新型コロナウイルスの影響により、企業の業績悪化のニュースが連日報道されています。内閣府が2020年4月23日に公表した月例経済報告でも11年ぶりに「悪化」の表現が使われました。コロナ禍の影響によって、今後の不動産投資市場はどのようになるか心配している人も多いのではないでしょうか。
そこで、この記事ではアフターコロナにおける不動産投資への影響について解説していきます。
住宅不動産投資への影響は限定的
不動産投資市場においては、コロナ禍で話題の中心は事業系テナントの賃料減額です。
2020年5月8日には、国も新型コロナウイルスで売上が減少している事業者に賃料の3分の2を給付する支援策を検討することを公表しています。飲食店等の一部のテナントでは、既にオーナーとの賃料減額協議が始まっており、ビルオーナーの中には早くも影響を受けている人もいるのではないでしょうか。
一方で、住宅の家賃についてはコロナ禍の影響はほとんど発生していない状況です。総務省が2020年4月24日に公表した「2015年基準消費者物価指数」によると、2020年3月の全国の家賃指数は99.2となっています。家賃指数とは、住宅の家賃の変化を指数化したものです。99.2という指標は、前月比は0.0%、前年同月比も0.0%であり、前月や昨年と比較しても変わらない数値となります。つまり、住宅の家賃はコロナ禍によってほとんど影響を受けていません。
実は、住宅の家賃というのは景気の影響をほとんど受けないというのが特徴です。以下に、全国の家賃指数の過去20年の推移を示します。
過去20年の間には、2008年9月にリーマンショックがありました。家賃指数は、20年間で緩やかに下落はしているものの、リーマンショックによって大きく下がったという状況には至っていません。
住宅の家賃はリーマンショックでも大きな変化が見られなかったことから、コロナ禍でもあまり変化しないことが予想されます。
逆に言えば、不況のような時期こそ強みを発揮するのが住宅投資です。コロナ禍になってからは、改めて住宅投資の強みを実感している人は多いと思われます。
不動産投資の中でも、住宅投資に関してはコロナ禍の影響が限定的であり、住宅だからこそ安心して投資できるといえます。
株価やJ-REITの値動き
この章では、株価やJ-REITの値動きも検証していきます。
最初に株価の動きについて見てみます。株価の長期的な値動きは以下の通りです。
株価はここ数年、乱高下を繰り返していますが、概ねリーマンショック時よりも高い水準で推移していることが分かります。
また、直近1年間における株価の月次推移は以下の通りです。
直近においては、実は株価は大きくは下落していません。コロナ禍の初期段階である2020年3月時点では下落は見られましたが、その後は2019年8月程度の水準まで回復しています。
株価は不動産価格の先行指標です。株価が大きく下落していないことから、不動産価格も大きな下落は生じないものと予測されます。
次に東証REIT指数の長期的な値動きを示します。
東証REIT指数についても、ここ数年はリーマンショック時よりも高い水準で乱高下しています。また、月次の推移を示すと以下の通りです。
東証REIT指数は、コロナ禍によって激しい値動きの変化が見られます。REITの中にはオフィスビルや店舗等の事業用不動産が多く含まれており、REITはコロナ禍の影響は避けられない状況です。
投資対象としては、コロナ禍の影響の少ない「住宅の実物不動産」の方がREITとりも優位性があるといえます。
アフターコロナで期待されるテレワーク市場
コロナ禍では、在宅によるテレワークの実践が一気に進みました。テレワークは従来から技術的には可能でしたが、新型コロナウイルスによって導入が浸透したことは、ある意味、コロナ禍の副産物だったといえます。
テレワークは、企業にとっては大幅なコスト削減を実現する具体策です。テレワークを本格的に運用すれば、オフィスを借りる床面積も減少させることができますし、従業員の交通費や残業代も削減することができます。ペーパーレス化も進むことから、コピー機のリース代や紙代等の削減も可能です。
テレワークによって企業が利益を増やせる可能性が十分にあることから、テレワークに価値を見出していく企業は増えていくものと考えられます。すると、コロナ禍が終わったとしても、テレワークはプラスの意味で継続検討がされていくものと予想されます。
テレワークが浸透すれば、賃貸住宅に求められるスペックは高速通信設備です。テレワークでは、テレビ会議等で会話に微妙なタイムラグが発生する等、各家庭間における通信速度の差が課題として浮き彫りになりました。
今後、テレワークが浸透していけば、賃貸住宅の入居希望者は高速通信網が整備された住宅を選ぶようになってきます。住宅投資でも、新築住宅であれば高速通信網が整備されている物件が多いです。そのため、これから住宅投資をするのであれば、テレワークを意識して建てられた新築物件に投資することが望ましいといえます。
新たに導入される配偶者居住権とは
実は、コロナによってかき消されてしまっている重要な話題は多いです。その一つに、2020年4月から創設された配偶者居住権があります。
配偶者居住権は相続市場に大きな影響を与える重要な民法改正ですが、ほとんど報道されないので知らない人も多いと思います。
- 配偶者居
- 配偶者が相続開始のときに居住していた被相続人の所有建物を、終身または一定期間、配偶者が無償で居住できる権利を与える制度
従来、配偶者が自宅の所有権を相続すると、配偶者が遺産分割によって自宅以外の現金を相続できないという問題がありました。
例えば、被相続人の財産が自宅は6,000万円、現金は4,000万円であり、相続人が配偶者と1人の子のケースを考えます。
配偶者が自宅を相続してしまうと、その時点で法定相続分の2分の1を超えてしまうため、子供が残りの現金4,000万円を受け取ることになります。すると、配偶者が全く現金をもらえないため、その後の生活が困難になるという問題が生じていました。
そこで、自宅については配偶者居住権によって配偶者に住むだけの権利を与え、所有権を子供に引き継がせることをできるようにしたのが配偶者居住権です。
配偶者居住権を用いれば、子供が自宅、配偶者が現金を引き継ぐことができます。資産配分もほぼ2分の1ずつであり、配偶者が現金を引き継げることから生活面でも安心できるというメリットが生じるのです。
しかしながら、配偶者居住権は配偶者にとってはメリットがありますが、配偶者以外の相続人には大きなしわ寄せが発生します。実際に配偶者居住権が設定された住宅が売却できる可能性は低く、配偶者居住権の設定された不動産を引き継いだ相続人は実質的に価値のない資産を相続してしまうからです。
相続人間で大きなしわ寄せを生じさせないためには、配偶者居住権は極力使わないことが望ましいといえます。今後の相続対策では、配偶者居住権を使わなくても済むように、相続人間で分けられる資産をしっかりと持っておくことが重要となってきます。
アフターコロナでも高速通信設備が備わった賃貸住宅なら有望ですので、相続対策も踏まえて新たな物件購入も検討してみてください。
まとめ
以上、アフターコロナにおける不動産投資市場について解説してきました。
コロナ禍の影響は、賃貸不動産投資市場においては限定的なもので終わるものと予想されます。アフターコロナで期待されるのは高層通信網を備えた賃貸住宅です。
2020年は、コロナ禍で隠れてしまった配偶者居住権という重要な話題があります。
相続市場では分けられる物件をしっかり準備していくことが重要となってきますので、引き続き投資を検討していくことをおすすめします。(提供:税理士が教える相続税の知識)