8月相場も後半となりました。7月下旬から8月中旬まで、上場企業の決算発表が続いていたこともあり、休みを取れなかった市場参加者が遅れて夏休みを取るためか、この時期は東証の売買代金が2兆円以下に縮小することが多いようです。もっとも、決算発表への反応が中心で値動きが荒かった決算発表時期と異なり、値動きが落ち着きやすくなるこの季節は、投資対象についてしっかり考えるのによい時期であるといえるかもしれません。

そこで、今回の「日本株投資戦略」では、「意外な好業績銘柄」を探るべく、銘柄の抽出をこころみてみました。分析の対象としたのは6月、9月、12月決算の銘柄です。2020/4~6月期の業績が開示された直後という意味では同じですが、銘柄間の比較がどうしても3月決算銘柄中心になりやすいとみられ、仮に好業績でも相対的に見落とされがちになると考えました。

2020/4~6期の「意外な好業績銘柄」を探る

日本株投資戦略,上方修正期待銘柄
(画像=PIXTA)

株価上昇が期待できる「意外な好業績銘柄」とはどのような銘柄でしょうか。とりあえずは以下のような条件のもと、銘柄を抽出し、株価の騰落を調べてみました。

(1)東証1部上場銘柄であること。
(2)時価総額1千億円以上の銘柄であること。
(3)広義の金融(銀行、証券・商品、保険、その他金融)を除く業種に属していること。
(4)6月、9月、12月決算銘柄で、2020/4~6期の決算発表を終えた銘柄であること。
(5)当四半期(2020/4~6期)の営業利益が黒字で、事前の市場コンセンサスを上回っている銘柄であること。
(6)当四半期(同上)の営業増益率(前年同期比)がその前の四半期の営業増益率を上回っていること。
(7)今期の市場予想営業利益が会社予想営業利益を上回っていること。
(8)来期の市場予想営業利益が増益予想となっていること。

以上のすべての条件を満たした銘柄を、上記の(6)にあげた当四半期の営業増益率(前年同期比)が高い順に並べたものが表1となっています。ご存知の通り、2020/4~6期は我が国のみならず世界的に経済活動や人の流れが止まり、業績が急速に悪化する上場企業が多かったのが現実です。日銀短観では大企業・全産業の業況判断が3月の0から、6月は-26へと急速に悪化し、業況が好転した業種は皆無となりました。

表1に掲載された銘柄はそうした中、前年同期比で、本業のもうけを示す営業利益について、増益を確保しているうえ、増益率は前の四半期よりも高くなっています。その意味で「ウィズ・コロナ」の投資環境が逆に追い風になっている可能性が大きい銘柄であると考えられます。

020/4~6期の「意外な好業績銘柄」
(画像=SBI証券)

表1 2020/4~6期の「意外な好業績銘柄」を探る
コード / 銘柄 / 株価8/20(木) / 株価騰落率 / 営業増益率(前年比)前四半期 / 営業増益率(前年比)当四半期
<3659> / ネクソン / 2,586 / -10.3% / -21.0% / +105.7%
<6361> / 荏原製作所 / 2,778 / +6.3% / -22.8% / +71.8%
<4776> / サイボウズ / 3,250 / +1.1% / +11.7% / +62.4%
<9672> / 東京都競馬 / 5,080 / +23.2% / +40.6% / +47.9%
<9749> / 富士ソフト / 4,915 / +0.9% / +13.1% / +45.0%
<4812> / 電通国際情報サービス / 5,890 / +5.2% / +28.8% / +39.9%
<2491> / バリューコマース / 3,395 / +2.6% / +22.9% / +29.0%
<3769> / GMOペインメントゲートウェイ(9) / 11,580 / -1.8% / +20.3% / +20.3%
<9869> / 加藤産業(9) / 3,610 / +5.4% / -2.0% / +13.9%
<4704 / トレンドマイクロ / 6,600 / +6.5% / +8.7% / +10.5%

※各社株価データ、各社公表データおよびBloombergをもとにSBI証券が作成。銘柄名右側に(9)の印がある銘柄は9月決算銘柄で、他は12月決算銘柄になります。営業増益率の項で、「当四半期」は2020/4~6期で、「前四半期」は2020/1~3期になります。株価の項で「騰落率」は決算発表直前値からの騰落率。決算発表直前値は決算発表が取引終了後の銘柄の場合は決算発表日終値、取引時間中に発表の場合は前日終値を指しています。スクリーニングの結果、6月決算の銘柄は抽出されませんでした。

掲載銘柄の投資ポイントは?

抽出された銘柄はなぜ「意外な好業績銘柄」と表現できるのでしょうか。

たとえば荏原製作所(6361)の場合、前年同期比の営業増益率は2020/1~3期に-22.8%の後、2020/4~6期は+71.8%と記載されると急回復の印象ですが、決算短信上は2020/1~6期累計で+5.3%と発表されるので、印象が薄まってしまう可能性があります。表1で記載された12月決算銘柄や9月決算銘柄は2020/4~6期そのものの変化率や市場予想との比較が、3月決算銘柄より見えにくいように思われます。

分析やスクリーニングの際にも、計算を単純化するために、母集団を3月決算銘柄に限定してしまうということはよくあるので、9月決算銘柄や12月決算銘柄は多少見逃されやすいと言えそうです。

なお、同社は8/11(火)に決算発表を実施しました。8/13(木)の新聞報道では、通期は純利益が27%減の見通しで、ポンプが低調である旨が説明されています。しかし、2020/4~6期だけをみると、営業利益は市場予想を大きく上回っており、数字的にはポジティブ・サプライズを誘う内容でした。このため、8/12(水)の株価は大幅高になっています。市場コンセンサスでは2020/12に14.6%の営業減益が見込まれるものの、2021/12期は17%の営業増益が見込まれています。

PC向け無料ロールプレイングゲームが主力で、12月決算銘柄のネクソン(3659)は8/6(木)に決算発表を実施し、2020/1~6期の営業利益は682億円(前年同期比4.1%増)となりました。ただし、2020/4~6期だけみると267億円(前年同期比105.7%増)で、市場予想をやや上回る数値でした。図1にあるように、同社の株価は5~7月は総じて上昇しており、8/7(金)をピークとする下落は利益確定売りとみられます。市場コンセンサスでは営業利益が2020/12期に33%増、2021/12期に20%増と拡大が見込まれ、押し目では買いが入ってくる可能性もありそうです。

東京都競馬(9672)は7/31(金)に決算発表を実施しました。2020/1~6期の営業利益は49.2億円(前年同期比45.3%増)と順調に拡大しています。新型コロナウイルスの感染拡大で、スポーツやギャンブルでは無観客試合が増え、収益的には逆風が吹いているとみられますが、当社の場合はインターネット投票の普及を後押しする要因となり、逆に追い風になったようです。SBI証券・企業調査部では8/18(火)付でレポートを発行し、投資判断「買い」の継続と、目標株価の引き上げ(6,000→6,500円)を発表しています。

なお、表1に掲載されている電通国際情報サービス(4812)についても、企業調査部から8/7(金)付けでレポートが発行され、こちらは投資判断「中立」、目標株価引き上げ(5,050円→6,000円)という評価になっています。

図1 ネクソン(3659・日足)

ネクソン(3659・日足)
(画像=当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。)

図2 東京都競馬(9672・日足)

東京都競馬(9672・日足)
(画像=当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。)

※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。
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鈴木英之
SBI証券 投資調査部

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