この記事の執筆者 角田壮平
相続税専門である税理士法人トゥモローズの代表税理士。年間取り扱う相続案件は100件以上、謙虚に、素直に、誠実に、お客様の相続に最善を尽くします。

みなさんこんにちは!
相続専門の税理士法人トゥモローズです。

相続税申告を進める中で名義預金なのか生前贈与なのか迷うときが結構あります。
相続税法や財産評価基本通達にはその判定方法は明記されていません。
したがって、絶対的な判定方法は存在しないのです。
過去の判例等を参考にしながら様々な角度からどちらに該当するのかを総合的に検討しなければなりません。
総合的に検討した結果、どちらに該当するのか微妙なケースも多々あります。

本コラムでは、絶対的な正解がない名義預金と生前贈与の判定方法についてわかりやすく解説します。

目次

  1. 名義預金とは
  2. 生前贈与とは
  3. 判定方法
    1. ①贈与契約書の有無
    2. ②預金口座開設時のサイン
    3. ③銀行届出印
    4. ④届出印、通帳、キャッシュカードの保管場所
    5. ⑤受贈者が自由に使える状態であったか
    6. ⑥金融機関からの郵送物
    7. ⑦贈与者(被相続人)の意思能力
    8. ⑧贈与税申告書の有無
  4. 税額シミュレーション

名義預金とは

名義預金とは、「亡くなった人の名義ではないのに相続税の対象となってしまう預金のこと」です。
例えば、妻名義、子名義、孫名義などの預金でその原資を被相続人が拠出し、口座の管理を被相続人がしていた場合、名義預金に該当します。
名義預金に該当するかどうかのフローチャートは下記を参照してください。

税理士法人トゥモローズ
(画像=税理士法人トゥモローズ)

本コラムは上記フローチャートの3番目の問である、「その預金は過去に被相続人から贈与を受けたものである」かどうかの判定方法を詳細に解説していきます。
なお、名義預金のもっと詳しい説明は、【相続税】名義預金を税務調査で認定されないための基礎知識まとめ

生前贈与とは

生前贈与とは、自身の財産を無償で相手に交付することをいいます。相続対策として自身の子や孫に贈与税の非課税枠である110万円以内で贈与するケースが多いでしょう。富裕層になると110万円を超える贈与をして贈与税の納付をするケースもあります。
生前贈与は、渡す方ともらう方の双方の合意が必要な諾成契約です。また、贈与を成立させるためにはもらった財産の管理はもらった方がしなければなりません。
適切な生前贈与のやり方の詳しい説明は、相続税の税務調査時に、名義預金と認定されない生前贈与の方法【4つの掟】を参照してください。

判定方法

相続税申告の作業をしている中で生前贈与が成立しているのか、それとも、名義預金に該当するのかの判定は、下記のような事項を総合的に勘案して検討していきます。

①贈与契約書の有無

贈与契約書が適正のものであるならば、贈与が成立していると判断しても良いでしょう。 贈与契約書が適正でない場合とは、贈与者に意思能力がなかった(認知症や昏睡状態等)場合などが想定されるでしょう。
また、贈与契約書により真実性を高めるためにも贈与者、受贈者がともに自署押印したほうが良いです。

なお、まれに贈与契約書があるにも関わらずその後の預金の管理を贈与者がやってしまっているケースもあります。この場合には贈与が成立したとは言えないので贈与契約書通りに贈与を実行してください。

②預金口座開設時のサイン

名義預金で問題になるのが受贈者名義の預金口座を誰が開設したかです。
その口座を贈与者(被相続人)が開設していた場合には名義預金と疑われる可能性が高いため名義人である受贈者にて開設するようにしましょう。

③銀行届出印

名義預金の判定でその口座の銀行届出印が贈与者(被相続人)が使っていたものと同一かどうかが問題となることがあります。
名義預金と疑われないためにも贈与を受けたお金を保管しておく口座の届出印は受贈者独自の届出印としたほうが良いでしょう。

④届出印、通帳、キャッシュカードの保管場所

受贈者名義の預金口座に係る届出印、通帳、キャッシュカードの保管場所が贈与者(被相続人)の管理下になっていた場合には名義預金と疑われてしまいます。
贈与が成立していると立証するためには受贈者が独自に管理すべきでしょう。

⑤受贈者が自由に使える状態であったか

贈与を受けたお金を受贈者が自由に使える状態でないと贈与が成立したとはいえません。
また、自由に使える状態であったけど手を付けていなかった場合には、なぜ手を付けていなかったのかという理由も確認しましょう。

⑥金融機関からの郵送物

金融機関からの郵送物が受贈者の住所ではなく贈与者(被相続人)の住所に届いていた場合には名義預金と疑われてしまいます。
郵送物は受贈者の住所に届くようにしておきましょう。

⑦贈与者(被相続人)の意思能力

贈与当時に被相続人が意思能力があったかどうかも必ず確認しましょう。もし、晩年認知症だった場合には、その発症時期等も確認し、贈与日との前後関係を確認しましょう。

⑧贈与税申告書の有無

年間110万円を超える贈与をして贈与税申告書を税務署に提出していた場合には贈与成立と認定される可能性は高くなります。
ただし、こちらも全て贈与者(被相続人)側で実施していた場合には贈与不成立と認定される可能性もありますので、申告書が出されていたから絶対安心というわけではありません。

税額シミュレーション

上記により総合的に検討しても名義預金か生前贈与が成立していたか微妙なケースもあります。
その場合には、名義預金とした場合と生前贈与とした場合で相続税、贈与税、加算税等のシミュレーションを実施したほうが良いでしょう。
具体例を用いて試算してみましょう。

■相続開始日:2020年10月31日
■口座名義人:子
■原資:父(被相続人)
■口座の開設:2016年4月に父が子名義にて口座開設し、父の口座から1,500万円を当該口座に入金した。
■支配管理:父の銀行印ではない別の印鑑を使用。被相続人と子が同居しており、被相続人と子の通帳・キャッシュカードは同じ場所で保管していた。
■経緯:当該口座の存在は知っていたが、相続開始日までに父に対する遠慮もあって引き出し等はせずにそのまま残っていた。父の管理下にあったか子の管理下にあったかは微妙な状況だった。2017年3月に子は贈与税の申告はしていない。

〈回答〉 これは名義預金として相続財産に計上するか、贈与が成立しているか微妙なケースです。
相続財産に計上した場合と贈与税の期限後申告をした場合の税負担を把握し、税務リスクを総合的に検討します。

・相続財産:2億円(上記1,500万円を除く)
・相続人:子のみ

税理士法人トゥモローズ
(画像=税理士法人トゥモローズ)

※延滞税は、2020年12月1日に贈与税の期限後申告及び納付をしたものとして延滞税を計算しています。(提供:税理士法人トゥモローズ