シンカー: 財政拡大と金融緩和の強いポリシーミックスで、日米ともにマネーが拡大するための目詰まりが解消し、これまでの経済活動の足かせとなってきたグローバルデフレから経済活動を促進するインフレに変化していくマクロロジックをこれまで解説してきた。新型コロナウィルスによる需要の抑制がグローバルデフレを悪化させるという論調も根強く、グローバルインフレに対して否定的なようだ。グローバルインフレに対する反論は主に二つあるようだ。一つ目は、財政拡大があっても、防御的になった企業の貯蓄行動が上回り、デフレ圧力がかかることだ。財政収支と企業貯蓄率の合計であるネットの資金需要が拡大するのか、縮小するのかが分かれ目だ。重要なのは企業の投資行動である。日米ともに設備投資がGDPをアウトパフォームする動きとなっており、このデフレ圧力は否定できる。二つ目は、デジタルトランスフォーメーションなどによるコスト削減や生産性の上昇がデフレ圧力になるということだ。投資は、長期的には供給能力の拡大となるが、短期的には需要である。投資は成功するものと失敗するものの玉石混交である。失敗するものも需要であり、投資ブームが起きた時は、短期的には需要拡大の力の方が大きいようだ。いずれ成功した投資が生産性を上昇させれば、インフレ圧力は緩和され、成長は持続する。一方、投資ブームが生産性を押し上げることに失敗すれば、投資による成長の後押しはバブルであったことが分かるであろう。どちらにせよ、投資ブームがおこれば、短期的にはインフレ圧力がかかることになる。
グローバル・レポートの要約
●アセットアロケーション(8/19):新学期に向けて 注意すべき3点
夏は続いており(読者の皆さまは残り2週間の夏休みをお楽しみ下さい)、市場は熱波と軌を一にした(熱い)動きとなっているようだ。こうした「総強気」が、ここロンドンでも気温が上昇する中で発生している。最近の市場の動きを理解しようとすると3つの疑問が頭に浮かぶ。それらは夏休み明けに向けて準備する際の助けになるほか、資産配分への潜在的インプリケーションを明らかにしてくれる。
米国株の行先は
潜在的なワクチンに関するニュースフローが勢いを増す(増加する)中で、2020年後半から2021年にかけて(少なくとも)スウッシュ型(ナイキ社のロゴの形)の回復が見込まれているため、シクリカル銘柄へのセクター・ローテーションを加速する可能性がある。この文脈で弊社は、S&P 500株価指数は(弊社が示した2020年Q3の予測の様に)3,500を超え、年末に向け3,300に戻る可能性がある。またハイテクバブルは発生しているのだろうか。
金価格、米国債実質利回りと米国ブレークイーブン・インフレ率の行方
金価格、米国ブレークイーブン・インフレ率の水準、米国インフレ連動債価格は、 過去数カ月に軌を一にして(株式同様に)上昇してきた。弊社の考えでは、債券では株価の調整からポートフォリオを守れないことと、FRBがゼロ金利制約(ZLB)を維持していることが理由の一部になっている。米国インフレ連動債(TIPS)の実質利回りには底が存在しない。こうした変化は、債券利回りからは離れて発生している。米国10年ブレークイーブン・インフレ率(BEI)の足元の水準は(弊社モデルが示す)適正水準から離れており、ファンダメンタルズからの乖離があることが確認される。債券価格が上昇する中でのBEI上昇は、「停滞」ストーリーを完全には反映していないかも知れず、資金フローや流動性に左右される最近の市場を映している可能性がある。
米ドルにどう対応するか
ユーロが急速に上昇している背景には、米ドルから他の先進国通貨への多角化が進む中で、大がかりな財政面からの復興計画と新型コロナウイルスへの対応を通じて EUが構造的に変化していることが挙げられる。中期的には、今回は米国が(10年余り前の世界的金融危機のように)いち早く危機を脱出できない可能性があるため、米国と先進各国のGDP格差によって、従来の米ドル高バイアスが(特に対ユーロでは)逆転するとみられる。
●インドネシア経済(8/20):中央銀行の現状維持、チャンスを逃した可能性がある
インドネシア銀行(BI、中央銀行)は本日(19日)、市場の見込み通りに政策金利を4.0%で据え置いた。だが弊社は25bp利下げを見込んでいた。その理由は、2020年第2四半期(Q2)の経済指標が全くの期待外れで(参照)、2020年の景気後退が当初見込みよりも遥かに急速となり、正式なGDP予測の中で最も低い値を大きく下回ると示していることだった。より重要なことに、名目GDP成長率は実質的な財政支出が無い中でマイナス7%近くになっており(2020年Q2名目政府支出は前年同期比7.7%減)、BIの追加利下げがいっそう大切になっていた。デフレータがマイナスで名目GDP成長率のマイナス幅も拡大すれば、税収がさらに減少して、政府が望ましい水準の財政刺激策を維持することは一層難しくなる。それに加えて、通貨が最近多少下落しているとはいえ、全体的な米ドル安を考えるとBIにとって為替水準はそれほど強い懸念材料では無いはずだ。極端な低インフレと実質債券利回りが他国を大きく上回っていることで、利下げの条件は整っていた。しかしBIは、最近の自国通貨下落と、外貨流入に悪い影響が及ぶという懸念を過剰に重視した。その結果、インドネシア経済を通常の軌道に戻す大きなチャンスを逃したとみられる。
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司