などを上乗せした価格に消費税率を乗じた額が、輸入の時点で課される。ただし、このすべてが消費税収の減収要因となるわけではない。企業が仕入や投資のために行った輸入(消費税の対象となる「消費」ではない取引)の場合は、その分が決算後に控除される(納めるべき国内分消費税が減額される)からだ。しかし、国の決算時期と企業の決算期が異なっている(3月決算ではない)場合には、この控除が翌年度以降の税収納付時にずれ込むケースが生じ、輸入消費税減の影響が年度の消費税にも響くことになる 。

(※2) 補正予算をすべて消化する前提で数値を作成したが、実際には使いきれずに不用額となるものがある。また、今後の追加補正予算や地方での行われた予算の追加などは織り込んでいない。


第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
副主任エコノミスト 星野 卓也