シンカー:財政拡大と金融緩和の強いポリシーミックスで、ネットの資金需要が復活し、家計への資金の流れが大きくなることは、消費需要の回復とデフレ脱却への力となるだろう。信用サイクルと設備投資サイクルが堅調であれば、雇用・所得環境は底割れず、新型コロナウィルス問題が終息に向かうなかで需要は復元し、失業率も元の水準に低下し、景気には強い回復力が生まれることになろう。このようなマクロロジックが維持できることが、景気の先行きに対する悲観論を抑制し、堅調な株価につながっているようだ。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

7月の失業率は2.9%と、6月の2.8%から上昇した。

6月は緊急事態宣言解除後の経済活動の再開もあり、失業率は2.9%から2.8%へ低下していた。

7月には新型コロナウィルス感染者が再び増加し、経済活動の再開がスムーズには広がらず、失業率も上昇した。

4-6月期の日銀短観では、政府・日銀の政策の効果もあり、中小企業貸出態度DIは改善し、信用サイクルが堅調であることが確認された。

政府の雇用調整助成金と合わせ、企業の資金繰りに対する支援が、失業率の上昇を抑制しているようだ。

7月には失業者が前月から2万人増加しているが、就業者は11万人増加し、経済政策にも支えられ、経済活動の正常化の方向に緩やかながら順調に歩みを進めているようだ。

7月の有効求人倍率は1.08倍と、6月の1.11倍から低下しているが、まだ1倍を上回っている。

更に、財政拡大と金融緩和の強いポリシーミックスで、マネーが拡大するための目詰まりが解消し、家計への資金の流れが大きくなる可能性がある。

確かに、危機に備えた貯蓄である貨幣の予備的需要が増加し、企業の貯蓄率が一時的に大きく上昇するとみられる。

しかし、これまで過度のレバレッジのような現象はなかったため、財政拡大による政府の貯蓄率の低下の方が大きく、目詰まりは解消の方向に動くのではないかと考えられる。

企業のリストラやデレバレッジが財政拡大と金融緩和の強いポリシーミックスの効果をオフセットしてしまっていないかを判断するには、企業の投資行動の強弱を確認すればよいだろう。

日本では、4-6月期の実質GDPは前期比年率-27.8%と落ちこんだが、実質設備投資は同-5.8%となり、アウトパフォームしている。

実質設備投資のGDP比率は16.1%から17.2%へ上昇した。

これまで、企業の支出行動の弱さ(企業貯蓄率の上昇)を、財政の支出の拡大で補いきれず、ネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支)が消滅してしまっていた。

需要を生み出す力、資金が循環し経済とマネーが拡大する力であるネットの資金需要が消滅している状態は、リフレサイクル(経済が膨らむ力)が弱いことを意味する。

誰かの支出は誰かの所得になるというマクロ経済の構図を考えれば、ネットの資金需要の消滅は、企業と政府の支出の合計が弱いことを意味し、家計の所得を抑制する力となってしまっていた。

実際に、ネットの資金需要と家計の貯蓄率にはきれいな逆相関が確認できる。

ネットの資金需要の消滅で家計への資金の流れが弱くなり、家計が一定の生活水準を維持することができる貯蓄率が低下し、家計のファンダメンタルズの悪化が継続し、消費需要も更に減退してしまったようだ。

財政拡大と金融緩和の強いポリシーミックスで、ネットの資金需要が復活し、家計への資金の流れが大きくなることは、消費需要の回復とデフレ脱却への力となるだろう。

信用サイクルと設備投資サイクルが堅調であれば、雇用・所得環境は底割れず、新型コロナウィルス問題が終息に向かうなかで需要は復元し、失業率も元の水準に低下し、景気には強い回復力が生まれることになろう。

このようなマクロロジックが維持できることが、景気の先行きに対する悲観論を抑制し、堅調な株価につながっているようだ。

図)信用サイクル

信用サイクル
(画像=日銀、総務省、SG)

図)ネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支)

ットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支)
(画像=日銀、内閣府、SG)

図)家計貯蓄率とネットの資金需要

家計貯蓄率とネットの資金需要
(画像=日銀、内閣府、SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司