米国では「バーボンウイスキートークン」プロジェクトの進捗が明らかになり、証券分野のみならず様々なアセットクラスのトークン化が始まっています。
アジア市場においては、タイ中央銀行がデジタル債券(総額500億バーツ)を発行し、シンガポールにおけるシンジケート形式でのデジタル債券発行に次いで新たなユースケースが創出。
企業の株式を担保にしたSTOがこれまでは一般的とされてきましたが、実物資産のトークン化や国家的な金融プロジェクトにブロックチェーンが採用されるケースが最近では増えてきており、その最先端の事例として「デジタル証券取引所におけるCBDC決済の技術的検証」などに取り組むSIXデジタル取引所について本稿では詳しく解説していきます。
目次
Wave Financial トークン化に向けて蒸留所から1,000個のバーボンウイスキー樽を購入
これまで証券化されてこなかった資産のトークン化に向けて、様々なデジタル技術を活用したバックオフィス業務の効率化やプロジェクト全体のコスト削減への取り組みが行われています。
資産そのものの希少性の高さやその価値の裏付けが重要となることから各国の法規制に準拠するための法的要件の精査といった取り組みも重要とされています。
(不動産は株や債券とは法規制が異なるためトークン化してもセカンダリーマーケットでの取引は可能なのか?など)
最近では、フェラーリ「F12 tdf」トークンやバルセロナファントークンといったように法規制に準拠してあらゆる資産(価値)をトークン化する取り組みが各国で行われていますが、その領域は高級車からクラウドファンディングにまで及んでいます。
これらの取り組みは小規模ながらも資本市場の多様性を担っていると言え、米国の資産管理会社のWave Financialが手掛ける「バーボンウイスキートークン」はその投資価値の高さから優れたユースケースとして認知されています。
今回、Wave Financialはケンタッキー州ダンビルの蒸留所から1,000個のバーボンウイスキー樽の購入したことを発表。
バーボンウイスキーは時間が経つほどに価値が向上し、安定した利回りも特徴であることから実物資産のトークン化市場の今後を占う上でもプロジェクトの成功が期待されます。
「The Wave Kentucky Whiskey 2020 Digital Fund」と呼ばれるこのプロジェクトは、所有権(保有期間:1、2年)をトークン化する予定としており、将来的には約20億円規模(10,000〜20,000バレル)規模のトークン発行を目指しています。
現在のところ実物資産のトークン化はその新規性の高さからどのような法的要件が当てはまるのか各国においても検証が進められている段階になりますが、セカンダリーマーケットへの上場など一般投資家も気軽に投資ができるようになれば、デジタルアセット市場全体の底上げにつながるとも考えられ、市場の将来性を語る上でも非常に大きな意味を持つと考えられます。
タイ中央銀行発行のデジタル債券(総額500億バーツ)が完売
タイではToyota Leasing(Thailand)が今年の1月にサンドボックスを利用してブロックチェーン債(社債:総額5億バーツ)の発行を行うなど、証券分野におけるデジタル化への取り組みが盛んに行われています。
海外企業との協業によって7月にはデジタル証券取引所「ERX」が承認されるなど、証券のデジタル化を積極的に推進しているタイはアジア市場においても大きな存在感を示しています。
民間企業によるデジタル証券事業が展開されている中、中央銀行であるタイ銀行(BOT)は「DLT Scripless Bond Project」を実施。
1週間で50億バーツに及ぶデジタル証券(政府貯蓄債券)が購入され、総額500億バーツが完売するなど投資家が安全にデジタル証券に投資できることが証明され、債券発行プロセスの運用効率の改善といった点においても様々なメリットが期待されます。
このプロジェクトにはタイ公債管理局、証券預託株式会社、債券市場協会をはじめとしてバンコク銀行、クルンタイ銀行、カシコーン銀行、サイアム商業銀行が参加。
中央銀行によるブロックチェーンプラットフォームを活用した債券発行は、デジタル証券市場の発展に向けても非常に大きな意味合いを持つと考えられ、迅速な債券発行による資金調達プロセス全体の効率化やコスト削減を実現します。
今後は、インフラストラクチャの拡張によってすべての利害関係者のニーズを完全に満たすことを目指すとしており、今回の経験をもとによりより多くのユースケースの創出が期待されます。
SIXデジタル取引所がHyperledgerメンバーに参画
SIXデジタル取引所(SIX Digital Exchange)は、時代に先駆けた金融インフラの構築を目指し、「Initial Digital Offering (IDO)」といった現在のSTOとIPOの中間に位置する資金調達の検証や実践への取り組みを見据えています。
すべての資産(価値)の交換がデジタル化するにはまだ多くの時間が必要であると考えられますが、市場の形成は着実に進んでおり、新しい時代を見据えたSIXデジタル取引所はの取り組みは取引所ビジネスのあり方を再定義するといった意味においても非常に重要であると言えます。
2020年第4四半期にローンチが予定されているSIXデジタル取引所は、概念実証の一環として、デジタル証券(またはデジタルアセット)の決済におけるCBDCの利用に向けた技術的アプローチを模索する取り組みもスイス証券取引所(SIX)、スイス国立銀行(SNB)と共同で行っています。
国家的な研究にも携わっているSIXデジタル取引所は、今後も技術的可能性を探求する場として利活用が行われることでしょう。
また、SIXデジタル取引所は、Hyperledger認定サービスプロバイダー(HCSP)になるためのトレーニング要件を完了し、下記の企業とともにHyperledgerの新しいメンバーとなることが発表されています。
Chainstack、SIMBA Chain、Visa、NEC、SAP、Tech Mahindra、Tencent
SIX Digital Exchange事業責任者であるティム・グラントは、次のように述べています。
「SIX Digital Exchangeは、エンタープライズブロックチェーンとデジタルアセットを基盤として金融市場の進化をサポートする次世代デジタル市場インフラストラクチャの最先端にあります。」「Hyperledgerは、エンタープライズブロックチェーンの継続的な開発において非常に重要です。そのため、Hyperledgerを活用し、新しい金融商品の開発を推進するグローバルな金融市場エコシステムの形成を促進し、新たな洞察を市場にもたらすことが大切であると私たちは感じています。」「Hyperledgerを活用したデジタルアセットサービスとビジネスモデルを市場に投入し、政府、企業、個人のより良い未来をサポートします。」
以上のことからSIXデジタル取引所は今後のデジタルアセット市場においても大きな役割を担うことが予想され、証券取引所管轄のデジタル証券取引所による技術的検証は市場に新たな可能性をもたらすことでしょう。(提供:STOnline)