4-6月期は年率20%台後半の落ち込みの一方、7-9月期は二桁成長に

要旨

● 4、5月分の経済指標が急激な悪化を示すなど、緊急事態宣言下の日本経済の落ち込みは当初想定されていた以上に大きかった。4-6月期の成長率はコンセンサス(前期比年率▲23.5%)を下振れ、年率▲20%台後半の落ち込みになることが予想される。

● 一方、緊急事態宣言解除後の経済の戻りは想定以上に速く、個人消費を中心として景気は上振れる可能性が高い。新型コロナウイルスの再度の感染拡大や自粛の再強化といったことがなければ、7-9月期の成長率はコンセンサスを上振れ、前期比年率で二桁の高成長が予想される。

失業
(画像=PIXTA)

谷は深く、戻りは速い

5月までの経済指標が概ね出そろった。6月分については得られる情報がまだ限られているものの、少しずつ状況は明らかになりつつある。そうした中で見えてきたのは、緊急事態宣言下の日本経済の落ち込みは当初想定されていた以上に大きかったこと、そして緊急事態宣言解除後の持ち直しペースは想定されていた以上に速いということだ。結果として、4-6月期のGDP成長率はコンセンサスを下回り、7-9月期は上回る形になりそうだ。

まず、4、5月の個人消費の落ち込み度合いは極めて大きい。緊急事態宣言発令によって外出抑制や店舗の営業自粛等が一気に進んだことで、サービスを中心として不要不急の消費は4月に激減した。5月についても、月前半の低迷が響く形で月全体でみれば底這いといった状況が続いた。もちろん4、5月の消費が落ち込むこと自体は誰もが予想した通りなのだが、その大きさについては事前の想定よりも大きい印象だ。後述の通り6月には高い伸びが予想されるが、4、5月の落ち込み度合いがあまりに大きいため、4-6月期でみれば個人消費の大幅減は避けられない。日本経済研究センターが集計しているESP フォーキャスト調査(7月調査)でのコンセンサスは前期比▲6.6%だが、減少幅がそれ以上になる可能性は十分ある。東日本大震災のあった2011年1-3月期が前期比▲1.8%、リーマンショック時の2008 年10-12月期が前期比▲1.5%だったことを考えると、今回の落ち込みがいかに記録的なものであるかが分かるだろう。

新型コロナウイルスで落ち込んだのは内需だけではない。4月の実質輸出(季節調整値)は前月比▲14.1%と急減、5月も▲5.8%と落ち込みが続くなど、海外でのロックダウンの影響を受けて輸出の悪化が著しい。欧米向けの急減が目立つが、その他にもASEAN、その他新興国向け等も急激に悪化している。6月にはロックダウンの解除を受けて底打ちが見込まれるが、それでも4-6月期の輸出は前期比で▲20%近い落ち込みになるだろう。こうした輸出の激減を受けて、4-6月期の鉱工業生産指数は自動車の減産を主因として前期比で▲16~▲17%程度と、リーマンショック時(09 年1-3月期:前期比▲20.5%)に迫る落ち込みになりそうだ。

加えて、意外に影響が大きいのが「輸入が減っていないこと」である。2月に中国からの輸入が激減していた反動もあり、4-6月期の輸入は、財に限って言えば前期比でプラスになりそうだ。サービスを含めても小幅減といったところだろうか。急減する輸出と落ち込まない輸入の影響で外需寄与度は大幅マイナスが確実だ。ここで仮に4-6月期の実質輸出が前期比▲18%、実質輸入が前期比横ばいとすれば、外需だけでGDP成長率(前期比年率)を▲11%Pt 程度も押し下げることになる。

このように、内需、外需とも4、5月の落ち込みは度合いは、一般に想定されていたよりも大きいとみられる。ESPフォーキャスト調査(7月調査)によると、4-6月期の実質GDP成長率のコンセンサスは前期比年率▲23.5%となっているが、実際にはそれを下振れる可能性が高まっている。いずれにしても4-6月期が瞬間風速でリーマンショック時以上の記録的な落ち込みになることは間違いないが、減少幅については、これまでのコンセンサスだった「年率▲20%台前半」ではなく、「年率▲20%台後半」となりそうだ。

予想以上に下振れる4-6月期、上振れる7-9月期
(画像=第一生命経済研究所)

緊急事態宣言解除以降の戻りは速い こうした4-6月期下振れの一方で、7-9月期の反発については従来の想定以上に大きなものになりそうだ。緊急事態宣言解除後の営業再開や自粛緩和の動きが予想以上に速いこと、特別定額給付金が支給されたこと等が背景にある。筆者は、緊急事態宣言解除後も極めて強い自粛が継続され、持ち直しは緩慢なものになるとみていたが、実際には、自粛疲れの反動や給付金支給の影響もあって消費の戻りはかなり速い模様だ。また、店舗の営業についての制限も徐々に緩和されており、業態によってはほぼ緊急事態宣言前の状態に戻っているところもある。

