(本記事は、石川和男氏の著書『部長の心得』総合法令出版の心得の中から一部を抜粋・編集しています)
部長に必須の「マネジメント力」

部長の「マネジメント力」とは何か
「マネジメント」とは「経営・組織を管理する」こと。組織の管理をしっかりと行う力が「マネジメント力」、それを行う人がマネージャーです。
経営・組織を管理する人がマネージャーなら、広い意味で社長、役員、部長、課長もマネージャーになります。
ここでは、部長に必要なマネジメント力について見ていきます。
部長とは、課長を動かす存在です。
適切なプレゼンは必要ですが、黙って課長を見守ることも必要です。
「しゃべらない力」、じっと控えて我慢する。それも、部長に必要なマネジメント力です。部下が課長を飛び越えて部長に相談したら組織は機能しなくなります。その逆も一緒です。部長が課長を飛び越えて部下に指示していては、組織は機能しません。「マネジメント」が「経営・組織を管理する」なら、課長は部下(組織)を管理できなくなります。部下にとっても部長、課長と指示系統が二つあることで混乱します。
部長に「しゃべらない力」が必要な理由はもうひとつあります。部長は経営上の機密にもアクセスできます。機密情報を誰にでも話すようでは、部長は務まりません。その意味でも、我慢する力は欠かせないと言えるでしょう。
「視点を変える力」も必要です。
例えば、同じ部門の中で課長から部長に昇格した場合。私も経験がありますが、部長になったからといって、急に視点を変えることは難しいものです。
それでも変える必要があります。
私の以前の上司は、部長に昇進した日にカツラを取りました。部下全員がカツラだと知っていましたが、何か「今日から変わるんだ」という覚悟を感じました。
私が課長から部長に昇進したときも、オーダーのスーツとワイシャツを購入して出社しました。前項でもお伝えしましたが、まずは形から入る。高級な生地で仕上げたスーツを着ると、ワンランク上の自分になったという自信が生まれるのです。
部長が課長以下のメンバーと同じ光景しか眺められなければ、木に登ることはできません。遠くの未来を眺めることができなければ、部長の存在意義はありません。
部長とは改革者です。
これまでとは異なる視点から組織をとらえる必要があります。
意識的にインプット量を増やし、経営者のものの見方を理解し、ムリにでも今までとは異なる視点を会得していく必要があります。
さらに必要な部長の三つの能力
部長には、さらに三つの能力が必要とされます。
①独自の発想力、②応援体制を作る力、③自分の時間をコントロールする力の三つです。
「独自の発想力」とは、他人の意見を鵜呑(うの)みにしないことです。
ネットやSNSを通して情報が溢(あふ)れかえっている時代です。新聞や雑誌のみならず、ビジネス書を読む、朝活や異業種交流会に参加する、同業他社から学ぶなど、多くの意見にふれ、比較しながら、自分独自の視点を構築していくことが大切です。
「応援体制を作る力」とは、社内に自分の応援者を増やす力です。
部長は孤独だからこそ、応援してくれる仲間が必要です。
ここで言う応援とは、目的や方向性に共感しつつ、ときには厳しい意見もぶつけてくれる切磋琢磨しあえる存在。同じ部長仲間はうってつけの存在であると言えます。
部長とは仕事を見つけ、仕事を増やし、多くの改革を実現していかなくてはならない存在です。基本的には誰も管理してくれません。クリエイティブな仕事も多い。だからこそ、「自分の時間をコントロールする力」が必要になります。
「虫の目」「鳥の目」「魚の目」の「多角的視点力」

「虫の目」「鳥の目」「魚の目」とは
ビジネスにとどまらず、生きる上で必要な三つの視点を表したのが、「虫の目」「鳥の目」「魚の目」です。
まずは「虫の目」。虫はその小さな目で、非常に細かな世界を見据えています。人間の目では見えない世界も、虫にはしっかりと見えている。
そんなミクロの視点を表しているのが「虫の目」です。
続いて「鳥の目」。上空から斜めに見下ろしたような形式の地図を鳥瞰図(ふちょうかんず)と言いますが、この言葉が象徴するように、高い視点で物事を眺める資質を意味しています。高所から眺めれば、広い範囲を見て取れる。よく経営者が「大所高所から」と言いますが、これは「鳥の目」で俯瞰(ふかん)することを意味しています。「虫の目」のミクロな視点に対して、「鳥の目」はマクロな視点です。
最後に「魚の目」。話の流れから「魚(さかな)の目」だとわかりますが、単体だと足の裏にできる「魚(うお)の目」を連想しますね。もちろん、まったく異なります。
海を泳ぐ魚は潮の流れに敏感です。そんな魚のように時代の変化や潮流をしっかりと見定めること。魚の目は、時間の流れを意味しています。
部長には「鳥の目」が必要
三つの「目」の中で、どれが部長に必要とされる目でしょうか?
答えは、マクロな視点としての「鳥の目」です。
木の上に登って遠くを見渡す力。上空から地上を見渡し、どちらの方向を目指して進むべきかを示唆する力。
大胆に見える改革でも、実際には未来を見通し、たしかな勝算と共に提案する力。
そのような力を生み出すものこそ、「鳥の目」だと言うことができます。
もちろん、ほかの二つの目がいらないわけではありません。
細部に意識が向かない人や、時流を的確に読み取れない人は、消費者のニーズを見つけられず、説得力のある提案も難しくなります。
虫や魚の目がないと、部下の気持ちも理解できません。感情に訴えるプレゼンを実施することができません。
それでも、最後にすべてをまとめ上げるためには、やはり「鳥の目」が必要になります。
飛行機の窓から地上を見下ろすと、道路の構造が非常によくわかるように、「鳥の目」で組織の枠組みを正しく理解することができます。
また、「鳥の目」は失敗を回避することにも役立ちます。
悪い兆候を察するのは「鳥の目」の役目です。同じ地上に立っていては、方向性の誤りに気づきません。「大所高所」が大切だと言うのも、こうした視点に基づいています。
「鳥の目」を活かした「多角的視点力」
「鳥の目」を武器として、部長は様々な困難と向き合います。
そのための力を、「多角的視点力」と呼びます。
「多角的」とは「様々な角度から」という意味です。
部長は独自の視点で物事を判断しなくてはならないわけですが、自分の視点が常に正しいと思っていては、やがて判断を誤ってしまうことになります。
自らの視点を、自分自身で疑ってみるという資質。
それこそが、多角的視点力の本質です。
この力を発揮するためには、他者の視点が必要です。私はもう一人の自分と対話をして一人会議を行っています。もう一人の自分となので二人会議になるかもしれませんが、部長と課長、賛成意見と反対意見、ときには社長と部長になって、自らの頭で問いを立て、紙に書き出してそれに対する答えを模索します。すると、様々な角度から新しい発想が生まれてくるのです。
