シンカー: 世界的に新型コロナウィルス感染者数の増加の第二波がきているようだ。しかし、新型コロナウィルス問題に対するマーケットの考え方には深みが出てきているようだ。これまでは、第二波が目先の経済成長率や株式市場をどれくらい押し下げるのかという単純な懸念が支配的であった。現在は、第二波の目先の影響があったとしても、新型コロナウィルス問題終息後の経済・マーケットシナリオの変化をともなうものなのかという冷静な分析がみられるようになってきた。一時的な思考から、二次的な思考への変化である。政策当局の断固とした対応によって信用サイクルが堅調なことと、1年以内にはワクチンや治療薬が普及するだろうという見込みが支えになっているとみられる。もし、第二波によっても新型コロナウィルス問題終息後の経済・マーケットシナリオが変化しないのであれば、第二波は投資のタイミングの問題でしかなくなる。第二波の影響が小さければ、リスク資産のウェイトをそのまま落とさない。第二波の影響が大ききれば、リスク資産のウェイトを一度落とし、リスクオフによってマーケットが一時的に崩れたところで、リスク資産のウェイトを再度上げる。マーケットでは、第二波は経済・マーケットシナリオの変化をともなうものではなく、投資のタイミングの問題であるという考え方が増えているように思われる。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

グローバル・レポートの要約

●世界経済(7/31):大崩落した世界貿易…すでに回復し始めている

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)により、世界貿易は壊滅的な打撃を受けた。世界貿易が2008/09年に陥った大不振と比べても引けを取らないだろう。即ち、影響を受けた範囲、(間違いなく)貿易が減少する速さ、(場合によっては)深さ/減少幅である。ただ低迷期の長さは、2008/09年に及ばない可能性が高い。今回の世界貿易回復は、不完全ながらV字型になると弊社は見込んでいる。

地域ごと(先進国と新興国)の差は大きい:先進国の貿易は、新興国よりも遥かに強い打撃を受けた。前者の現状は、すでに世界金融危機(GFC)の時よりも大幅に悪くなっている。新興国のパフォーマンスがそれほど悪くない背景には、アジアの他に東欧/(ソ連崩壊後の)CIS構成諸国、そして特にアフリカと中東(での健闘)も含まれる。

国レベルでの純輸出の変化は控えめ:大半の国では輸出と輸入が同じくらい減少した。このため純輸出には余り影響が出ていない。幅広く言うと純輸出は、先進国では悪化(減少)、新興国では改善(増加)している。特に米国と日本は、純輸出が目立って悪化したとみられる。

貿易はすでに回復し始めている:財の世界貿易は4月に底を打ったことがほぼ確実で、5月には緩やかに回復し始めたとみられる。国により底打ちのタイミングは異なる。中国の貿易は早くも2月がボトムとなり、その後「スウッシュ型(ナイキ社のロゴの形状)」で回復している。だが深刻な打撃を受けた国も(ドイツ、フランス、韓国など)、輸出回復は既に実現している。

貿易崩壊の震源地は、財ではなくサービス:新型コロナ危機が始まった後に、弊社などから、今回のリセッションは「製造業よりもサービス業が受ける打撃が深刻になるという点で通常とは異なる」と指摘されていた。これは貿易データにも現れており、ほぼ全地域で輸出入ともにサービスが財よりも低調になっている。

財の貿易も回復は速やかとみられる:弊社は「国際間の旅行が何年もかけて(かかるが)完全に回復する」という広く共有された見方には同意しない(ただ弊社が見込む回復スピードは、おそらく他の多くの向きより速いとみられるが)。しかし旅行は支配的な要因では全くない。またサービスの多くは財輸出と直接つながっているため、両者の回復軌道も似たものになろう。

●米国経済(7/30):FOMC(7月)…9月に新しい枠組みが提示される

ポイント1:新しい枠組みが9月に示される

金融政策決定の新しい枠組みは、2019年早くからFRBで議論されてきた。パウエル議長は、新型コロナ禍でそれが遅れたと述べた。新しい枠組みにより、さらに強いフォワードガイダンスが可能になるため、これらには(善悪双方の)様々な意味が混じっていると弊社はみている。記者会見でパウエル議長は、慎重な検討を再開しており近々文書化されると語った。弊社は、こうした枠組み下で長期的な平均インフレ率が目標として示されると見込む。ほぼ直後に発表される可能性があるフォワードガイダンスでは、インフレが目標に達するまで政策金利を据え置くと示されるだろう。市場は、FRBが政策とインフレパス(推移)の期待をどのように結びつけるか、および、そのような期待インフレパスを(政策決定の)枠組みとどう整合させるかを知りたがっている。(枠組みは)さほど判りやすいものとはならない可能性はあるが、議論に1年以上かけられてきた。

ポイント2:パウエル議長「金融政策にはディスインフレとの苦闘が控える」

これは驚くことではないが、パウエル議長が認めたのは目新しいことだ。パウエル氏は新型コロナ禍を受けてインフレが加速する可能性を問われた。この質問は、リソースの乏しさと積極的な政策対応を暗黙のうちに想定していたと考えられる。パウエル議長は、需要減速の結果として短期的にディスインフレとなり、コアインフレ率は1.0%で推移していると答えた。議長はそれに加え、足元の危機では世界的にディスインフレ圧力がかかっており、危機後の金融政策はディスインフレ圧力との闘いが待っているとも述べた。パウエル氏はさらに、長期的なインフレ圧力が具体化する可能性はあるが、FOMCは近い将来ではディスインフレを懸念していると付け加えた。市場はこうしたトレードオフを議論してきた。パウエル議長のコメントは、FRBの考え方を率直に洞察していた。

