不動産信託は相続対策として有効で、近年注目を集めています。

「相続=遺言書」のイメージが強いと思いますが、遺言書では一代先までしか継承者を指定できません。

その点不動産信託であれば、誰に不動産財産を継承させるのか(不動産信託受益権者)を30年先まであなたが決められます。

ただし相続税の節税にはならないので、注意をしてください。

また不動産信託は長期間の契約拘束がメリットですが、この拘束力がデメリットとなる可能性もあるので知っておきましょう。

今回は相続専門の税理士が、不動産信託を相続対策で活用する仕組みをわかりやすく解説します。

税理士が教える相続税の知識
(画像=税理士が教える相続税の知識)

1.不動産信託は相続対策として有効~孫の代まで継承できる~

「不動産信託受益権の売買は一部の投資家だけのもの…」と思い込んでいませんか?

不動産信託は相続対策として有効で、信託法を利用すれば不動産財産の継承者を孫の代まであなたが決められます。

ちなみにこの「孫」は、実際に生まれていない「胎児」でも可能です。

まずは「具体的にどのような人が不動産信託を相続対策に活用すべきか」を紹介しておきます。

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信託法第九十一条で定められている「信託行為の定めによる受益者の権利行使の制限の禁止」を使えば、委託者であるあなたが不動産信託契約を締結してから30年以上も拘束力があります。

分かりやすく言えば、「不動産信託契約30年目に存命している人まで、不動産信託受益権者を指定できる」ということです。

不動産財産を継承させるならば「遺言書を作成する」という方法もあり、該当不動産を次世代の誰に相続させるのかを決めることは可能です。

ただし遺言書では、1代先までしか相続人を指定できません。

不動産信託を活用すれば1代先だけではなく、「長期的に」継承者を決められます。

1-1.不動産信託を活用しても相続税の節税にはならない

不動産信託を利用すれば孫の代まで継承者を決められますが、相続税対策(節税)にはなりません。

不動産信託を利用すれば該当不動産は「信託財産(金融商品)」となりますが、不動産信託受益権は相続税の課税対象となります。

そもそも不動産信託受益権の相続税評価額は、信託財産の時価(元本)によって決まるため、相続税の節税にはならないのです。

あくまで「不動産財産の継承者を長期的に指定できる」という相続対策なので、覚えておきましょう。

ただし、これから現金資産を不動産信託に持ち替える場合は、相続税の節税対策として有効です。

相続財産の評価をするときに、不動産は時価よりも低く評価されるためです。

2.不動産信託とは?仕組みをわかりやすく解説

不動産信託は「長期的に継承者を決められる」という相続対策が可能ですが、そもそも不動産信託とはどのような仕組みなのでしょうか?

不動産信託の仕組みを解説する前に、まずは「委託者」「受託者」「受益者」の役割を知っておきましょう。

税理士が教える相続税の知識
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不動産信託は「委託者」「受託者」「受益者」の3者がそれぞれの役割を担い、以下のような仕組みとなります。

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不動産の所有者である委託者(あなた)が不動産信託契約を締結すれば、受託者(信託銀行)がテナント募集などの運用や賃貸借契約などの管理を行います。

そして、賃料などから必要経費(信託報酬・固定資産税など)を差し引いた金額を、配当金として受益者に支払う…これが不動産信託の流れです。

今回のイメージでは「委託者=受益者」で解説しましたが、「委託者≠受益者」の不動産信託も可能です。

2-1.不動産信託の契約後、形式的な所有権は「受益者」になる

不動産信託の名義人(所有権)は、形式上「受託者(信託銀行)」になります。

ということは、「不動産信託財産を売却する権利」も受託者にあるということ。

「勝手に売却されれば孫の代まで継承できないじゃないか!」というお声が聞こえてきそうですが安心してください。

不動産を受託者に売却されて困る場合は、不動産信託の契約締結時に受託者の権限に制限を付けられます。 不動産信託の契約内容は、将来のシミュレーションをした上で綿密に確認しておきましょう。

3.不動産信託を相続対策で利用するデメリットや注意点

不動産信託を相続対策で活用すると沢山のメリットがある反面、デメリットや注意点もあります。

まずは不動産信託を相続対策で利用する「メリット」から紹介します。

3-1.不動産信託を相続対策で活用するメリット

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不動産信託の拘束力を活用すれば、信託契約から30年先まで、誰に不動産信託受益権を継承させるかをあなたが決められます。

しかもプロが不動産運用や管理をしてくれるため、従来よりも運用利益を上げられる可能性もあります。

そして毎月一定の配当金が支払われるため、あなたが老後に病などを患った時はもちろん、亡き後も残された家族の生活を支えることができます。

3-2.不動産信託を相続対策で活用するデメリット

税理士が教える相続税の知識
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不動産信託は第三者である信託銀行などが受託者となるため、どうしても手数料や報酬が発生します。

