(本記事は、石川和男氏の著書『部長の心得』総合法令出版の心得の中から一部を抜粋・編集しています)

「行動」を否定しても、「人格」は否定しない!

肯定
(画像=PIXTA)

二つ並べると、上位が際立つ

私は、「時間術」「簿記の基礎」「勉強法」をメインに講演を行っています。4月になると新入社員記念講演と題して、新入社員の心構え、モチベーションアップの話を依頼されることもあります。

敬語の使い方や、報告・連絡・相談の重要性、クレーム対応など話しますが、ほかに「会社を辞めていいとき」の話をします。

ちょっと過激なテーマですが、辞めていいときがわかれば辞めない基準も生まれます。

例えば安全第一と唱えていても、事故は起こります。工事が上手くいかなかったり、工期が延びて利益が見込まれなくなると、安全をおろそかにしてもつい利益を優先してしまうからです。

では、どうするか?

安全第一だけではなく利益第二と、一番だけでなく二番もセットにするのです。「安全第一・利益第二」。ちょっと唱えてみてください。「安全第一・利益第二」「安全第一・利益第二」。そうすると、利益を出そうと焦ったときも、安全を一番に考えようと思いますよね。あえて第二を置く。相反するものを並べるのが有効なのです。

余談が長くなりましたが、「人格否定」と「行動否定」をセットにするのです。

新入社員が辞めていい場合はいつか?

ここからは、私が講演で実際に話す口調でお伝えします。

私が会社員になった25年以上前から、会社を辞める理由のトップが人間関係でした。中には、ほかに好きな仕事が見つかったから、国家資格を目指すから、給料が安いからなどの理由で辞める人もいますが、胸中は人間関係だと思います。

なぜなら、会社を辞めるときに「〇〇さんが嫌だから」「上司の小言がうるさいから」と本音を伝えて辞める人は少ないからです。以前、退職した知人から聞いた話では、「〇〇のここが嫌だと伝えて辞めたあと、そいつが善い人になったら辞め損だからわざわざ言わない」という強者(つわもの)もいました。

何が言いたいのかというと、誰もが人間関係が嫌で辞めているとしたら、あなたが違う会社に転職しても、また人間関係で嫌になる可能性が高いということです。どこに転職しても、人間関係はつきまとうのです。だから、あなた自身が仕事を覚えてスキルアップして、その他大勢から抜け出して、自分ですごしやすい環境にする必要があります。

ただし、辞めていい場合があります。

それは、人格を否定されたときです。

先輩や上司が、敬語の使い方、名刺の渡し方、電話応対、接客、仕事の進め方などで、小言を言ったり、叱ったり、指摘してくることは耐えてください。それは、あなたを成長させようと思っているし、実際あなたの成長になります。どこに転職しても仕事を覚えるまで言われ続けます。つまり、行動を否定されたときは、自分を成長させてくれているんだと考える。

一方、「お前は何も考えていないから太っているんだ!」「本当、親の顔が見てみたい」「この前も言っただろ! お前は鳥の脳みそか?」のように、人格を否定する上司がいる会社なら辞めてもいい。そういう社員を野放しにしている会社は、会社全体の風土が悪いからです。

と、伝えています。

叱られることに慣れていない新入社員が増えてきました。

「七五三現象」と言われるように、中卒で七割、高卒で五割、大卒で三割が、3年で会社を辞めると言われている時代です。

お陰様で、私の講演を聞いた新入社員は離職率が低いと主催者に褒めていただけます。

講演の中で、「叱られる」「注意される」「指摘される」ことは当たり前で、行動を叱られるのは納得、人格を否定されることは我慢しなくていいという基準を持ってもらえたからだと思います。

「安全第一・利益第二」のように、比較対象を並べ、際立たせることが重要です。

「人格否定=ハラスメント」という公式

講演は新入社員に向けて話していますが、会場には人事担当者や部長なども参加しています。「人格を否定しない」は、その方々に向けても発信しています。社内に持ち帰って、「行動」と「人格」について社員に伝えているという、有難い報告も受けました。

企業側からのリスクで考えると、現代は様々なハラスメントが取り上げられる時代です。中には「それは大げさじゃないかな?」と思うものもありますが、それだけ今までの日本社会がハラスメントに無頓着だったのだと思います。

各種ハラスメントの根源には、「勘違い」もあります。

自分は「偉い」という気持ちがあるからこそ、他者への配慮を欠いてしまう。

他者への配慮とは、その人の人格を尊重することです。

裏を返せば、ハラスメントとは「人格否定」の意味になります。

地位や立場を根拠に人格を否定すればパワハラになり、女性を尊重できない人はセクハラをくり返す。妊婦の気持ちがわからない(理解しようとしない)人はマタハラをします。

経営者の「視座」を持つと話しましたが、新入社員、従業員、女性、妊婦……様々な立場を想像する力も必要になります。

高級クラブ仕事術「単純接触効果」

女性富裕層,インタビュー
(画像=shutterlk/Shutterstock.com)

銀座の高級クラブという場所

先にお伝えしますが、頻繁に訪れるわけではありません。

何度か行ったことはありますが、日頃からお世話になっている方々のご厚意で、貴重な社会勉強をさせていただいている、というのが正直なところです。

そんな社会勉強の結果に基づき、なぜ高級クラブに高いお金を払ってでも行きたくなるのかを真面目に検証したいと思います。

銀座などにある高級なクラブという場所に、どのようなイメージをお持ちでしょうか?

