先日、知る人ぞ知る現役トップ・プライベートバンカーとランチを共にした。彼は現役のプライベートバンカーとして、間違いなく日本で5本の指に入る人物である。そんな彼とのランチの席で大いに盛り上がったのが「最近の投資信託」の話題だった。時が経つのも、ソーシャル・ディスタンスも忘れかけるほど充実した時間だった。

筆者はファンドマネージャーとして投資信託に関わるようになった1990年代から、投信業界を何とか変革したいと孤軍奮闘してきた。その想いは現在も変わらない。そんな筆者にとって、現役トップ・プライベートバンカーとの本音トークは、実に正鵠を得た納得の出来る生の声だった。

20年間、お客様との「信頼関係」を維持することの凄さ

投資信託,リスク
(画像=makaron / pixta, ZUU online)

筆者が彼を「凄い」と思った理由は、お客様からお預かりしている残高が多いとか、某大手(超有名)プライベートバンクの稼ぎ頭だからなどという下世話な話ではない。一番の理由は「お客様とのお付き合いが、長いところで20年にも及ぶ」という事実だ。20年のお付き合いといっても、決して「飲み友達」とか、「ゴルフ仲間」等で続いているということではない。あくまで「担当のプライベートバンカー」として20年もの長きに亘り「お取引」が続いているということだ。

恐らく普通に金融機関と取引していたら、この20年という長さにまず驚かれるだろう。殆どの金融機関には転勤がつきものであり、短ければ3年も経たずに担当者が入れ替わってしまう。長くても5年がせいぜいだ。一口で20年と言うのは簡単だが、ITバブルがあり、911同時多発テロがあり、第2次湾岸戦争があり、リーマン・ショックがあり、東日本大震災もあった。そして現在はコロナ禍真っ只中である。この間、ずっとお客様の変わらぬ信用を頂戴してきたというのだから「凄い」の一言に尽きる。それは彼が一番大切にしている信条が「お客様との信頼関係」だからだ。信頼関係は一朝一夕には作れないが、壊すのは一瞬だ。20年続いている事実こそ、彼の信条が真実である証だ。

「投資を信じて託して貰う」それが投資信託

「投信会社を作るから、そこで株式投信のファンドマネージャーを担当しろ」筆者が銀行からそんな辞令を受けたのは1993年のことだった。当時は「外れくじ」を引かされたと正直思った。何故なら、あの頃の投資信託は、言うなれば証券会社の売れ残りの株や債券を放り込むバケツのような存在だったからだ。この辺りの話はまた機会があればお伝えしたいと思っている。

だが実際に投資信託の商品開発をし、運用に携わってみると、実はこれほど一般の投資家に向いている商品は無いと思うようになった。僅かな口銭を払うだけで、24時間パフォーマンスを上げることだけに執着している専門家に投資判断を任せることが出来るのだから。気が付けば、何とか投資信託を真っ当な方向にもって行きたいと思うようになっていた。

その為にはパフォーマンスを上げることは勿論だが、お客様が安心して虎の子の投資を任せられる仕掛けを考えた。その一例として業界で初めて担当ファンドマネージャーとして名前と顔写真を商品パンフレットにも載せ、毎週毎週、ファンドの全ての組入銘柄を組入比率と共に開示し、その週に何をどう考え、どう運用したのかを運用レポートに書いた。毎週金曜日のテレビ出演をお引き受けしたのも、筆者の顔色を見て頂く為だ。1998年には投資信託の素晴らしさを伝えるために『入門の金融 投資信託のしくみ―見る・読む・わかる』(日本実業出版社)という本を、寸暇を惜しんで書き下ろした。すべて、こちらからは顔の見えないお客様と信頼関係を作るためである。

だからだろう、現役トップ・プライベートバンカーの彼が「お客様との信頼関係」を一番大事にしているという信条が偽りのないものであり、それこそが20年の秘訣だとすんなり腹落ちした。

「超富裕層にお薦め出来るファンドが無い」