(本記事は、石川和男氏の著書『部長の心得』総合法令出版の心得の中から一部を抜粋・編集しています)
必ず知っておくべき会計学
知っておくべき会計
慶應義塾大学名誉教授の竹中平蔵氏は、小泉内閣の経済財政政策担当大臣就任を皮切りに金融担当大臣、郵政民営化担当大臣、総務大臣などを歴任しています。その竹中氏は、「簿記3級が完璧にわかれば、経済全体がわかる」と、著書『竹中式マトリクス勉強法』(幻冬舎)で説いています。
私は、大原簿記学校で15年間、講師として日商簿記3級の授業を受け持ちました。その経験からも、簿記3級を理解できれば、経済全体の概要は把握できると思っています。会計や簿記などが書かれた記事を読むときも頭に入ってきやすいのです。IFRS(国際財務報告基準)や国際会計基準審議会(IASB)の資料を読むときも、簿記3級の知識があるとないとでは、読むスピードも理解度も変わってきます。
竹中氏は、社会人なら簿記3級レベルの知識は最低限必要だと言っているのではないでしょうか?
私は、経営者や経理担当者向けに、「簿記の基礎のキソ」というテーマで、北は北海道、南は九州までセミナーを行っています。セミナーの最後は、私の持論である「簿記はすべての職種にとって必要な知識」という話をして締めています。経営者向けセミナーのいつもの締めを、ライブ感覚でお伝えします。
「私の持論ですが、簿記はすべての職種において必要な知識です。建設会社を例に挙げると、経理はもちろん簿記の知識が必要です。財務は資金繰りや財務分析、人事は配置先の人件費、総務は社会保険の計算のため、土木や建築の工事部は原価計算のため、積算担当は入札金額を決めるために、簿記の知識が必要です。営業は得意先の経営状況を知るために、経理部以外の管理職は各部署の予算管理のために簿記の知識が必要になります。例え専業主婦(夫)になっても、家庭の財産を守るために必要になります。そして経営者のあなた! 本業に精を出していただくのは、ぜんぜん問題ありません。苦手分野や本業以外の分野は、それぞれの専門家にお任せください。ただ、最低限知っておいてほしいのは、経理担当者や税理士と話せる基礎知識は必要だということです。あなたの会社を守るのはあなたです。社員やその家族の生活も、あなたにかかっているのです。今日のセミナーでお伝えした、最低限の簿記知識があれば、税理士と対等に話せる知識が身につき、他人の話を鵜呑みにして失敗することもないでしょう。あなたも自分の分身である会社を守るべく、今日の話の知識を基に経理担当者や税理士と話せる知識を身につけてください。ご清聴ありがとうございます」
商工会議所主催のセミナーなので中小の経営者が多く、皆さん、真剣に学んで帰られます。質問も多くいただきます。本業に専念するのはもちろんのこと、黒字倒産や損益分岐点がわからず安売りをして、経営を危険にさらす恐れもあります。
以前、勤めていた建設会社での話です。3年ほど使っていた営業車を50万円で売却しました。交渉で通常より高く買い取ってもらった営業部長は、「50万、儲けただろ!」と、自慢げに言うのです。
会計を知っている人ならわかると思いますが、取得原価があります。車を購入したときの値段です。儲けは売却代金から取得原価を差し引いて求められます。
取得原価が300万円だったとのことで、50万円から300万円を差し引いた額が儲けになります。つまり50万円儲かったと自慢げに言っていましたが、250万円の損をしているのです(話を簡単にするため減価償却計算を無視しています。本来はもう少し損失が抑えられます)。
簿記の知識がないため、利益も損失もわからない。資産と費用の区別もつかない。そのため計画が立てられない。他部署との予算調整で不利になる。
得意先の財務諸表が読めず、未入金を残して倒産するかもしれません。
「簿記はすべての職種にとって必要な知識」です。部長であるあなたも例外ではありません。