仮に不動産運用がうまく行かなければ債務を負う可能性もあり、運用で必要となった経費(内装工事代など)も全て受益者が負担することになります。

また不動産信託受益権が相続財産として継承された後、第二受益者や第三受益者は簡単に信託契約解除できません。

これは委託者兼受益者であるあなたの相続が発生した時点で、不動産信託の契約書に記載されている内容を変更できないためです。

長期間に渡って不動産を継承できるのはメリットですが、逆にこの拘束力が将来的に家族を苦しめる可能性もあるということです。

「第三者が入るのはいやだ!」という人は、不動産信託ではなく「家族信託」という方法もあります。

3-3.不動産信託を相続対策で活用する際の注意点

不動産信託を相続対策で活用する際、第一受益者から第二受益者への相続は遺留分に配慮する必要があります(第二受益者以降は遺留分減殺請求の対象外)

この遺留分とは、配偶者や直系血族の法定相続人に認められている「最低限の遺産取得分」のことです。

あなたの相続が発生した時、法定相続人が意義の申し立てをせずに遺留分減殺請求をしなければ、争続に発展することはありません。

ただし法定相続人の1人でも遺産分配の割合で異議申し立てをした場合、不動産信託をしても、何の意味も持たない可能性があるということです。

4.不動産信託を相続対策で活用!シミュレーションしてみよう

不動産信託を相続対策として活用すべきケースは冒頭でも紹介しましたが、具体例を挙げてみましょう。

今回は「二次相続も考えて不動産信託を活用」と「事業継承も考えて不動産信託を活用」の2パターンにおいてシミュレーションをしました。

4-1.二次相続も考えて不動産信託を活用

不動産信託を活用して二次相続も考えて確実に継承させる場合、ポイントとなるのは「30年目に存命している人まで受益権者を指定できる」点です。

「委託者=受益者」の不動産信託の場合、第一受益者はあなたになりますが、第二受益者以降は委託者(あなた)が指定できます。

例えば…

A. 配偶者の生活費を確保しつつ孫の代まで継承したい B. 確実に孫に不動産財産を継承したい C 障害がある子供の生活費を確保したい

と仮定して、それぞれの不動産信託受益権の相続シミュレーションをしてみましょう。

税理士が教える相続税の知識
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例えばAのように「 配偶者の生活費を確保したい」場合。

仮にあなたが不動産信託契約10年後に亡くなった場合、第二受益者(配偶者)が不動産信託受益権を相続します。

第二受益者(配偶者)が仮に不動産信託契約20年後に亡くなった場合、第三受益者(子供①)が不動産信託受益権を相続。

不動産信託契約30年目以降に第三受益者(子供①)が亡くなった場合、第四受益者(孫)が不動産信託受益権を相続し、第四受益者(孫)の死亡によって信託契約は終了となります。

Aのシミュレーションでは、不動産信託契約20年後に配偶者から子供①に不動産信託受益権の相続をしています。

ただし配偶者が不動産信託契約から、30年以上長生きすることも考えられます。

この場合、30年目に存命する受益者は子供①となるため、孫には受益権の相続はありません(シミュレーションBと同じ流れになる)。

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不動産信託契約10年後に委託者兼受益者(あなた)の相続が発生した時は、遺留分減殺請求の対象となります。

事業用資産に影響がないよう、子供②の遺留分に配慮しないといけません。

ただし事業用資産の不動産信託の第二受益者(配偶者)の相続が発生した時、遺留分減殺請求の対象にはなりません。

予め「第二受益者の受益権は後継者である子供①が取得する」と定めておけば、事業用資産から子供②へ遺産分割をする必要がないため、スムーズに後継者に事業継承できます。

5.不動産信託を活用すれば、30年後まで継承先を決められる

遺言書では一代先までしか継承させる人は決められませんが、不動産信託を活用すれば、信託契約30年後まであなたが不動産信託受益権者を決められます。

残念ながら相続税の節税対策にはなりませんが、スムーズな事業継承を考えた相続対策をお考えの方には、おすすめの対策と言えるでしょう。

今回紹介した不動産信託は「不動産管理」が主流ですが、不動産は「家族信託」や「土地信託」でも活用できます。 どの信託を選択すれば良いのかはケースによって異なる上、金融機関によって商品内容なども全く異なります。

不動産信託は素人判断すると将来的なリスクが大きくなるので、必ず専門家に相談されることをおすすめします。(提供:税理士が教える相続税の知識