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貧困や格差を浮き彫りにする感染症

(WHO「Global Tuberculosis Report 2019」ほか)

第一生命経済研究所 副主任エコノミスト / 星野 卓也
週刊金融財政事情 2020年9月14日号

 新型コロナウイルス感染症は、貧困地域において感染がより拡大する傾向が見られており、「貧困病」としての性質があらわになっている。新型コロナの感染リスクの高い業種は、人との接触を伴うサービス業だ。対人サービス業は労働集約的で生産性が低く、低賃金となる傾向がある。このため、先進国の中でも「賃金水準の低い業態に就く人の感染がより多い」という関係が見られている。

 さらに開発途上国では、衛生環境の整備が進んでいない、医療体制が整っておらず健康管理を十分に行うことができないといった事情も加わり、感染が広がるリスクはより大きいと考えられる。世界銀行は、新型コロナの経済的な影響がより深刻になるダウンサイドシナリオにおいて、1日1.9ドル未満で暮らす「極度の貧困」に陥る人が1億人増えると推計した。貧困地域では感染が広がりやすく、それ故に経済への影響も集中する。感染症が貧困層のさらなる貧困化を招く構図だ。

 こうした感染症の性質は、新型コロナに限ったものではない。例えば、世界で流行した代表的な感染症の一つに結核がある。図表は、国別に2018年の1人当たりGDPと10万人当たりの結核感染者数をプロットしたものだ。一見して、結核感染者数の多い国が、1人当たりGDPの低い国に集中していることが分かる。結核は貧困国を中心に、今もなお深刻な感染症として猛威を振るっているのだ。

 結核は、日本でも19世紀後半から20世紀中ごろにかけて流行し、「亡国病」とも呼ばれていた。戦後、BCGワクチンの普及などによって患者は激減したが、それでも結核が今もなお国内で感染の続く病であることはあまり知られていない。日本の人口10万人当たりの結核感染者数は14人(18年)で、アメリカ(3人)、ドイツ(7.3人)などを上回っている。世界保健機関(WHO)は、感染者数が10万人当たり10人を下回る国を低蔓延国と定義しているが、これに満たない日本は結核の「中蔓延国」に分類されている。人の密集する都市部において、高齢者・社会的弱者を中心に感染が続いている。

 新型コロナも、将来的にワクチンの開発・普及や集団免疫の獲得を通じた克服が期待されている。ただし、ウイルスが何らかのかたちで一定の収束を見せたとしても、完全終息は難しいとみられ、貧困国・地域を中心に長く続く病となりそうだ。新型コロナは、貧困や格差という世界経済の抱える課題をあらためて浮き彫りにしている。

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(提供:きんざいOnlineより)