要旨

● 6月の失業率は2.8%とコロナ禍の中でまさかの低下。失業者が非労働力人口に転換する、いわゆる「悪い失業率低下」ではなく、内容も良い。

● 背景には、職を失った人のフリーランス等への転換の動きがあると考えられる。雇用者数は減少傾向が続いている中、自営業・家族従業者の増加がこれを埋め合わせている。マッチングサービスの普及などプラットフォームが整ってきたことで、フリーランス形態の働き方が雇用悪化の受け皿の役割を果たしている可能性が高いのではないか。

● ただ、この動きの持続性は不透明であり、雇用者数は減り続けている。マクロ経済環境の悪化の下で、失業率は再び上昇傾向で推移すると考えておくべきだろう。また、増加したフリーランス形態の人たちが、従来通りの賃金を得られている確証はない。統計が保証しているのは「何らかの仕事をしている」ということだけだ。

● 4月に急増した休業者数はまだ平時より多い状態にあるが、5月・6月と減少傾向にある。高年齢層の休業者数が多く、重症化リスクの高さから職場復帰できない人が多い可能性がある。

離職
(画像=PIXTA)

失業率はまさかの改善、いわゆる「悪い失業率低下」でもない

本日公表された労働力調査によれば、6月の完全失業率は2.8%と5月から0.1ポイント改善した。悪化を見込んでいた市場予想のレンジ外であり、サプライズ。季節調整値で内容をみていくと、完全失業者数は194万人と5月から前月差▲3万人と減少している。また、労働力人口は同+6万人の増加、非労働力人口は同▲10万人となっている。仕事に就く意欲のなかった人が労働市場に参入し、就業者数は同+8万人で職に就く人は増加した。失業率が低下する際には「職探しを辞めた人」が増えることによって、失業者が非労働力人口にシフト、失業率が低下する、いわゆる「悪い失業率低下」が観察されることがある。しかし、今回の結果はそうしたものではなく、内容も良い。

まさかの失業率改善・なぜ?
(画像=第一生命経済研究所)

仕事を失った人がフリーランスなどに転換か

コロナ禍で景気の明確な悪化がみられる中で、なぜ失業率は踏みとどまっているのか。5月・6月の動きで目を引くのは、就業者数の内訳である雇用者と自営業主・家族従業者の推移の違いである。雇用者数は5月▲27万人減、6月▲13万人減と明確な減少基調をたどっているのに対し、「自営業主・家族従業者」は5月+31万人、6月+21万人とそれを埋め合わせる様に増加している。

筆者は前月、5月の労働力調査公表を受けたレポート(※1)で自営業主・家族従業者が増加しており、職を失った人が、フリーランス形態などに転換している可能性を指摘したが、これと同様の動きが続いた。フリーランスの就労増加が、労働環境悪化に歯止めをかけている可能性が高そうだ。

フリーランス向けに、インターネットを通じて仕事をマッチングするサービスが普及していること等によって、フリーランス形態で働くハードルは低くなっている。コロナの長期化を見据え、職を失った人たちや活動停止を強いられているエンターテインメント関連や観光関連に携わっていた人たちが、こうしたプラットフォームを用いて新たに仕事をしている可能性がある。在宅勤務の増加に伴って、食事の配達サービスの需要が伸びていることも背景にあるかもしれない。

まさかの失業率改善・なぜ?
(画像=第一生命経済研究所)

一人当たり収入は減っていると考えるのが自然

ただし、諸手を挙げて喜べる状況ではないことも事実だ。まず、経済環境の悪化に伴って雇用者数は減少が続くと見込まれる一方で、これまでにみた「自営業主・家族従業者への転換による下支え」がどこまで持続するかは不透明だ。マクロ環境が悪化する下で、失業率は再び上昇傾向に戻ると考えておくべきだろう。

また、数字の読み方として注意が必要なのは、月のうち「1日でも」フリーランス形態で仕事をして収入を得れば、統計上就業者としてカウントされ、失業者にはならない、という点だ。従来フルタイム勤務で働いていた人が、失職してフリーランスとして調査期間に1日だけ働いたとしても、その人は「就業者」のままである。つまり、同じ就業者であっても、フリーランスとなった人が従来通りの収入が得られているとは限らないということだ。国内景気全体が落ち込んでいる中において、一人当たりの就労収入は低下していると考えるほうが自然だろう。フリーランスの増加は失業者増に歯止めをかけているが、それはマクロ全体の家計所得がキープできていることと同義ではない。

休業者数は減少も、高年齢層ではまだ多い

最後に、緊急事態宣言下で急増した休業者数(職に就いているが、調査期間中に1日も働かなかった人数)の動向を確認しておく。休業者数は就業者数の内数であり、「仕事を持ちながら調査週間中に少しも仕事をしなかった者のうち、給料・賃金の支払いを受けている者、又は受けることになっている者」(雇用者の場合)を指す。休業者数は就業者数の内数であり、休業しても失業にはカウントされないため、失業率の数字には影響は及ばない。しかし、平時よりも賃金が減っている人が多いと考えられるほか、仕事が無くやむを得ず休業し、将来的に失業に転じる可能性の高い「失業予備軍」に当たる人もいると考えられる。 6月の休業者数は236万人(前年同月差+90万人)となった。平時よりは明らかに人数は多いが、4月(597万人)、5月(423万人)から減少している。緊急事態宣言の発令された4月から、休業者数には徐々に落ち着きがみられているようだ。年齢別に休業者数の動向をみると、年齢の高い層で休業者数の減少ペースが遅くなる傾向がみられる。重症化リスクの高さから、職場復帰できない人が多くなっている可能性がある。(提供:第一生命経済研究所

まさかの失業率改善・なぜ?
(画像=第一生命経済研究所)
まさかの失業率改善・なぜ?
(画像=第一生命経済研究所)

(※1) Economic Trends「緊急事態宣言明けても戻らぬ雇用」~休業者高止まり、職を失った人がフリーランスなどに転換か~(2020年6月30日)http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/macro/2020/hoshi200630.pdf


第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
副主任エコノミスト 星野 卓也