企業オーナー、社長の皆さん、「銀行は会社をどのように評価しているのか?」の第2回をお話します。今回は、決算書の「借入金」のチェックについてです。
(第1回は、「チェック1決算書を渡した時」から「チェック4売上推移と在庫、売掛金」まででした。)
借入金の残高と月商
銀行員は、決算書をもらった時、借入金の残高と内容をチェックするはずです。その際、年商を12で割って、月商を頭の中で計算。短期借入金の残高が、月商の3ヶ月程度までかを見ます。4億円の年商なら、月商は約33百万円。33に3ヶ月を掛けて、短期借入金が1億円程度までか、どうか?(長期借入金は、新工場建設用の長期借入のケースもあり、年商程度の借入金になることもあり得ます。)
そして、純資産の額に対して、借入金の比率がどの程度かを見ます。この数字は業種によってバラつきがあるため、過去の感覚と照らし合わせます。
この決算書の業種は、メーカー(最終製品製造)なのか?組立て系なのか?開発系なのか?
BtoBの卸売り問屋なのか? BtoCの小売りなのか? 戸建て住宅の開発分譲なのか? 商業ビル賃貸なのか? 頭の中で、なるべく同類の企業を探して、その数値感覚とおおよその比較をします。
長期借入と短期借入の比率(ちょうたんひりつ)
銀行員は、長期借入金と短期借入金の比率、配分にも注目します。略して、「ちょうたんひりつ」です。
社長さんの中には、「金利はなるべく安く低いほうがいい、返済期間もなるべく短いほうがいい。」と考える方がいらっしゃいます。決算書のバランスシートを見ると、短期借入金ばかりであり、長短比率としては、短期に偏っています。
もちろん業種に依るのですが、特に、設備投資など長期的に使用する固定資産が一定量あるのに、目先の金利低さと銀行の「借りて下さい営業」に乗って、短期借入金ばかりであれば、バランスの取れた銀行員は警戒します。
このような「借入が短期に偏った会社」は、「メイン銀行と呼べるような、中心的、長期的な関係の銀行」がないのではないか? いつも、ドングリの背比べの銀行同士を競わせ、我々銀行を使い捨てにするのではないか?と、心の中で仮説を立てるのです。
借入金と現預金
次に、現預金の残高と月商、年商との関係を見ます。また、借入金の残高と現預金の残高の関係も見ます。この2つの関係に、社長の考え方が出ていることが多いからです。
月商のできれば3ヶ月分の現預金を置こうとする社長、そもそも、月商と現預金の関係を意識する社長は、会社経営の浮き沈みに対する備えがある、と考えます。
メイン銀行はあるか? 3期分の借入残高推移は?
社長から決算書をもらえた銀行員は、できれば支店長と審査部を説得して、融資を始めたいと思っています。メイン銀行があるか、を確認し、メインが固まっていることを説得の材料とすることもあります。
長短の合計が最も多い銀行の残高が、全体の借入残高の50%前後を占めていれば、その銀行がメインと推察します。業暦が長ければ、メイン銀行が決まっているケースが多く、逆に短ければ、はっきりしていないケースも多くあります。
メイン銀行を確認できたら、3期分の借入残高推移を見ます。この銀行の借入残高推移に変化があるか、ないか?もチェックするはずです。
いつでも融資の相談のできるメイン銀行が確立してあり、その関係が長期的であるということは、評価は高まります。(その裏返しで、メイン銀行が総合取引でがっちり収益を上げていると考えられ、営業上は、工夫しないと新規参入しても実績を上げられません。さて、どういう提案営業をするか?と思案します。)
借入のある銀行の顔ぶれと種類は?
銀行員が決算書をチェックする時に、借入のある銀行の顔ぶれと種類を見ます。浮き沈みのある企業経営において、苦しい時にも融資を受けられるように、取引銀行の顔ぶれにも配慮している社長さんは、様々なバランスを取っていると考えます。銀行の業態や営業店には特徴や「クセ」があり、それを巧く使い分けながら資金調達していると想像できるからです。
銀行の業態と営業店の「クセ」
公的な銀行、半官半民の銀行は、比較的に長期融資に特徴があります。また、民間では、メイン取引の少ない銀行、あるいは、メイン取引の少ない地域の営業店は、短期融資を得意とし、長期融資が相対的に少ない傾向にあります。これは一例ですが、銀行員にクセがあるのと同様に、各銀行や各営業店には、業態、歴史、行内の位置付けに由来する「クセ」があります。
逆に言えば、我々は、年商と業種、本社所在地を聞けば、取引銀行の顔ぶれを具体的に想像することが可能です。その想像の顔ぶれと、実際に決算書を開いた時に書いてある銀行の顔ぶれに違いがあれば、その会社と銀行の間に、何らかのエピソードや、親会社や大株主の意向があるのではないか?と想像します。
銀行員へ「経緯」を説明することが「コツ」
決算書を渡した時、銀行員は、そんなことを頭の中でぐるぐると考えているかもしれません。そんな時、社長さんが創業時に助けてくれた銀行の「エピソード」や親会社や大株主との「経緯」について解説すれば、銀行員は納得し、晴れやかな顔つきになるはずです。行内で「説明できる」ことが価値なのです。
次回第3回では、その他のチェックや会社格付の定量評価についてお話します。(提供:企業オーナーonline)
(作成:企業オーナーonline編集分室/第三銀行 柴田尚郎)以上
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