人口減少社会の日本では、将来的に不動産の価値が維持されやすい、あるいは上昇しやすいのは、東京圏と大都市の一部だと言われています。しかし、2020年5月にスーパーシティ法案が成立したことで、これまで不動産の注目度の低かったエリアに一気に公共・民間の投資が集中する可能性も出てきました。今回取り上げるスーパーシティとは、それほどまでにインパクトのあるものです。

スーパーシティではビッグデータやAIで都市空間を管理運営

不動産市況
(画像=metamorworks/stock.adobe.com)

スーパーシティとは、国家戦略特区をさらに強化した都市のことです。規制緩和を一括して調整できるのがスーパーシティの強みで、自動走行、遠隔診療、遠隔教育、行政のデジタル化など、現在の日本では規制や抵抗勢力で実現が難しいことがスムーズに進められます。

ただし、スーパーシティのインパクトはこういった部分最適化にあるのではありません。ビッグデータやAI(人口知能)などで都市空間全体の管理運営を可能にすること。これこそが世界中でスーパーシティが生まれている最大の理由なのです。これは、未来都市を短期間で創出可能にする仕組みといえるでしょう。

日本初のスーパーシティ 21年3月頃には候補都市が決定

2020年夏時点で相当数の自治体がスーパーシティに名乗りをあげることを検討していると言われています。これらの自治体が、2020年12月末〜2021年2月頃に想定されている公募に手を挙げ、2021年3月に国家戦略特区諮問会議によって決定(区域指定)を受けることになります。

その後、区域指定を受けた自治体は、1年以内に住民の同意を得て基本構想を策定・提出する流れです。このロードマップに沿って進めば、2022年3月頃には日本初のスーパーシティがほぼ決定する予定です。

世界中では数多くのスマートシティがすでに実現している

日本でようやく始動しはじめようとしているスーパーシティ構想ですが、世界中では数多くのスーパーシティがすでに実現しています。北米や欧米はもちろん、同じアジアの中国、韓国、シンガポールなどもスーパーシティを実現し、成功・失敗のノウハウを蓄積。さらなる「スーパーシティ2.0」に役立てようとしています。

日本はスーパーシティの分野で世界に遅れをとっている(=デジタル化、AI実用化、無人化などが遅れている)という現実はしっかりと認識する必要がありそうです。もうひとつのポイントは、一口にスーパーシティといっても目指す方向性や、都市に実装している技術はそれぞれ違うということです。下記の事例を見ると、さまざまなタイプのスーパーシティがあることがわかります。

海外のスーパーシティ(スマートシティ)の主な事例

国・都市内容
韓国・松島(ソンド市)官民共同3セク型スマートシティ。完全なグリーンフィールドで国際都市を目指す
中国・雄安新区中国のエコシティ・スマートシティのモデル都市を目指し、自動運転、無人行政、無人銀行、無人スーパー、無人ホテルなどを展開
中国・杭州市道路交通情報を AI で分析し、交通取締り、渋滞緩和を実現
シンガポール共和国国家センサーネットワーク設置・ デジタル決済の普及・国家デジタル身分証システム構築・政府データのオープン化
フィンランド共和国・ヘルシンキ市ベンチャー企業が開発したMaaSアプリを使い、シームレスなモビリティシステムを提供
アラブ首長国連邦・ドバイ都市全体を ICT インフラで整備。官民問わずあらゆる情報をインターネット上で利用
備考この他、 スーパーシティを実現している国としては、オランダ王国・アムステルダム市、カナダ・トロント郊外、アルゼンチン・ブエノスアイレス、アメリカの複数の都市などがある

引用:内閣府「スーパーシティ構想について」

「グリーンフィールド」「ブラウンフィールド」どちらの選択かに注目

日本初のスーパーシティを検討している自治体は、2020年夏の段階で50〜60程度あると言われています。スーパーシティで指定されるエリアは、①都道府県単位②市町村単位③自治体の中の一部区域などが考えられますが、参入に住民同意が必須なことを考えれば、②または③の選択の可能性が高いと考えられます。

投資という観点でいうと、スーパーシティといっても「グリーンフィールド(新規開発型)」と「ブラウンフィールド(既存都市型)」のどちらで進められるかに注目すべきでしょう。グリーンフィールドは、住民が少ない(あるいは、まったくいない)未開拓エリアを開発するものです。住民合意のハードルは下がりますが、インフラ投資が膨大になりハイリスク・ハイリターンになります。一方のブラウンフィールドは、開発の進んだエリアをアップデートするやり方です。投資金額は抑えられますが、住民合意のハードルが上がります。

視点を変えると、グリーンフィールドの方がキャピタル狙いがしやすく、ブラウンフィールドの方はインカム狙いがしやすいといえます。ちなみに、スーパーシティ正式表明の前段階ともいえるアイディア公募では(※)、カウントされた56自治体中、7つがグリーンフィールド、59がブラウンフィールドを選択しています。

スーパーシティ構想 アイディア公募の自治体例

グリーンフィールドを選択鎌倉市、大阪府・大阪市、牧之原市、和歌山市など
ブラウンフィールドを選択愛知県、京都府、つくば市、仙北市、豊田市、千葉市、藤沢市、神戸市、東広島市、北九州市など

参照:内閣府「スーパーシティ構想について」

※スーパーシティ構想アイディア公募に参加したすべての都市が正式応募に参加するわけではありません。参考情報と考えた方がよいでしょう。

スーパーシティの有力候補例:裾野市、前橋市、市川市など

2020年8月段階で、スーパーシティの有力候補と言われるエリア例としては、静岡県裾野市があります。この地では、トヨタ自動車が自動運転技術、MaaS、AIなどの実証実験を行う「Woven City」(ウーブン・シティ)」の着工を東富士工場の跡地ではじめると2020年1月に発表。その後、裾野市も2020年5月にスーパーシティなどの特区制度の活用をみらい都市づくりに盛り込んでおり、両者が緊密に連携することで世界的に注目度の高いスーパーシティが誕生する可能性があります。なお、トヨタ自動車では、スーパーシティに指定されるか否かに関わらず、2021年初頭からWoven City着工を手がけるとしています。

この他、スーパーシティに名乗りを挙げている自治体として群馬県前橋市が報じられています。事業内容としては、マイナンバーカードやスマートフォンの本人確認などを基に前橋市オリジナルのIDを創設。このIDを活用したデジタル行政手続き、遠隔診療、オンライン授業、キャッシュレス決済などの実現を目指しているとのことです。

前橋市に近い方向性でスーパーシティ申請に意欲的と見られているのは、千葉県市川市です。同市では2020年にDX(デジタルトランスフォーメーション)を整備するため「市川市DX憲章」を制定しており、今後マイナンバーカードを補うオリジナルの市民IDの実証実験をスタートする予定です。この流れにスーパーシティ指定が加われば、日本有数の先進都市になりうる可能性を秘めています。

スーパーシティ誕生で日本全体のデジタル化が進むきっかけにも

日本初のスーパーシティが成功すれば、東京一極集中の緩和にもつながり、「東京強、地方弱」という国内の不動産市況にも影響を与えることになりそうです。それだけに、これから始まるスーパーシティ選定・決定の流れは見逃せないテーマといえるでしょう。(提供:Wealth Lounge

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