シンカー: 7月の雇用統計では、労働市場の回復が続いたことが示されたが、5月に雇用者数が大幅に持ち直したあと、回復ペースは緩やかになってきている。コロナ第2波や経済対策をめぐる与野党の対立など、先行きの不透明感が強い中で、労働市場の回復ペースは緩慢な状態が続いていく可能性があるだろう。前回のFOMCで、FEDは様子見の姿勢を取ったが、パウエル議長は見通しの不確実性を強調しており、9月のFOMCで発表されるとみられるSEPで、失業率を含む経済見通しについてヒントが得られるかが注目される。今のところ、市場ではFEDがフォワードガイダンスを変更、インフレターゲットついてより柔軟な姿勢をとり、平均的なインフレ率を目標とするといった可能性が意識されているようだ。ただ、要人たちの間では失業率の目標についても明確化を求める声もみられ、今後の政策枠組みに関する議論が注目される。今後、FED最大雇用目標のために景気を加速させ、インフレのある程度までの昂進については容認していく可能性があるだろう。
グローバル・経済指標・クイックコメント集
●米NFP (8/7): 1763k(予想1480k / 過去2回修正分17k)
●米失業率 (8/7): 10.2% (予想10.6% / 前回11.1%)
●米平均時給 (8/7): MoM 0.2% (予想-0.5% / 前回-1.2% -> -1.3%) / YoY 4.8% (予想4.2% / 前回5.0% -> 4.9%)
・7月の雇用統計で非農業部門の雇用者数は前月比1760k (vs 1480k)と予想を上回った。
・失業率も10.2% (vs 10.6%)と予想を下回るとともに前月の11.1%から低下した。
・平均時給は前月比0.2% (vs -0.5%)と予想を上回り、レジャーや接客業など比較的低賃金とみられる労働者の雇用が持ち直す中でもプラスを維持している。
・労働市場は最悪の状況からは脱したと見られるが、週次の新規/継続失業保険申請件数が示しているようにさらなる回復には時間を要するだろう。
・新型コロナの第二波が広がっていることから、再び経済活動の再開を抑制する動きも強くなるとみられ、追加経済対策をめぐる与野党の対立もマイナスに働く可能性がある。
●独鉱工業生産 (8/7): MoM 8.9% (予想8.2% / 前回7.8% -> 7.4%) / YoY -11.7% (予想-11.4% / 前回-19.3% -> -19.5%)
・6月のドイツ鉱工業生産は前月比8.9% (vs 8.2%)と予想を上回り、前月の7.4%から加速した。
・ドイツ経済の主力である自動車の生産の持ち直しや、貿易活動の再開などがプラスに働いている。
・ひとまずロックダウン措置の緩和がプラスに働いたようだが、それ以降の感染者数増加などもあり、V字回復が持続できるかは不透明だ。
・ユーロ圏内でも感染者数が増加の兆しを見せており、再度の移動制限といった措置が製造業と輸出に対する重石となる可能性がある。
●独ZEW景況感指数 (7/14) : 現況-80.9 (予想-65.0 / 前回-83.1) / 期待59.3 (予想60.0/ 前回63.4)
・7月のZEW景況感指数は現況が-80.9と持ち直しがみられた一方で、3か月連続で上昇していた期待はわずかに下落して59.3となった。
・当局の積極的な対応や、経済活動再開に向けた動きが好感されている一方で、第二波への懸念も強まっている。
・コロナウイルスを背景に、引き続き世界的に貿易活動が減少していることが、輸出の割合が大きいドイツに対する重しになっているようだ。
・今年後半から来年にかけて回復が進む見通しだが、外需の持ち直しにはさらなる時間を要する可能性があるだろう。
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司