求められる米国流の民間研究組織による景気転換点判定

要旨

● 漸く消費増税前の2018年11月から景気後退だったことが認定される。政府が景気の転換点を決める際には、ヒストリカルDIが50%を下回る期間が景気後退局面と認定される。しかし、5→8%に消費税率引き上げが実施された2014年4月~2015年12月もヒストリカルDIが50%を下回っているにもかかわらず、景気後退と認定されていない。

● その理由として、景気の転換点を判断する内閣府の景気動向指数研究会は、山をつけていない系列が2系列あったため、経済の収縮が大半の経済部門に波及していなかったとしているが、2012年4月~11月の景気後退期では、山をつけていない系列が3系列以上あったにもかかわらず景気後退と認定されており、波及度が不十分との判定は説得力に欠ける。

● 2014年4月~2015年12月の一致CIは▲6.7%低下しており、2012年4月~11月の景気後退期の同▲6.0%よりも落ち込みが大きい。事実上は消費増税以降1年半以上景気後退期にあったとなれば、こちらの景気判断のほうがより実感に近い。

● 2014年4月の消費税率引き上げ以降の経済成長率を見ると、駆け込み需要の反動減で2期連続マイナス成長になった後は、2期連続でプラス成長となった後の3四半期で一進一退を続けている。人々の平均的な景気実感はヒストリカルDIの50%割れが示す通り、とても景気が回復しているとの実感はなかったことが推察される。

● 景気判断の一貫性がなければ、政府が認定する景気転換点の説得力が低下する。米国の景気転換点の判断はNBER(全米経済研究所)という民間研究組織が認定するため、政府の恣意的判断が排除される。一日も早い景気の転換点判断の仕組み変更が望まれる。

説得力を欠く景気動向指数研究会の判断

政府が漸く消費増税前の2018年11月から景気後退局面入りしていたことを認定することになった。となると、アベノミクスで戦後最長の景気回復を更新しなかったことを認めることになる。

ただ、エコノミストの間では、かなり以前から戦後最長の景気回復を更新しなかったことはコンセンサスとなっていた。というのも、これまで政府が景気の転換点を決める際には、内閣府「景気動向指数」の一致系列からヒストリカルDIというものを作成し、それが50%を下回る期間がほぼ景気後退局面として認定されてきたからである。

しかし、過去一回だけこの基準を満たしたのに景気後退に認定されていない時期がある。消費税率引き上げが実施された2014年4月から2015年12月までヒストリカルDIが50%を下回っているにもかかわらず、景気後退と認定されていないのである。

その理由の一つとして、景気の転換点を判断する内閣府の景気動向指数研究会は、過去の後退局面ではヒストリカルDIが0%近傍まで下降していたが、2014年4月から2015年12月までに山をつけていない系列が2系列あったため、経済の収縮が大半の経済部門に波及していなかったとしている。しかし、2012年4月~11月の景気後退期では、山をつけていない系列が3系列あったにもかかわらず景気後退と認定されている。従って、波及度が不十分との判定は説得力に欠けるといえよう。

漸く認定となる消費増税前の景気後退
(画像=第一生命経済研究所)

消費増税後は実感なき景気回復

二つ目の理由として、景気動向指数研究会は経済活動の縮小の程度が顕著、すなわち景気の量感を示す景気動向指数の一致CIの落ち込みが顕著でなければ景気後退とみなすことは適当ではないとしている。しかし、2014年4月~2015年12月の一致Ciは▲6.7%低下しており、2012年4月~11月の景気後退期の落ち込み同▲6.0%よりも落ち込み幅が大きくなっている。従って、2012年4月~11月(安倍政権発足直前)までを景気後退と認定するなら、なぜ景気後退と認定されないのか基準が一致しないことになる。

漸く認定となる消費増税前の景気後退
(画像=第一生命経済研究所)

こうした状況を踏まえれば、アベノミクスは戦後2番目に長い景気回復を更新することになるが、実態は疑わしいといえよう。そして、よくアベノミクスで景気回復が続いていたのにその実感が無かったとの指摘もあるが、事実上は1回目の消費増税以降1年半以上景気後退期にあったとなれば、こちらの景気判断のほうがより実感に近いといえる。

民間研究組織の判断が必要

以上の理由から、景気に対する世間の実感と政府の景気局面判断との間には大きなかい離が生じたといえる。実際、消費税率引き上げ以降の経済成長率を見ると、駆け込み需要の反動減で2期連続マイナス成長になった後は、2期連続でプラス成長となったが、その後の3四半期は一進一退を続けている。つまり、人々の平均的な景気実感はヒストリカルDIの50%割れが示す通り、とても景気が回復しているとの実感はなかったことが推察される。

漸く認定となる消費増税前の景気後退
(画像=第一生命経済研究所)

結局、こうした政府の公式な経済統計や景気判断は、基準の一貫性が不可欠である。しかし、このように景気判断基準の一貫性がなければ、政府が恣意的に景気判断を捻じ曲げていると疑われる可能性があると認識することも必要だろう。

したがって、日本の景気転換点判断も、こうした問題点を解消するために仕組みを変えることが望まれる。例えば、米国では景気の転換点判断をNBERという民間研究組織が認定することで政府の恣意的判断が排除されている。こうしたことから、日本でも景気の転換点は民間研究組織に認定を任せることも一つの案であろう。一日も早い景気の転換点判断の仕組み変更が望まれる。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 永濱 利廣