こうした動きは数字にもあらわれている。全国百貨店売上高は4月に前年比▲72.8%、5月に▲65.6%と急減していたが、大手百貨店の売上動向から推測すると6月には前年比▲20%程度と、減少幅が大幅に縮小する見込みだ。前月比でも大幅な増加となるだろう。百貨店では6月前半まで営業時間を短縮していたところも多かったため、営業が正常化する7月にはさらに回復することが予想される。また、乗用車販売台数も、百貨店ほどではないにせよ6月は回復を見せたほか、家電量販店の売上も大きく伸びている。衣料品、外食関連の企業でも6月の月次売上高では減少幅が大きく縮小しているようだ。このように、業態によって程度の差こそあれ、6月の個人消費は明確な改善となった可能性が高い。景気ウォッチャー調査でも6月は現状判断DIが大幅に回復しており、緊急事態宣言後の景気が急反発していることが示唆されている。前述のとおり、4、5月の落ち込みが極めて大きいことから4-6月期の個人消費は大幅減が避けられないが、6月が大幅に増加することで7-9月期にかけてのゲタはかなり大きくなる。もちろんそれまでの落ち込みを取り戻すまでには至らないものの、7月以降もさらなる自粛緩和の動きが続いていることも踏まえると、7-9月期の個人消費はコンセンサスを上回る大幅増となる可能性が高まっている。

企業の生産計画でも反発が見込まれている。鉱工業生産指数は4月に前月比▲9.8%、5月に▲8.9%と急低下したが、予測指数では6月に前月比+5.7%、7月に+9.2%と、自動車を中心に高い伸びが予想されている(※1)。大手自動車メーカーは8月以降も生産正常化に向けての動きを進めていくとしていることから考えても、7-9月期の鉱工業生産は前期比で大幅な増加になる可能性が高い。

予想以上に下振れる4-6月期、上振れる7-9月期
(画像=第一生命経済研究所)

このように、緊急事態宣言解除後の景気の戻りは予想以上に速いとみられ、今後公表される6~7月分の経済指標は前月比で明確な改善を示すものが多くなるだろう。もちろん先行きの新型コロナウイルスの感染動向次第ではあるが、仮に感染の急拡大と再度の自粛強化が回避され、今後も経済活動の再開が順調に進むのであれば、7-9月期は従来の想定以上の高成長になる可能性が高い。現在の7-9月期の実質GDP成長率のコンセンサスは前期比年率+9.4%だが、実際には二桁成長になる可能性が高いとみられる。今回の急激な景気悪化は、感染拡大抑制のために人為的に経済活動をストップさせたことで引き起こされたため、緊急事態宣言解除でその制約を緩めれば、その緩めたレベルまでは比較的速やかに戻るということなのだろう。

予想以上に下振れる4-6月期、上振れる7-9月期
(画像=第一生命経済研究所)

もっとも、この高成長はあくまでこれまでの急激な落ち込みからのリバウンドに過ぎない。経済活動への制約が緩められたとはいえ、「新しい生活様式」という言葉に象徴される通り、今後もある程度の様々な制約は残り続ける。新型コロナウイルス感染拡大以前の状態への早期復帰は困難であることに変わりはない。経済活動の水準がある程度のところまで達すればリバウンドは頭打ちになり、成長ペースは再び鈍ることになるだろう。現在は特別定額給付金の支給によって所得がむしろ増加している世帯が多いとみられ、そのことが7-9月期の消費増を大きく後押しする可能性が高いが、その効果もいずれは息切れする。次第に企業業績の急激な悪化や雇用の急減、賃金の減少等、所得面での悪影響が回復の頭を押さえる材料としてクローズアップされてくるとみられる。

このように、7-9月期には高成長が予想されるものの、その持続性には疑問符が付く。目先数か月は景気の上振れを示す経済指標が増えそうだが、その後は急速に回復ペースが鈍る可能性があることに注意が必要である。(提供:第一生命経済研究所


(※1) 予測指数の下振れバイアスを考慮した経済産業省の補正試算値では6月に前月比+0.2%にとどまる。もっとも、計画との乖離が生じにくい自動車で大幅増産が見込まれていることから考えて、6月は経済産業省試算値を上振れる可能性 が高い。


第一生命経済研究所 調査研究本部
経済調査部長・主席エコノミスト 新家 義貴