遺産相続の手続きでは、手続きの方法だけでなく遺産をいつもらえるかを知っておくことも重要です。

遺産相続の手続きについては、本やネット記事などで解説されていることが多いですが、手続きを済ませた後で遺産をいつもらえるかについてはあまり解説される機会がありません。

故人の預金がすぐにもらえると思って銀行に行っても、預金の引き出しには数週間以上かかることが大半です。遺産をいつもらえるかを事前に知っておけば、必要な手続きに早く取りかかることができるでしょう。

この記事では、相続した遺産がいつもらえるか、だいたいの目安をご紹介します。あわせて、遺産をもらう前にお金が必要になった場合の対処法もお伝えします。

税理士が教える相続税の知識
(画像=税理士が教える相続税の知識)

1.相続した遺産をもらえるのは数週間たってから

亡くなった被相続人の遺産を相続するには、財産の種類に応じてそれぞれ次の場所で手続きをします。窓口に出向くほか、郵送で手続きができる場合もあります。

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ただし、遺産相続の手続きをしても、その場ですぐに遺産をもらえるわけではありません。

預貯金や株式は、相続人がもらえるようになるまで数週間程度かかる場合があります(もらえるまでの期間は金融機関によってまちまちです)。不動産も相続人の名義に書き換えられるまで、数週間~1か月程度は必要です。

提出書類に不備がある場合や家族関係が複雑な場合は、さらに時間がかかることがあります。

1-1.遺産相続の手続きに時間がかかる理由

遺産相続の手続きをしてから遺産をもらえるまで数週間もかかるのは、財産の所有者本人が死亡したことで、事実の確認に時間がかかるからです。

もし故人の預金が簡単に引き出せるなら、ある相続人が他の相続人に無断で預金を全部引き出すことができてしまいます。赤の他人が相続人になりすまして預金を引き出すこともありえます。

相続手続きでは、提出された戸籍謄本などをもとに被相続人(故人)が本当に死亡したのか、届け出をした人は相続が認められているのかといったことを確認します。このような慎重な手続きで、遺産の横領や遺族どうしの相続トラブルを防いでいます。

なお、銀行など金融機関に死亡を届け出ると、預貯金の口座が凍結されるので注意が必要です。口座が凍結されると、相続手続きが終わるまで入金や出金ができなくなります。

1-2.相続人どうしでもめるとより多くの時間がかかる

ここまでお伝えした「遺産がもらえるまで数週間以上かかる」という目安は、金融機関や登記所などで手続きをしてからの期間です。相続人どうしでトラブルが発生して遺産分割協議がまとまらなければ、いつまでたっても遺産をもらうことはできません。

遺産を早くもらうためには、誰が何を相続するかできるだけ早く決めることも必要です。

1-3.遺言書があっても時間がかかることがある

亡くなった被相続人が遺言を書いていれば、相続人は原則として遺言のとおりに遺産を相続します。遺産分割協議をしないため遺産をもらえるまでの時間は早くなると思われがちですが、必ずしもそうとはいえません。

自筆で書かれた遺言(自筆証書遺言)が自宅などで保管されていた場合は、開封する前に家庭裁判所で検認という手続きをする必要があります。

遺言書の検認には1か月以上の期間が必要で、遺産をもらえるまでの期間はそれだけ長くなってしまいます。

家庭裁判所での検認が必要な遺言の種類

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2.遺産をもらう前にお金が必要になったときの対処法

遺産相続では、手続きをしてから実際に遺産をもらえるまで数週間程度の時間が必要です。その間に葬儀費用や当面の生活費などお金が必要になった場合でも、故人の預金を勝手に引き出してはいけません。

遺産をもらう前にどうしてもお金が必要になった場合は、次のような対処法があります。

  • 死亡保険金を請求する
  • 預金の仮払い制度を利用する

この章では、故人の預金を勝手に引き出してはいけない理由と、先にお金が必要になったときの対処法について詳しく解説します。

2-1.故人の預金を勝手に引き出すのはトラブルのもと

故人の預金は、死亡を届け出た時点で口座が凍結されて入出金ができなくなります。

しかし、実際には故人の預金を引き出せることもあります。たとえば、相続人がキャッシュカードの暗証番号を知っていて、ATMから引き出す場合などです。

このように正式な手続きをしないで故人の預金を勝手に引き出すと、次のようなトラブルに見舞われます。

  • 遺産の横領が疑われて他の相続人ともめる
  • 単純承認したことになり相続放棄ができなくなる

葬儀費用を支払うために必要であったとしても、故人の預金を勝手に引き出すと、他の相続人から「遺産を横取りした」と疑われる場合があります。どうしてもお金が必要な場合は、葬祭業者から領収書をもらうなど、引き出した預金の使途を証明できるようにしておくとよいでしょう。

