(本記事は、石川和男氏の著書『部長の心得』総合法令出版の心得の中から一部を抜粋・編集しています)
業務と人の改革を
業務を改革する
「前例踏襲を打破する」。
プロ野球を例に考えてみましょう。
例年Bクラスのチームが、監督交代でAクラスはおろか優勝まで狙えるチームへと激変する。そのようなケースを目撃することがあります。実現した監督を、「名将」と呼んだりします。
チームの成績が変わったのは、組織風土が変わったからです。
低迷には様々な理由がありますが、根底には「前例踏襲」も含まれます。それを打破し、停滞する空気を一変させるために、あらゆる手段を尽くす。それが、「名将」の果たすべき役割です。
部長は「名将」にならなくてはいけない存在です。
組織の問題点を把握し、部下を勇気づけながら、ときに厳しく指導し、組織の風土を変革していくことが求められます。
一番重要なのが、部下を変えていくことです。
人を改革する
人を変えることなどできないと、考える方も多いかもしれません。
「人格」を狭い意味で使えば、その通りかもしれません。
しかし、少し広い意味で考えるとどうでしょうか?
仕事に対する「姿勢」という意味で「人格」をとらえる。例えばモチベーションアップ、仕事のスピードや効率化などの意識を変えていく。
意識が変われば習慣が変わる習慣が変われば行動が変わる行動が変われば人格が変わる人格が変われば運命が変わる
ヒンドゥー教の教えをアレンジしたこの言葉は、野村克也元監督も好んで使っています。
私も本当にその通りだと思っています。
何より私自身がこの通りに意識を変え、運命を変えてきました。
- 部下の意識を変えれば、日々の仕事の仕方が変わる
- 日々の仕事の仕方が変われば、改革の姿勢が身につく
- 改革の姿勢が身につけば、仕事に向かう姿勢が変化する
そうすれば、ビジネスパーソンとしての運命が変わります。
だからこそ、部長は組織の風土を変え、部下の意識を変えるのです。業務のやり方が変わり、業務の改革が実現されます。
「配置転換」は必要か?
ビジネスパーソンには、転勤や配置転換が不可欠です。多くの仕事を経験することで成長し、実力も高まるからです。
支店がない会社でも、部署内で担当先を変える。それも配置転換です。ずっと同じ環境にいては、やがてなれ合いが生じ、成長がストップします。
もうひとつ、配置転換には重要な意義があります。
ずっとひとつの仕事だけをやっていると、その環境が不正の温床となってしまう恐れがあるからです。当事者だけではなく、そのような環境を作っている会社の責任でもあります。
ひとつの仕事を一人の部下に独占させないこと。また年に2回、長期休暇を強制取得させることなどで、不正はかなり防ぐことができます。部下の仕事の概要を、部長は把握しておく必要があります。
ビジョンがなければ始まらない
「ビジョン」とは何か
方針を作るにしても、業務を改革するにしても、「ビジョン」が必要です。
「ビジョン」とは、「理想像・未来像・展望・見通し」などと訳されます。いずれにせよ、私は、会社がたどり着く場所を明確に示す「旗印」だと思っています。
ビジョンがしっかりしているからこそ、前に進んで行けるのです。
生産性を高めて売り上げを伸ばそう!営業品目を増やして、販売網を拡大しよう!管理費を圧縮して営業利益を増やそう!
どんな改革でも間違っていません。
しかし、なぜそうする必要があるのか。「売り上げを伸ばすよりも先に組織として取り組むべき課題があるのではないか」「今でさえ残業が続いているのに販売網を広げたら……」などと多くの部下が疑問を抱えていては、船は先へと進みません。
どんな目的地にも、その場所を目指すべき理由がなければ進まないのです。やみくもに変えるだけでは、部下はついていきません。「人は説得しても動かない、納得したら動く」というように、たしかなビジョンがあるからこそ、人は納得し、動き出すのです。
「目的」と「目標」は違う
ビジョンを考える上で、目的と目標の違いを明確にする必要があります。
目標とは、到達すべき結果です。「何を」するのかということです。営業数字、効率化の指標、お客様満足度……、どんな項目であれ、具体的数字で表すことで誤解は生じません。
「いつ」までにという期限も、目標に含まれます。
簡単な例で言うと、
「90日で6キログラムのダイエットに成功する」「30日後に試験がある日商簿記3級に1日2時間勉強して合格する」
これらが期限、数字を入れた目標です。
一方、目的とはその結果を目指すべき理由です。「なぜ」そうするのかということです。
「ダイエットして90日後の結婚式でお気に入りのウェディングドレスを着たいから」「簿記3級に合格して転職先の経理部門でいち早く戦力になりたいから」
これらが、目指すべき理由(目的)です。
ビジョンのところでもお伝えした通り、必然性がなければ部下は動きません。それを明快に示す、誰もが納得できる言葉で伝える。納得できれば、行動に変わります。
目標という具体的なゴールを、目的が裏でしっかりと支えることによって、たしかなビジョンが完成します。
部長は事業経営の要
たしかなビジョンを基に組織の方針を明確に策定し、船を前進させていく。その役割を担う部長は、事業経営の要です。扇の要が緩ければ、全体がバラバラにほどけてしまう。しかし、要がきつければ、必要なときに開くことができない。要のあり方次第で、組織も大きく変わってしまうのです。
たしかな要であるために、「なぜ」という思考を大切にする。
トヨタ自動車には「5回のなぜ」があります。トラブルが発生したとき、「なぜそのトラブルが起きたのか」をくり返し考え、本質を突き止める手法です。 同じように、
なぜ自分は部長という要職に任命されたのか?組織を変革する理由はなぜなのか?この目標を掲げる理由はなぜなのか?部下たちはなぜ自分という人間についてきてくれるのか?
そのような問いかけを自分自身にくり返すことで、その答えを常に自分自身で模索し続ける。内面にフォーカスし問答を続ける。これからの部長に求められる資質のひとつです。