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米国債のベアスティープ化は継続せず

エムシーピー チーフストラテジスト / 嶋津 洋樹
週刊金融財政事情 2020年9月14日号

 米国債のイールドカーブは、金融市場が動揺した今年2~3月にかけて急激にフラット化した後、スティープ化した。2年債と10年債とのスプレッドは2月21日に11.6bpと年初来で最も縮小した後、3月19日には68.9bpまで拡大した。その後は振れを伴いつつも、おおむね横ばい圏で推移している(図表)。しかし、米国景気が最悪期を脱し、その落ち込みが当初の想定ほど深刻ではなく、回復の足取りも順調との評価が広がるにつれて、米国債は今後、金利水準を切り上げながら、一段とスティープ化するとの見方が強まっている。

 特にヘッジファンド業界では、各国のファンダメンタルズを分析し、政策対応などを加味した上で取引を行うマクロ勢が、スティープ化の強まりを予想する。その理由は、①過去に類を見ないほど大規模な財政支出に伴う国債の増発を通じて長期金利に上昇圧力がかかる一方、②米連邦準備制度理事会(FRB)の積極的な資金供給やゼロ金利政策が短期金利の低位安定につながる──というものだ。そして①②の組み合わせが景気の落ち込みを緩和し、インフレの早期回復につながると主張する。

 確かに、金融緩和に伴うドル安が商品価格や米国の輸入価格の上昇を通じて、物価を押し上げる可能性はあるだろう。移動制限や都市封鎖に伴う供給網の混乱が財やサービスの需給バランスを逼迫させることも考えられる。とはいえ、それは一部に限られ、予想物価上昇率も含めた広範かつ持続的なインフレではない。

 それどころか、気温が下がる冬に向けて、新型コロナウイルスの感染が再拡大し、再度の移動制限や都市封鎖に踏み切らざるを得ないリスクも高まる。また、米大統領選は米国政治の内向き志向を一段と強めるだろう。それが外交では中国を筆頭とする諸外国との軋轢、内政では議会での与野党の対立をもたらすことは容易に想像され、不確実性の高まりが米国景気を圧迫するはずだ。ファンダメンタルズから米国債の持続的なベアスティープ化は想定しづらい。

 米国債の供給も、少なくとも年内は、持続的なベアスティープ化には力不足だ。実際、7~9月期の米国債の市中発行が4,470億ドル(TB=短期債券は5,000億ドル)の予定なのに対し、FRBは毎月800億ドルを購入している。10~12月期の市中発行はTBを含めて1.26兆ドルへ急増するものの、やはりかなりの部分をFRBが購入する可能性が高い。先行き不透明感の高まりなどで米国債の安全資産としての需要が強まれば、一時的にブルスティープ化することはあっても、持続はしづらいだろう。FRBが現行の規模で米国債を購入し続ける限り、需給面からイールドカーブの持続的なベアスティープ化を想定することは難しいとみている。

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