また、預金を勝手に引き出すと単純承認をしたことになります。単純承認は被相続人(故人)の遺産・債務をすべて相続するものであり、あとから相続放棄することはできません。故人に多額の借金がある場合は、借金の返済義務を負わなければなりません。

2-2.死亡保険金はすぐにもらえる

遺産をもらう前にどうしてもお金が必要になった場合の対処法の一つは、死亡保険金の請求です。故人が死亡してすぐに請求することが多いですが、まだの場合は速やかに手続きをしましょう。

契約上の保険金受取人が保険会社に請求すると、早ければ数日で死亡保険金がもらえます。

故人が旅行先の不慮の事故で死亡したときは、クレジットカードに付帯されている国内・海外旅行傷害保険から死亡保険金が下りる場合があります。ただし、旅行費用がカードで支払われていることが条件となっている場合があるので確認が必要です。

なお、死亡保険金は受取人固有の財産であり、故人の遺産ではありません。したがって、相続人どうしで分け合う対象にはなりません。

2-3.遺産分割前でも預金は一定額まで引き出し可能

遺産分割協議がまとまるまでの間にどうしてもお金が必要になった場合は、遺産分割前の預金の仮払い制度を利用することもできます。

故人の預金は、正式な相続手続きが済むまで引き出すことができませんでした。しかし、それでは遺族が生活に困ることもあるため、2019年に施行された改正民法で「遺産分割前の相続預金の払戻し制度」(仮払い制度)が創設されました。

仮払い制度では、遺産分割が確定する前であっても、一定の範囲で故人の預金を引き出すことができます。ただし、相続手続きと同様に戸籍謄本などの提出が必要で、預金もすぐにはもらえません。


遺産分割前の相続預金の払戻し制度遺産分割前の相続預金の払戻し制度では、金融機関に直接申し出るか、家庭裁判所に審判を求めるかのいずれかの方法で故人の預金を引き出すことができます。

金融機関の窓口に直接申し出る
金融機関の窓口に直接申し出る場合は、次に示す金額まで他の相続人の同意なく預金を引き出すことができます。
被相続人の死亡時の預金残高(口座・明細ごと)×1/3×預金を引き出す人の法定相続分
(ただし同一の金融機関ごとの上限は150万円)

家庭裁判所に審判を申し立てる
遺産分割協議がまとまらず、家庭裁判所に遺産分割の調停または審判を申し立てている場合は、家庭裁判所に預金の引き出しの審判を申し立てます。申し立てが認められると、審判書謄本を金融機関に提出して預金を引き出します。

これらの方法で引き出した預金は、遺産の一部を先に受け取ったものとして相続分から差し引かれます。

3.遺産相続の手続きを他の人に依頼している場合

遺産相続ではさまざまな手続きが必要になります。手続きをする窓口の多くは平日の日中しか開いていないため、手続きを他の親族や専門家に任せる場合も多いでしょう。遠方に住んでいる相続人であれば、故人の近くにいた親族に依頼することもあるかもしれません。

しかし、遺産相続の手続きを他の人に依頼すると、遺産をいつもらえるかがわかりにくくなってしまいます。すぐに手続きをしてくれればよいのですが、仕事などを抱えていて手続きができないケースもあるようです。

また、遺言で遺言執行者が指定されていれば、遺言執行者が一切の手続きを行うため、遺産をいつもらえるかは遺言執行者次第になってしまいます。

遺言執行者は弁護士や信託銀行など専門家がなることが多いですが、専門家だからといって手続きが早いとも限りません。専門家は同時にいくつもの依頼を受けていて、後回しにされることもないとはいえません。

あまりに手続きが遅く、遺産をいつもらえるかめどが立たないようであれば、手続きを依頼した人や遺言執行者に事情を聞いてみましょう。

4.まとめ

遺産相続の手続きをしても遺産はすぐにもらえるわけではなく、多くの場合で数週間程度の時間が必要になります。相続人どうしでもめている場合や、他の人に手続きを依頼している場合は、さらに多くの時間がかかります。

これらのことを頭に入れて、遺産相続の手続きは早めに取りかかることをおすすめします。(提供: The Motley Fool Japan