(本記事は、八木 宏之氏の著書『コロナのお金110番 会社と個人のお金、コロナからこうやって守れ!』=アスコム、2020年5月23日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
貸し付けや給付を受けるときの考え方や、銀行との交渉方法
本書では、中小企業の経営者が使える貸し付けや保証制度・給付金・助成金・協力金などを紹介します。ご自分に当てはまるものを詳しく調べて、申し込んでください。
ただし、その前に、貸し付けや給付を受けるとき忘れてはならない考え方や、銀行との交渉方法をお話ししておきます。企業経営者だけでなく、個人事業主や会社員も知っていたほうがよい話です。
政府は全国民に一律10万円ずつ配ります。
でも、みんなが忘れているのは、全国民の中に借金をしている人が少なからずいることです。
経営者は、設備資金や運転資金を借りているかもしれません。会社員は、住宅・教育・自動車ローンを借りているかもしれません。スマホの購入時に分割払いをしているなら、これだって何万円かの借金です。
ですから、コロナの影響で借りたりもらったりと、お金が入ってくるのはよいのですが、既存の借金がそのままならば、入ってきたお金は右から左へそのまま流れかねません。
そうなって得をするのは受け取った会社や個人でなく、そこに貸し込んでいる側。銀行もですが、手ぐすね引いて待ち構えているのは街金(消費者金融)や債権回収会社(サービサー)です。そのお金を回収しよう、と考えているかもしれません。
国などから入ってくるお金は、事業資金や生活資金のためのもの。また、新たな法律(令和二年度特別定額給付金等に係る差押禁止等に関する法律)により、10万円の特別定額給付金や児童手当の上乗せ1万円分は、「差押禁止財産」 になりました。ですから、もし回収しに来たら、「これは、事業資金(または、生活資金)のためのものです。返済資金ではありません」とはっきり相手に言ってください。
個人の場合もそうです。政府は、生活資金のために全国民に10万円を支給するのです。そのお金を返済にまわしてしまっては、政府は返済を助長した、返済のために支給した、ということになりかねません。
金融機関の担当者でもあまり知らない「手形貸付」という手法とは
ここで、金融機関の担当者でもあまり知らない「手形貸付(てがたかしつけ)」という手法をお教えしましょう。
例えば、企業が銀行から1000万円借りて毎月返済していたら、借入残高500万円の時点でコロナ休業に巻き込まれ、返せなくなったとします。
このとき、これまでの「約定弁済(やくじょうべんさい)」(当事者間で締結した契約に基づく債務弁済。住宅ローンなどの一般的な返し方)を「手形貸付」(借り手が貸し手を受取人とする約束手形を振り出し、貸し手が手形額面を貸し付けること)に切り替える方法があるのです。支払い期限が1年なら、1年間金利だけを支払って元金はそのまま。
ただし、「約定弁済」から「手形貸付」に切り替える相談をするときに、「満期がきたら必ず約定弁済に戻す」と約束を取りつけてください。そうしないと、満期がきたときに全額を返済しなければならなくなります。
1年たった時点で元の約定弁済に戻せば、以前と同じ返済が再開します。
この「手形貸付」に切り替えるのは、できない相談ではなく、私は企業再生コンサルタントとして事業再生アドバイスのなかで銀行と何度も交渉してきました。手形帳すら見たことがない若い行員ではダメですが、わかる人に話せば「なんとかしましょう」という話になります。
まず銀行には、借入金返済が滞る前に、まず返済のリスケ(リスケジュール)を相談しましょう。応じてもらえなかったら、「『約定弁済』から『手形貸付』に切り替えてほしい」と話せばよいのです。プロパー融資(信用保証協会を通さず、銀行がリスクを負う融資)であれば、金利で儲けたい銀行はイヤとはいわず、元金据え置きの利息払いに応じる可能性が大いにあります。
以上は、約定弁済や手形貸付を組み合わせて返済の時間かせぎをする方法ですが、知らない経営者は「コロナで融資を受けたでしょ。それで返して」と貸し手に急かされ、素直に応じかねません。その結果、資金不足が解消できず、クビ切りや雇い止めにつながったら大問題です。
政府は金融機関に、返済リスケに柔軟に対応してほしいといっていますが、具体的な対策はありません。このままでは新たな悲劇が生まれかねない、と私は懸念しています。
「コロナで受けた融資は、返済のための融資ではない」ときっぱりと断ることが大切です。
●公式サイト「コロナのお金110番 会社と個人のお金、コロナからこうやって守れ!」
●八木宏之YouTube公式チャンネル