きれいな女性がたくさんいる、華やか、値段が高い、敷居が高い、自分の給料では行けない、男性目線を承知で言えば、そんなところでしょうか?

たしかに、今挙げたようなイメージはどれも正解です。

しかし、本質は別のところにあると思っています。

「単純接触効果」とは何か

銀座のクラブに行くと、美しい女性が何度も褒めてくれます。

「石川さんって、本当にすごい人なんですね」初めのうちは、ただのお世辞だと思ってやりすごします。それでも、何度もくり返して同じ言葉をかけられているうちに、段々と気分がよくなってきて、相手の女性にほのかな好意を抱くようになります。

またこの店に来たい、そのときはこの女性を指名したい。

しばらくするとメールが届く。「ぜひまた来てくださいね」。

雨が降ったら帰り道を心配し、残業が続くと体の心配をしてくれ、お店に来ないとセールスではない感じで忙しいのかと心配してくれる……。

実は、このような言葉や対応は、ひとつの心理的計算に基づいています。

そのベースとなっているのが、「単純接触効果」と呼ばれる考え方です。

最初は関心を向ける対象ではなかった物事も、毎日ふれていれば次第に気になる存在に変わっていく。テレビのコマーシャルなどが典型的な例で、初めの頃は何度もうるさいと感じていたのに、気づけばCMソングを口ずさんでいる。

毎日更新されるメールマガジンを読んでいるうちに、発行人のセミナーに出てみたくなったり、書籍を購入したくなったりする。

このような経験は、きっと、あなたにもあると思います。

「高級クラブ仕事術」を身につける

つまり、「高級クラブ仕事術」とは、単純接触効果を最大限に活用したスキルのことを意味しています。

急に真面目な話になりますが、部長の仕事は人を動かし、改革を実現することです。

そのためには、多くの部下が同じ方向を向き、仕事の意義や目的を理解し、部長のためではなく、組織のために取り組む意欲を持たなければなりません。

そのような状況を作り出すものこそ「高級クラブ仕事術」なのです。

つまり、単純接触効果を最大限に発揮し、部下の心を積極的に動かしていく

最初は「改革なんて大変だし面倒」と思っていた部下も、部長がくり返し熱意を持ってメッセージを送り続けることで、やがて「やっぱり必要だよな」と感じるようになります。

部長と接する機会が増えることで、信頼感が増すことも充分に期待できます。

もっとも、明らかに見え透いた言動は逆効果です。

どんなスキルにも、それに見合うだけの魂が必要です。

いくら単純接触効果を活用しているといっても、高級と言われるクラブには心があります。客の顔の向こうにお金しか見ていない、そのような店は長持ちはしないはずです。

その点だけに留意して、ぜひとも接触の機会を増やしていってください。

部長の心得
石川 和男
建設会社役員・税理士・大学講師・時間管理コンサルタント・セミナー講師と五つの仕事を持つスーパーサラリーマン。1968年北海道生まれ。埼玉県在住。大学卒業後、建設会社に入社。経理部なのに簿記の知識はゼロ。上司に叱られ怒鳴られてすごす。初めて管理職になったときには、部下に仕事を任せられない、優先順位がつけられない、スケジュール管理ができない、ないない尽くしのダメ上司。深夜11時まで残業をすることで何とか仕事を終わらせる日々が続く。体調を崩し、ストレスから体重も1年で10キロ増加。このままでは人生がダメになると一念発起。時間管理やリーダー論のビジネス書を1年で100冊読み、仕事術関係のセミナーを月1回受講するというノルマを課し、良いコンテンツやノウハウを取り入れ、実践することで徐々に残業を減らしていく。さらに個人だけではなくチームとしても効率的な時間の使い方を研究し、生産性を下げずに残業しないチーム作りを実現する。残業をゼロにし空いた時間で、各種資格試験にも挑戦。働きながら、税理士、宅地建物取引士、建設業経理事務士1級などの資格試験に合格。建設会社のほか税理士、講師の仕事も始める。近著に『仕事が「速いリーダー」と「遅いリーダー」の習慣』、『残業しないチームと残業だらけチームの習慣』(共に明日香出版社)、『最新ビジネスマナーと今さら聞けない仕事の超基本』(朝日新聞出版社)ほか多数。

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