ポイント3:感染者の増加で景気回復が遅れている

パウエル議長は、高頻度で発表される経済指標にしばしば言及しており、我々市場関係者も全員がそれに注目している。議長は、5・6月に小売業や経済活動全般の回復が減速したと評価していた。弊社もそれに同意する。景気が本格的に再び弱まる展開も代替シナリオとして考えられる。新型コロナウイルスは引続き急拡大しているため、そうした展開がリスク要因として残っている。弊社は、当面は景気が再減速すると見込んでいる。6月に雇用者が480万人増加した後に景気が減速すれば、解釈が難しくなるかもしれない。

次回FOMCは9月16日に実施される。その時には、新しい(政策決定の)枠組みと、2023年予測も含む最新SEP(FOMC参加者の経済見通し)が発表されると広く見込まれている。

●外国債券(7/27):ブームか、それとも破滅か

米国での新型コロナウイルス感染者の記録的な増加(古き不安)にもかかわらず、経済指標の改善とワクチン開発をめぐるポジティブな動き(新たな希望)がここ数日間のリスクオンの波に拍車をかけた。状況は不安定であり、リスク・センチメントは変化していくだろう。薄商いの夏の市場に特有の動きとして、ヒストリカル・ボラティリティーが上昇してきた。弊社は金利の上昇、イールドカーブのスティープ化、スプレッドの縮小という中期見通しを維持しているが、夏場のヘッジ対策も継続していく。

●外国債券(7/20):あいまいなデータ

債券市場は冷静さを保っており、リスクオンの株価上昇にも大きな影響を受けていない。米国での新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の持続的な拡大は、もはや過去の数字にすぎない経済データの改善に暗い影を落とし、不確実性を高い状態に維持している。ユーロ圏市場は欧州連合(EU)復興基金の次のステップを待っているところだ。弊社は中期的には前向きのスタンスを変えておらず、金利の上昇とイールドカーブのスティープ化を予想している。しかし同時に、夏場のリスクオフの金利低下に備えたヘッジを推奨する。

●グローバルストラテジー(7/29):マネーサプライ急増はデフレ要因だと、筆者が考える理由

多くのコメンテーターは、マネーサプライ伸び率の急上昇によって早ければ来年にはインフレが急加速すると考えている。だが実際はそれと真逆のことが発生するとみられる。マネーサプライM2の急速な伸びは、デフレにつながる要因である。本レポート定期読者の皆さまは、筆者が1年のこの時期にいつも、バニュルス=シュル=メール(フランス南部の地中海沿岸、リンク先)を訪れることを御存じだろう。筆者はいつも物事を慎重に考えてきたが、インフレの謎(具体的には、「大融解期」が、筆者の長年の持論である氷河期理論にどれだけ速く取って代わるか)については特にそう言える。

筆者は、親しいストラテジスト2氏の相反する見解に立ち向かってきた。その2氏とはラッセル・ネイピア氏(Russell Napier)とジェラルド・ミナック氏(Gerard Minack)である。筆者は両氏に特に注目しているほか、各々の見解を強く尊重している。筆者を含めた3名は、中央銀行に支援された留まるところを知らない財政支出が、どこかの時点で終了する(その際にはインフレが発生している)という点では合意しているようだ。このため問題は、実現するかどうかではなく、いつ実現するかである。

公正に言って、ラッセル(ネイピア氏)は「インフレ率が来年に急上昇し始める」と考える陣営に入っている。 だがジェラルド(ミナック氏)と筆者は、大掛かりな景気刺激策にもかかわらず、生産能力逼迫がさらに強まるまではデフレがしばらく続くと考えている。ただ、インフレが加速するというネイピア氏(Russell Napier)の予測は、同じ結果を予測する多くのマネタリストよりも遥かに信頼できる(リンク先)。非常に興味深いことにネイピア氏は、インフレのプロセスにおいて、(量的緩和/QEの大幅追加による資産価格の押上げ以外では)中央銀行はほぼ不要と考えている。全般的なマネーサプライの拡大は、(オフバランスの政府保証に支援された)商業銀行の融資が主導しているという。彼の見解は一読する価値が大いにある。筆者は個人的には、マネーサプライの急速な拡大は、実際には現在のデフレ不況を悪化させると考えている。その理由は何だろう。マネーサプライ拡大の裏側をみるためには、銀行バランスシート資産側のカウンターパーティ(融資先)に注目することになる。最近の25%という爆発的なマネーサプライ拡大が、主に鉱工業や商業向けの銀行融資に主導されたことは明らかだ。そうしたセクターへの銀行融資は全体の25%を占めるに過ぎないにもかかわらず、過去1年間の貸出急増(前年比30%)の約70%に寄与していた(下図参照)。我々は「日本の失われた10年」を経たいま、1つのことを知っている。それは、「水増しされた見せかけの」銀行融資によってゾンビ企業を生かしておくと、(インフレ加速ではなく)デフレが創出されるということだ。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司